8月31日の冒険

巫夏希

8月31日(日) 9時

「待った?」
「いいや、俺も来たばっかり」

 そう言って俺は笑みを浮かべる。よし、第一印象は完璧だ。
 対してカオリちゃんはもっと完璧。ベリーキュート。どっかの漫画の主人公の前口上を借りるならば、『心が身体を解き放てこそ、凛々しくそびえる美しさ』ってやつ。まあ、もとからカオリちゃんは可愛くて仕方ない。今日なんかツインテールだ。ポニーテール派の俺が鞍替えしちまうくらい、強烈に可愛い。

「……ところで、どうして俺と今日会うことになったの? 夏休みの宿題とかならいつでも手伝えるよ?」

 できる男をアピールする。完璧だ。完璧すぎる作戦だ。天の声か知らないが、頭上から「どこがだよ!」ってツッコミが聞こえたようなきがする。気のせいだ。
 カオリちゃんは俺の言葉に首を横に振る。

「ううん。違うのよ」
「違う?」
「そう。あなたを呼んだのは、そんな理由じゃない。もっと大事な理由」
「大事……?」

 心がどくん、と高鳴った。
 なんだろう。この気持ち……昔そんな歌があったような気がするけど。

「あのね、私……」
『ちょいと失礼するぜ?』
「……えっ?」

 声が聞こえた。
 俺とカオリちゃんのあいだに入る、雑音が。
 ノイズと言ってもいいだろう。現に、その声はそのような声だったから。
 なんだというのだあの声は。そう思って横を向いた。


 ――目の前に、トラックが迫ってきていた。


 俺は、何もすることができないまま、彼女ごともろにトラックに激突した。

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