「魔王様」の定義

神無乃愛

翔くんとルーちゃん その10


 大体の知識は手に入り、「お土産」として翔は魔剣と二つの木刀を、そしてフィルヘイドは簪をもらってエーベル王国へ帰還した。

 それからフィルヘイドは研究を続けていた。

 翔がこちらの世界へ来て早数年、向こうで「成人」する歳になっていた。
「ごめんね、かけちゃん」
 未だに研究が進まないことに、フィルヘイドはいつも謝っていた。
「気にすんなっての。俺も楽しんでるし。それに、いつか成功するんだろ? そん時、俺の外見も元に戻ってれば何も言わない。ってか、同い年のやつらより人生経験豊富っていい話じゃんか」
 既にこちらの生活に慣れてしまっていた翔るからしてみれば、そんなものである。

 ついでに、剣で戦う方法を騎士団の方々に習っていたりもする。
 ただ、両手剣の扱いは難しいため、レイピアが主流だが。
「カケル殿は相変わらず奇抜な動きをされる」
 騎士団長に半ば嫌味がてらそんなことを言われた。
「……それは俺が特殊だからです」
 あまり言いたくないが、そんなものである。
 ここ数年で何度も命の危険にさらされた翔にとって、剣は己を守るモノでしかない。るかられるか、この世界はそんなものである。
 だから、訓練も手を抜かない。

 昨年、ルシファーも魔界へ帰り、フィルヘイドも中央神殿神官長としての仕事と王族としての仕事があり、翔だけが取り残されている感じもしてしまう。

 それが少しばかりつまらない。
 それだけである。

「あれ? カケル殿、どちらへ?」
「冒険者に混じって仕事して来ようかなって。俺だけ暇だし」
「あぁ。盗賊が出たとか。ギルドにも討伐依頼が出てましたね」
 冒険者ギルドというものがあったとしても、平和な今、依頼は遠くへ行く時の護衛をどうしても出てくる盗賊と討伐くらいなものである。
「フィルヘイド殿下に伝えておきます」
「よろしく」
 誰もが翔に気をつかう。
 仕方ない。
 それは分かっている。

 だが、それが辛い時もあるのだ。

 それから数年後、フィルヘイドは召喚魔法と対になる帰還魔法を成功させた。


「じゃ、気をつけて。ルーちゃん殿下も一緒に発動させてくれるから、絶対に失敗はないよ」
 こちらに来た時同様の服に着替えた翔に、フィルヘイドが声をかけてきた。
 服はつんつるてんな上に、きつくなっていた。
「そっか」
 沈黙が重かった。
「ごめんね、かけちゃん」
「謝るなよ。……俺、この書物貰ってっていい?」
「かけ……ちゃん?」
「俺も研究したい。俺の力で今度はこっちに来たい」
 二つの世界が同じ時間で進めばいつも行き来できるかもしれない。そうしたらまた、フィルヘイドやルシファーとまた会えるかも知れない。
 翔にとってそれが「希望」だった。
「うん!」
「それまで、この木刀と魔剣預かっててよ」
「翔、魔剣くらい持って行け。お前がこちらの世界へ自分の意思で来れた時に、通行証に位なるようにしておく」
 ルシファーの言葉に翔の瞳から涙がこぼれてきた。
「……あり……がと。また来るから!!」
 それだけ言って、翔は魔法陣の中へ入っていった。


 気がつくと、引き摺られた時と同じ場所にたっていた。

 夢だったのか? そう思えたほうが楽だっただろう。
 手には魔剣を握り締め、鞄の中には異世界の書物がたんまりと入っていた。

「フィル……ルーちゃん……」
 自分だけ置いてけぼりにされた感じがして、なんだか嫌だった。

 幼馴染たちに言ったところで、誰一人信用しないだろうと思っていたが、意外にすんなりと受け入れられた。
 魔剣と書物の存在だ。

 だが、この二つは翔以外の友人たちはすぐに忘れ去ってしまった。

 だらか、一人でずっとあちらにいる「友人」に会うため、こっそり頑張り続けていた。

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