アンリミテッドペイン

チョーカー

最後に生まれた疑問 そして始まる闘争へ

 目を閉じ延々とイメージトレーニングを続ける。
 脳裏に浮かべた『ハイトゥン・イー』の動き。
 素早く、細かい蹴り技。
 不意を突かれると蹴り技は連続技へと変化し、大技のコンボが俺を襲う。
 どう対処する?一瞬の選択肢。判断ミスが勝敗を分ける。
 こうすればああなる。ああすればこうなる。
 連続して現れる選択肢の数々。それを紐解き、謎を解いていく。
 この作業はまるでパズルのようで・・・・・・

 「5、4、3・・・・・・」

 俺はカウントダウンを口ずさむ。そして、数字が0になった瞬間に目を開いた。
 時刻は午後6時50分。向里佳那との約束時刻の10分前だ。
 目を開くと同時にタブレット端末に手を伸ばす。
 ワンテンポ遅れて、事前に入力していたアラームが音を上げた。
 結局、昨日から一睡もしていない。俺の連続稼働時間は36時間くらいは越えている。
 しかし、不思議と調子は悪くない。いや、むしろ良いくらいだ。
 そう言えばこんな話を聞いたことがある。
 裏社会の賭け麻雀の世界で20年間無敗だったとも言われる人物は、億単位の金が動く大勝負の時は、一睡もせずに挑んでいたとか・・・・・・。
 なるほど、神経が研ぎ澄まされていく感覚。五感が異常に鋭くなっている。
 一方で、こんな話も思い出した。
 現在でも格ゲー界の伝説とも言われている人物がいる。彼の60年ほど前の話。
 徹夜明けで大会に挑むと調子が良いことに気がつき、徹夜によって神経を研ぎ澄まし、大会に挑もうとした。
 ――――――結果。
 朝方、寝落ち。大会には大遅刻をかましてしまったとか・・・・・・。

 うん・・・・・・。
 まぁ、普通にあり得る話だ。
 とても現実的で教訓として生かせねばなるまい。

 

 さて、俺は外部出力機をPCに接続させる。
 ベットに横になり、外部出力機の電源を入れる。
 スイッチを「OFF」から「ON」へ。
 次の瞬間、まるで睡魔に襲われているかのように意識が混濁していく。
 徹夜の反動が現れたわけではない。
 まるで肉体から俺の魂だけが抜き取られて、別の器に入れ替えられているような感覚。
 魂?精神?心?とにかく―――
 そういった物が『アンリミテッドペイン』の世界と繋がっていく。
 どういうメカニズムなのか、わからない。

 「なぜ車は走るの?」とか

 「なぜ電話は離れた相手をお話できるの?」とか

 「どうしてテレビは・・・・・・」とか

 そんな事を疑問に思う人間がどのくらいいるだろうか?
 俺たちは、現代科学をありのままに受け入れている。
 それは良い事なのか?悪い事なのか?
 気がつくと俺の肉体は、俺のアバターである痛み傷ペインウーンドに変化を遂げていた。
 がらんどうな空間はまだら模様に変化していく。
 俺は「野試合モード」と口にすると、変化はより大きくなっていく。
 視界の端。野試合を待っている選手のアバター名がずらっと連ねられる。
 事前に向里佳那から送られた部屋名とパスワードを音声入力によって検索した。
 空間に「該当1件」と大きな文字が表示される。
 その下には「YES/NO」の二択。
 ここで「YES」と呟けば、向里佳那のアバターである『ハイトゥン・イー』が待っている空間へ飛ばされる。

 
 広がる空間。荒廃した廃墟が広がっているステージ。
 ランキングマッチのような観客もいない。派手な演出もない。
 ただ、これから戦う者2人だけが向かい合って存在しているだけだ。
 向里佳那は『ハイトゥン・イー』だった。
 ここまで、当たり前の前提として向里佳那=『ハイトゥン・イー』として語っていたが、もしかしたら全く違うアバターが目前に現れていた可能性も0ではなかった。
 時刻は6時55分。試合開始の予定まで残り5分。
 向い合う俺と彼女。
 最初に口を開いたのは俺の方だった。

 「あと5分だな」
 「―――そうね」

 ただそれだけで会話は止まってしまった。
 いろいろと聞くべきことがあるはずだが、うまく言葉にできない。
 例えば「俺が勝てば、どこで俺の個人情報を入手したのか教えてくれるんだな?」とか確認すべき事はいくらでもあるはずなのに・・・・・・。
 ん?なんだ?今・・・・・・
 何か、引っかかりを覚えた。
 今の俺自身の思考で、何かおかしな部分があったはずだ。
 それは何か?俺は、何が、どこが気になったんだ?
 両者無言のまま、1分2分と時間は過ぎる。
 集中力を高めないといけない時間。
 しかし、突如として湧き出た疑問が棘のように刺さって、集中力を妨げる。
 ついに俺は芽生えた疑問を言葉に変え彼女に向けた。

 「なんでお前は俺を襲ったんだ?」
 「―――っ!?」

 不意な質問を受けて、彼女は明らかに動揺の色を隠せずにいた。
 しかし、それも一瞬の事。すぐに平常の様子に戻った。

 「それは昨日、言ったはずだけど?覚えていないのかしら?」

 確かに・・・・・・。彼女は俺を襲った階段で理由を話している。
 しかし、その理由が納得できるものか、どうかは別問題だ。
 彼女はあの日、階段でこう言ったのだ。


 「よく言うでしょ?『アンリミテッドペイン』の上位ランカーはリアルで戦っても強いのか?・・・・・・ってね」


 彼女の目的は俺とリアルで喧嘩をする事だったのか?
 ではこの状況は何か?
 『アンリミテッドペイン』で戦うとしている現状は彼女の目的と大きく離れているのではないか?
 それも―――
 俺はさらに沸いて出た疑問を口にした。

 「本当に俺と現実で戦いたいために、転校してきたのか?」
 「―――――――――ッッッ!!?」

 彼女の精神は大きく揺さぶられている。
 もう、彼女のメンタルは砂上の城と表現してもいいかもしれない。
 もう少し、もう少しで、何かに手が届きそうな感覚。
 しかし、その前に時間切れを告げられた。

 現在の時刻7時00分。

 ついに戦いが、闘争が始まる。 

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