8月31日の冒険

巫夏希

8月31日(日) 12時

「びっくりしたよ。それにしても急に降りてくるなんて」
「いや……それは済まなかった」

 アッシュとエフ、カイトにカオリと紅は遊園地に来ていた。どうしてここに来ているかというとここなら何かあっても障害物がかなり多いため逃げやすいと思ったらしい。

「なるほどなあ……考えたね」

 アッシュの言葉を聞いてカイトは笑みを浮かべる。

「……さて、カイトくん。少し三人で話をしないかい? 大丈夫、小さくする薬なんて飲ませないよ」
「アポトキシン4869?」
「なんで隠したのにあえて言っちゃうかなあ!」

 アッシュはそう言って地団駄を踏む。

「まあいい。こいつはアニメオタクでね。それくらいの知識解らなくても当然だ。……さて、少し離れるよ。大丈夫、心配しないで。アッシュがついている」
「え?」
「お前と話すとまともな話もおちゃらける。解るな?」
「うーん、しょうがないね」

 アッシュはそう言ってオレンジジュースをストローを通して飲んだ。



「……さて。これから話すのは重要なことだ。お前の選択によって未来が決まると言っても過言ではない」

 エフはカイトと一人になって、唐突にそう言った。

「それってどういうことだよ……」

 カイトは困惑する。
 当然だろう。
 小学生にそんなことを言って困惑しない小学生などいない。

「いいか。未来が変わるかもしれないんだ。俺たちは未来を正常に進めるためにやってきた、いわば特派員だよ。だから話を聞いて欲しい」
「うん……」

 未だにカイトは冗談だと思っているが、エフはこの際どうでもよかった。話さえ聞いてくれればいいと思っていた。
 そしてエフは、真実を告げる。

「……お前は今から、紅圭織と七草カオリ、どちらかを選択しなくてはならない……が、はっきり言おう。七草カオリを殺さないと我々に未来はない」
「……は?」
「矢継ぎ早に言って申し訳ないが、これから数年後七草カオリはある研究をする。タイムマシンだ。それを高校生で開発し、実現してしまう。そしてそれによって世界は過去改変がおき、大きなスペクタクル……いいや、違う。災害を巻き起こす。それによって様々な技術が開発されることになる。ロボットがいい例だ。これから二十五年後……世界はロボットの反乱で崩壊へと導かれる。そのロボットのオペレーティングシステムを開発したのは……ほかでもない七草カオリだよ」

 彼にとってエフの言っていることはまったく理解出来ないことだろう。
 でも、これは真実だった。紛れもない事実だった。

「……どういうことだよ、それ」
「ああ、安心しろ。七草カオリを殺したあと記憶を抹消する。全世界の人間の、七草カオリに纏わる記憶を、な。これも未来の七草カオリが開発した研究だよ。彼女は自分の開発した研究によって自らの存在を抹消されることになる……といってもいいだろうな」
「なあ……もし俺がノーと言ったら? そしてこれを俺に言った理由は?」

 エフは黙ってしまった。
 カイトはエフの腹を殴った。弱い攻撃だったから、エフには何のダメージも与えられなかった。

「……なあ、答えろよ。俺がノーと言ったらどうなるんだよ」
「……俺が黒いコートを常に着ている理由を教えてやろうか、カイトくんよ。未来はな……とても寒いんだよ。七草カオリはあまりにも地球に悪影響を及ぼす研究をしすぎた。だから日本は冬しか現れなくなっちまったんだよ。四季もクソもあったもんじゃない。……それを聞いただけでも、解ってくれるだろ?」
「……解んねえよ。それってつまり……未来のためにカオリちゃんを殺せってことだろ」

 エフは頷く。
 それに猶予など無かった。

「そして……それを拒むものだっていた。それがあの殺人鬼だ。あいつは君を殺そうとしている。ついでに言うならば、紅圭織もね」
「……どうしてだ」
「紅圭織と君は七草カオリ死後結ばれることになっているからさ。それにきみは救世主として崇められることになっている。世界の大半が君の名前を知って、世界の大半が君の行動に尊敬する。そんな世界がやってくるんだよ」
「素直に……信じられねえよ」

 エフはただカイトを見つめるだけだった。
 エフは溜息を吐く。

「……解った。なら、一時間猶予を与えよう。十三時までここにいる。そしたら結論を聞くよ」

 カイトが頷く暇もなく、エフは去っていった。


 ◇◇◇


「……どうだ、エフ。様子は?」
「微妙だな」
「そうか……大変そうだな」
「小学生に世界の意志を背負わせるんだからな。重圧は半端ねーよ」
「だろうなあ」
「でも……世界は彼に握られている、と言っても過言ではないし……彼には幾らか頑張ってもらわないとな」
「ああ」

 そう言ってエフとアッシュはグラスを合わせた。

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