アンリミテッドペイン

チョーカー

朝 

 夜が明けて朝が来た。頭がボーとする。
 あまり、眠れなかったと思っていたが、時計を確認すると十分過ぎる睡眠時間だった。
 そう言えば、昨日は徹夜明けだったな。
 1階へ降りる途中、階段から足を踏み外しそうになった。
 まだ寝ぼけている。頭が働いていないみたいだ。
 顔を冷たい水で洗って、寝ぼけた頭を引き締めさせる。
 朝ごはんを食べ終えて時間を見る。学校まで、まだ時間が少しあった。
 俺は庭に出て軽く体を動かす。
 体の動きは・・・・・・悪くない。
 向里佳那との戦い。リアルと現実の2連戦。
 若干、体に疲労感が残っているが、戦いの後の気だるさは嫌いじゃない。
 体を動かし終えると、俺は家に戻り汗をシャワーで落とした。
 さて―――
 学校へ向かう準備を終えた辺り、家のチャイムが鳴り、訪問者を告げる。
 この時間に誰だ?
 そう疑問符を浮かべ、玄関を開くと―――
 向里佳那がいた。

 「おはようございます。城一郎くん」
 「あぁ、おはよう・・・・・・」

 さすがに、告白された同級生と朝から会うのは気恥ずかしいものがあって・・・・・・
 「えっと、向里さん?何か用かな?」
 「用がないと会いに来てはいけないのかしら?私は、一緒に登校してみたかっただけなのだけれども。だめなのかしら?」
 「いや、だめじゃないけど。うん、用意するから少し待ってて」
 そう言って、家に戻ろうとする俺を彼女は呼び止めた。
 「それと・・・・・・名前」
 「ん?名前?」
 「苗字じゃなくて、名前で呼んでもらえないかしら?佳那って」
 「おっおぉ。じゃ、か、佳那?」
 「はい。城一郎さん」

 家の中へ入り、玄関の扉を閉める。
 たぶん、俺の顔は真っ赤に染まっているはずだ。心臓はバクバクと音を上げている。
 ただ、下の名前を呼ばれただけ。それだけのはずなのに・・・・・・
 なんていう破壊力。
 俺の名前を言った、あの瞬間、彼女が見せた恥ずかしげな、はにかんだような表情。
 正直、かわいいと思ってしまった。
 精神を、心を、魂を、根こそぎ持っていくような破壊力だった。
 俺は、深呼吸を何度も繰り返し、平常心を持ち直させる。
 「よし」と心を落ち着けさせ、学校の準備を終わらせ。再び玄関を開く。
 「おまたせ、佳那」
 「はい、城一郎さん」

 2人並んで、道を歩いていく・・・・・・。
 あれ?なんだ?
 なんで俺たち、すでに付き合っているみたいになっているんだ?
 いかん、見える、見えるぞ!?
 このまま、ずるずると付き合っていくビジョンが!
 いや、それも悪くないと思っている俺もいるんだけど・・・・・・

 「あれ?おはよう佳那ちゃん。どうしたの?こんなところで」
 一瞬で、思考が現実に戻された。
 この声は・・・・・・ 
 春日あかり。
 俺の幼馴染であり、同級生で、クラスメート。
 そして、俺を嫌っている女の子。
 佳那と話している最中でも、俺を一瞥すらしない。
 その一方であかりと佳那は、普通の仲がいい同級生のように会話を楽しんでいる。
 俺は、まるで2人とは、別空間にいるかのように、自分が場違いに感じてしまう。
 「それじゃ、私は先に行くね。ごゆっくり~」
 あかりは駆けて離れて行った。

 「城一郎さん、城一郎さんはあかりさんに嫌われているのですか?」

 佳那の容赦ない一言がグサッと胸に刺さった。
 「お、おう。昔は幼馴染で仲は良かったんだけど・・・・・・今は、ご覧のとおりだよ」
 「・・・・・・そう、なんですか」

 どこか佳那の言い方は、何か感情を含んだ感じになっていた。
 俺は、それに気がついていたが、あかりの話題をこれ以上、延ばしたくなくて、気がつかない振りをした。

  

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