アンリミテッドペイン

チョーカー

放課後

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
 「さて行きましょう」
 佳那は昼休みの宣言どおり、自宅へと俺を誘う。
 その様子をいつも通りに囃し立てるクラスメイトたち。
 しかし、俺は彼らの囃し立てに反応するほどの余裕もなく、素直に佳那の後についていく。
 そのまま、学校を出て、歩いていく。
 2人とも無言だ。無言のまま歩いていく。
 そのまま、どのくらい歩いただろうか?
 おれは、ふっと芽生えた疑問を口にする。
 「今日は佳那の家に行く。そう言う話じゃなかったのか?」
 こっちは俺の家の方向だ。そもそも、あれはクラスメイトたちに向けた虚偽の発言だっただろうか?
 いや、違う。クラスメイトたちではない。
 今回の出来事の犯人。なぜだかわからないが、加那はクラスメイトに犯人がいると思っている。
 昼休みの会話。あれは、犯人をあぶりだすための罠と言った所か?
 そんな事を思考していると佳那から返事があった。
 「向かっているのは、私の家で間違いないわ」
 「そうか。俺の家と同じ方向だったみたいだな」
 「・・・・・・そうね」
 そのまま、2人して無言に戻る。
 時折、無言のプレッシャーに勝てず、話題を振るが、佳那は上の空で返事をするだけだった。
 気まずい。
 そんな、気まずい空気の中、目的地に到着した。
 つまり、佳那の自宅だが
 「近いな」
 「ええ、そうね」
 佳那の自宅は俺の家の近所だった。
 思い返してみれば、佳那と『アンリミテッドペイン』で戦った直後、俺の家の近所の公園に呼び出されたわけだが、そこは俺の家から徒歩15分以内の距離だった。
 そこで佳那は先に来て待っていたわけなのだから・・・・・・。
 まぁ、そりゃ近所に住んでいるはずだよな。
 それよりも・・・・・・。
 「どうかしましたか?ついてきてください」
 「ん?あぁ」
 俺は見上げていた視線を佳那へ戻し、その後をついていく。
 佳那の自宅はマンションだった。ごく普通のマンション。
 その立ち振る舞いや言葉遣いの良さから、てっきりお金持ちのお嬢様とばかり思っていたから、その棲家は意外だった。
 エレベーターで2階へ上がり、203号室の前。
 どうやら、ここが佳那の自宅らしい。
 「どうぞ、中へ」と誘われるまま入っていく。
 「まだ引っ越してきたばかりなので散らかっているけども気にしないでくださいね」
 散らかっているは謙遜なのだろう。しかし、引越ししたばかりなのは事実らしく、未開封のダンボールが重ねられて置いてある。
 気がつくと室内の、あちらこちらへ視線が飛び交っていた。
 これは失礼だと気づき自重する。
 「それで、どういう事なんだ?」
 「どういう事?とはどういう意味なのかしら?」
 佳那は惚けたように言う。
 「昼休みの事だ。俺の個人情報を漏らした犯人は、俺のクラスメイト。そう思っていたから、注目を浴びるような真似で犯人を煽った。そういう事だろ?」
 「うん、話が早くて良いわ。ちょっと待ってて」
 加那は俺に背を向け、机に向かう。机には小型のPCが置いてあり、佳那はそれを起動させた。
 カタカタカタカタとキーボードを叩く音。
 何を行っているのだろうか?加那の背中越しにPCのディスプレイを覗き見る。
 そこに表示されているのは、俺の個人情報が書き込まれていた掲示板型のサイトだった。
 できれば、見たくないものだが、佳那は何らかの思惑があって俺に見せようとしているのだろう。
 そして、佳那のキーボードを叩く音が止み、ディスプレイに表示されていたのは―――
 俺の個人情報ではなかった。


 『ハイトゥン・イー』
 本名 向里佳那 (むかいざと かな)
 南天昇高等学校 高校2年生  (16歳)

 佳那の情報が、彼女の写真つきで流出していたのだ。

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