アンリミテッドペイン

チョーカー

 学校の昼休み。
 普通ならば、学食で食べたり、購買部でパンの購入。あるいは家から持ってきたお弁当を食す休み時間だ。
 しかし、今日は様子が違う。ざわざわと普段よりも大きなざわめき。
 彼らは何を話題にしているのだろう?聞きたくない。だが、聞こえてくる。
 クラスメイトたちは、好奇な視線を俺に―――いや、俺たちに向けている。

 「美人の転校生。それも昨日、転校したばかりの美人転校生。
 それが、なぜ?この男はお昼を共にしているのか?
 それも、おそらくは・・・・・・
 手作り弁当を振舞われているのかッ!?」

 そんな言葉が耳に入ってくる。
 いや、俺にとっては、何で俺たちを実況してるのかが、疑問なんだが・・・・・
 「どうかしましたか?城一郎さん?」
 「いや、なんでもない」
 そう断って、彼女が用意してくれたお弁当へ箸を伸ばしていく。
 お弁当は和洋中の3種類。色取り取りのおかずが、殺風景なはずの机を鮮やかに染めている。
 「城一郎さんの好みがわからなくて、とりあえず少量で種類だけは多めに作ってみました」
 彼女は、何気ないように言う。
 しかし、俺も親が奔走していて、自炊の真似事程度はできる。
 だから、わかってしまう。
 これだけの数多くのおかずを作るのに、どのくらいの手間と時間がかかっているのかを!?
 自分の内側から何かがこみ上げてくる。
 しかし、そんな感情を覚まさせる、無粋な音がさっきから聞こえてきていた。

 カッシャ カッシャ

 その音の正体はシャッタ音だった。
 誰だ、写メを撮ってる奴は!?
 注目するのは良いけれど、写真に保存してどうするつもりなんだよ!?

 カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ カッシャ

 増えた!?

 俺は黙って席を立つ。
 「どうかしましたか?」と佳那が聞いてきた。
 「さすがに、こんな状態じゃ、ゆっくりと食べれないだろう?場所を移動した方がいい」
 しかし、佳那は首を横に振った。
 「いいえ。ここ以外では、いけません。テーブルについてください」
 その口調は驚くほど強かった。そして、その目は鋭い。
 『ハイトゥン・イー』のアバターが、彼女の姿とオーバーラップして見えた。
 戦っているのか?今、彼女は戦っている。
 そうか。だから、彼女は席でもなく、椅子でもなく、テーブルと表現したのだ。
 話し合いのテーブル?いや―――
 俺は「わかったよ」と一言だけ告げ、戦いのテーブルへ戻った。

 ここで、リアルな学校の教室で、彼女は何かを行おうとしている。
 それは何か? 今、その疑問を言葉に変えて発しても、彼女は答えてくれないだろう。
 それどころか、それを俺が彼女に聞くと同時に彼女の思惑は失敗に終わる。
 俺は佳那の出方を待つ。

 「そういえば、例の件はどうしすか?」
 「例の件?」
 「城一郎さんの情報の件ですよ。ホームページを管理している所へ削除依頼は出しましたか?」
 「!? いや・・・・・・ こういう時、どうしたらいいのかわからなくてな」

 正直に言う。俺は困惑していた。
 佳那の目的。それは俺の流出した個人情報についてだとわかってしまったからだ。
 つまり、佳那は、クラスメイトに犯人がいると結論付けしているということだ。

 「そうですか。早くした方がいいですよ。こう悪質な場合は、警察や弁護士にも伝えたほうがいいのではないでしょうか?」
 「いや、運営側には連絡しているけど、あまり大事にはしたくない・・・・・・かな」

 佳那は犯人にプレッシャーとかけるために「警察」や「弁護士」というキーワードを出している。
 それはわかっているけれども、俺の方が怖気づいてしまい、否定的な言い方になってしまっている。

 「そうですか。しかし・・・・・・やはり畏まった話はお昼を食べながらするものではありませんね。続きは放課後。あっ、城一郎さんは放課後、空いてますか?」
 「あぁ、今日は暇だ」
 「では、学校が終わったら、続きは私の家で行いましょ」
 「ん?あぁ・・・・・・」

 どうやら、この件の話は終わったみたいだ。
 結局、彼女の目論見は何であり、成功したのか?失敗したのか?
 それは、放課後までお預けになるみたいだ。
 それはそうと・・・・・・
 「そういえば、加那」
 「はい?」
 「話に夢中になって、言い忘れていたけど。料理、うまいんだな」

 俺は、そう感想を告げると、彼女は恥ずかしそうな、はにかんだ笑顔を見せた。


 

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