アンリミテッドペイン

チョーカー

悪意ある人間の足跡

 「これは流石に・・・・・・」
 これは流石に、俺のキャパシティを超えていた。
 ほんの数分前まで、彼女が俺の事を知っている理由に興味がなかった。
 いや、興味を失っていたと言った方が正しい。
 しかし、これは、さすがに・・・・・・
 ヤバイ、震えてきた。
 「これで私は、『痛み傷ペインウーンド』 いいえ、貴方の事を知ったのよ」
 向里佳那の声色は、いつもと違い優しげなものに変わっていた。
 「これで私は、貴方を知り、貴方に会いに来たの」
 「なんのために?」
 俺の頭は混乱している。他に聞くべき事は沢山あるはずなのに、出た言葉はそれだった。
 「よく使われる『現実にリアルティを感じない』世代。私もそんな感じだったわ」
 それは意外な言葉だった。

 向里佳那。
 彼女の印象を一言で言うなら「凛としたイメージ」
 毅然としていて動じない女性。何でも卒なくこなしそうで、出来るって感じか?
 しかし、彼女が転校してきたのは昨日。まだ出会ってから36時間くらいしか経っていない。
 そんな彼女の内面を正確に判断できるなんて、超能力でもない限りは無理だろう。

 「私も何かに夢中になりたかった。のめり込みたかった。そうじゃないと、現実に絶望しそうになって、焦って自分を見失って・・・・・・

 彼女は自分の感情を吐き出すように喋る。
 おそらく、彼女は、転校する前に学校で何かがあったのだろう。
 現実を直視できなくなるほどの何かが・・・・・・
 「そんな時に貴方を見たのよ」
 「俺を?」
 「ええ」と彼女は頷く。その彼女の表情は、さっきまで苦しさを秘めていた表情とは一転して、どこか・・・・・・
 どこか、そう。
 晴れやかな笑みだった。
 「たぶん、おそらくだけれど・・・・・・。貴方は『アンリミテッドペイン』で自分を追い込まないと、生きてるって実感を持てない人間じゃないのかしら?」
 俺は無言で頷く。
 「やっぱり、そうなのね。でも・・・・・・
 貴方を見る事。その事自体が生きがいになっている人もいるのよ?」

 「俺が―――ッ!?俺が他人に取っての生きがいになっているって事?」
 「そうね。少なくとも私にとっては、貴方は生きがいになっているわ」

 それは俺が考えてもいなかった言葉だった。
 生きがいを求めて戦っていたはずの俺が、他者の生きがいになっている。
 どこか、気恥ずかしさがあり、顔が熱くなっている。
 そして、彼女はこう付け加えた。

 「ずっと、貴方のファンでした。付き合ってください」




 夜、ベットの中で目を瞑りながら、いろいろな事を考えていた。
 最初に思い出すのは、向里佳那のアバター『ハイトゥン・イー』との戦い。
 攻撃の1つ1つが鮮明に思い出される。
 あの技が強かった。うまかった。あの動きは、今度真似してみたい。
 そんな考えが次から次へと溢れて来る。
 あの後、うやむやになったけどリベンジマッチは絶対にやりたい。

 次に向里佳那から突然の告白。
 その場で答える事はできず、返事を待ってもらった。
 実を言えば、女性から告白を受けたのは人生で初めてだった。
 「どうすればいいんだろ?」
 確かに向里佳那は容姿端麗。美人以外の表現は難しい。
 俺の人生で、こういう機会がいくつあるだろうか?
 いや、たぶん、これが最初で最後だと思う。
 だったら・・・・・。
 でも、互いにどんな人間か、詳しいことは知らないんだぜ?
 逆に言えば、それを度外視しても良いほど、彼女は俺と付き合いたいと?
 急に体温が上昇した。
 う~ん。女性から告白を受けるというシチュエーションに憧れがないわけではなったのだが・・・・・
 意外とプレッシャーがあるのだな。
 いや、そもそも付き合うってどういう事なんだ?清い男女交際? 
 「正直、よくわかんねぇよ」
 口から強い溜息が漏れた。

 最後に浮かんだのは、俺の個人情報がネット上にアップロードされていたという事だ。
 その情報は、俺から見ても正確なものだった。間違いなく、俺の近場の人間から流出されたもの。
 一体、誰が?どんな目的で?
 学校のクラスメートには、俺が『アンリミテッドペイン』の上位ランカーだと知っている者はいない・・・・・・はず。
 じゃ、親族か?
 まさかな。
 親父は『アンリミテッドペイン』なんて言葉を知っているか、どうかすら怪しい。
 しかし、親父を通してた第三者が、何らかの方法で俺=『痛み傷』と突き止めた可能性も0ではない。
 いや、それを言い始めたら、俺に近い立場の人間なら、誰にでも可能性はあるという事になってしまう。
 疑い始めたら限がない。
 しかし、誰がやったのかは突き止めないといけない。
 そいつは、俺に対して明らかな悪意を持って行った行為なのだから・・・・・・。

 

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