≪インフィニティ≫ ~日常編~

巫夏希

かしわもち

「こどもの日?」

 マーズは首を傾げて俺の言葉に耳を傾ける。

「そうそう。そういうのがあるんだよ。子供の健康を健やかに祝う……だったっけな? 詳しいことは覚えていないんだけれど、柏餅とかを食べるんだよね」
「柏餅? それはいったい?」
「柏の葉……ええと、オークとでも言えばいいのか? それに餡を包んだ餅を包むんだよ。これが美味くてなあ……。毎年コンビニで購入していたよ」
「コンビニ、ねえ……。異世界ってほんとうに物がたくさんあったのね。あなたの話を聞いていると、ほんとうに面白いことばかり」

 マーズはそう言って俺の発言を書き留める。
 マーズは俺の世界のことに興味津々で、時折こういうことを聞いてはノートに書き留めている。

「なあ、マーズ。そんなに俺の世界のことって面白いのか?」

 俺はマーズに訊ねたことがある。

「当ったり前じゃない! あなたの世界を聞いてて楽しくないことなんて無いわ! 楽しいことだらけよ! この世界に無い食べ物もあるし、習慣もあるし!」
「成る程ね」

 俺はそれを聞いて微笑んだ。
 マーズの笑顔を見ていて、俺もとても楽しかったからだ。
 俺はマーズの笑顔をもっと見たい――そう思うようになった。


 ◇◇◇


「柏餅を食べさせたい、と?」
「頼む!」

 俺は一番料理の上手いコルネリアに頭を下げていた。
 ここは起動従士訓練学校の家庭科室。
 要するに調理環境がある場所である。

「……いいけれど、私、柏餅のレシピ知らないわよ?」
「餅にあんこを包んでくれればいい! オークの葉っぱは持ってきた」

 笊にてんこ盛りになったオークの葉っぱを見せる。
 コルネリアは溜息を吐いて、それを見つめる。

「まあ、いいか。別に私が作らないことでデメリットがあるわけでもないけれど、私が作ることでデメリットも無いし」
「ありがとう! コルネリア!」

 俺は思わずコルネリアの手を握っていた。

「……べ、別にいいわよ。そんな気にしなくて」


 ――コルネリアは顔を赤らめていたらしいが、その時の俺は気付かなかった。




「……で? 柏餅の作り方は?」
「あんこを餅で包めばいいだけだろ? 餅は用意してあるし」
「……私を呼んだ意味は?」
「……人材?」
「私、帰ってもいい?」
「ごめん! ごめんって! あとでお金とかそういうの出すから!」




 ……その後、コルネリアが随分とごねて柏餅を作るのに予定の倍以上時間がかかってしまった事と、コルネリアと一緒に柏餅を作ったことを知ったマーズが拗ねてしまった事は、また別の話である。

コメント

  • ノベルバユーザー601496

    大きな出来事が始まるこの作品。
    嘘をつく時は覚悟を持ってつかないと後悔することがわかるかも。

    0
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