「魔王様」の定義

神無乃愛

翔くんとルーちゃん その3


 ルシファーは一応「留学」という名目でエーベル王国に世話になっているらしい。そしてフィルヘイドはエーベル王国の第三王子だというから驚きである。
 二人と一緒に学校に通うようになり、翔も充実した異世界ライフを送っていた。
「言葉は分かるんだけどな~~。読めない」
「多分、自動翻訳だろうね。私にもかけちゃんの言葉はこちらの世界の言語で聞こえてるし」
「え? こっちの世界って……」
「単一言語だよ。魔界に行こうが、同じ言語。勿論、文字も一緒」
「俺だけ!? 分かんないのって」
「そういうことだね。……というわけで、かけちゃんは私にニホンゴを教えること。それから文化ね。その代わり私とルーちゃんでこちらの文字と文化を教えるからさ」
 こちらにいる以上、避けて通れないと思っていた翔はあっさりその条件を飲んだ。

「それってどういう理屈でそうなるの?」
「だから、高校生には分かんないっての!」
 本日は「電話」の話をしていた。公衆電話とか、家にある電話とか……色々だった。折りしも、コードレス電話や留守番電話、ファクシミリというものが出始めた時期である。「そういったものがある」という認識しかしていない、翔に説明など無理である。
 ちなみに、前回は「電気」で議論していた。これまた翔が説明できるはずも無く、白旗を揚げたばかりである。
「またやってる」
 級友たちが笑ってみていた。
 文化の話……着物とか、そういったものに対して翔はあまりにも興味が無かった。民族衣装として教えたが、それで終わっているのだ。教えられたのは、折り紙と将棋、それからチェスくらいなものである。ルシファーやフィルヘイドは将棋よりもチェスの方がやりやすかったと見えて、そちらにはまっていった。
「しかし笑えるね。キングよりも女王クィーンの方が強いのか」
 そう笑いながら、ルシファーとフィルヘイドは駒を動かしていく。ルールが違ったりすれば、注意してやる。
 あと教えたのは、剣道とか空手とかそういった武術的な部分だけだ。
 華道、茶道とかは教えることなど出来ない。
「かけちゃん、どうした?」
「いや、十数年生きてきてさ、自分の国のこと何一つ分かってなかったなって思っただけ」
「仕方ないんじゃないかい? そんなものだよ。遠くに行かないと、この国にあるいいものが見えない」
「フィル……」
「本当はね、私が異世界に渡りたかったんだ。そのために研究していただけなんだよ。ただ、私ひとりの力では無理で、ルーちゃん殿下に頼んだんだ」
「汝ひとりで出来るものではない。人の領分ではない」
 ルシファーが話に入ってきた。
「だからさ、かけちゃんが知ってる範囲でいいから色々もっと教えて欲しいんだ」
「それくらいなら、お安い御用だ」
 何故? どうして? という疑問以外なら何とか答えられるだろう。

 これが翔の人生において何よりも役に立った。


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