「魔王様」の定義

神無乃愛

翔くんとルーちゃん その5


「ここから先が魔界になる」
 とある山の麓にある洞窟の前でルシファーが言った。
「へぇぇぇ」
 そこから扉を開いて魔界へ進んだ。
「一応瘴気があるが、人間に影響を与えるようなものではない。だから大丈夫だ」
 ルシファーの言葉に従い、魔王城へと進んでいく。
「部族ごと後で紹介する。まずは現魔王陛下にお目通りする」
「りょーかい」
「現魔王ってルーちゃんのお父さんじゃないの?」
「違う。我は皇子になるが、皇太子は別におる。……それに魔界において一番魔力の強い者が魔王陛下になる」
「どういうこと?」
 ルシファーの答えは、いまいち意味が分からなかった。
「一応魔王になる候補というのが何名もいて、それが『皇子』と名乗る。その中で一番魔力が高いものが『皇太子』という特別な位置に準ずる。
 魔王陛下はそれよりも高い魔力を持っている。魔力の衰退と共に皇太子に譲るか、皇太子が陛下を倒して次代の王となる。
 我は皇太子を含めて五番目に強い魔力を持っている。だからこそ交換留学が出来るというわけだ」
「うっわぁ、ある意味下克上だ」
「そうであるな」
「だから、魔界の皇子は誰にも真名を教えないんだ。真名で縛られる可能性があるからね」
 何とか納得できたところで、翔は周囲を見渡した。
「活気あるね」
「当然であろう? 現陛下は即位して間もなく千年は経つ。それくらいの長い年月を御一人で治めるなど、到底出来ぬ。その間にも皇太子は何度か変わっておるがな」
「返り討ち?」
「左様。おかげで我の即位順位も少しばかり上がったわ」
 さらりとルシファーが恐ろしいことをはいた。
「五十年ほど前に阿呆が皇子がおってな、候補としては十二番目くらいであったか。……陛下の寝首をかこうとして、瞬殺されたわ」
「命知らず?」
「そうとしか言えぬな」
 物騒な会話をしながら、三人は魔王城へ向かっていった。


「よくぞ参られた。エーベル王国の王子と異世界からの客人よ」
 玉座からかなり離れているはずなのに、凄まじい力を感じた。玉座に座る男こそ、魔王なのだろう。
「……初めまして」
 フィルヘイドも既に、魔力にあてられていた。
「陛下、おいたはおやめくださいませ」
 ルシファーが呆れたように誡めていた。
「ふむ。第五皇子よ、そなたはだいぶ人界に馴染んでおると見えるな。よき事よ」
 次の瞬間、威圧感が一瞬にしてなくなった。
「あまり長い時間は滞在出来ぬであろうが、のんびりと寛がれるがよい」
「ありがとうございます」
 フィルヘイドが礼を述べると、魔王はあっさりといなくなった。

 そのあと、三人で城下町の宿屋に泊まることにした。

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