「魔王様」の定義

神無乃愛

魔王様と娘たち

「人間風情に遅れを取って余の役に立たぬとは……使えぬものは要らぬ」
 アザゼルの首を軽く蹴り上げ、そして術で燃やした。
 達樹に魔法耐性はない。だから干渉を受けないはずだ。それなのに、この男からはすさまじい干渉を受けてしまう。
「汝が来ておったか……アザゼル如きでは勝てぬであろうな」
「?」
「『伝説の勇者』が何故異世界の住民となっているか知っておるか?」
 ソルトが達樹の前に立った。
「我が王に手を手出しはさせぬ。魔王よ」
「汝も久しいな。ギルタブルルのソルトよ」
「……ソルト、さがって」
 流石にここを守りきるのに、達樹たちだけでは力不足だ。
 だが、ソルトは動こうとしなかった。
「王よ、我らは王を守るために存在する。王の考えなど我らも見通しておる」
 魔王から放たれた黒い魔法が達樹を包み込んだ。


「ままままま魔王がでででで出てきちゃったんですかぁぁぁぁ!?」
 エルフリーデが自警団からの報告を受けて慌てふためいていた。
「はい。タツキ様とソルト殿のみを残して全員領内に入りました。お二人の指示の元、守りの結界を強めるため、神官総出となっております。それから……」
 ソルトの頼みとして千紘たちに戻ってきて欲しいと。つまりは捜し人を諦めろということだ。
「……分かった」
 すぐさまシスリードが空間を繋ぎ、侍女がメールをしていた。
――姉さん、どうしましょう?――
 どうするもこうするもない。魔王が出てきてしまえば、達樹一人では勝ち目はない。
 また、無力だ。あの時、エルフリーデに守られた時と一緒だ。

 いつもエルフリーデは誰かに守ってもらっている。
――エルフリーデ様のお力は天界の誰にも勝るもの――
 リュグナンの声が蘇ってくる。己の野望のためだけに、魔王の配下になった司祭。そして、あっさりと裏切ろうとした。
 エルフリーデを守るため、とエルフリーデが犠牲になった。だからエルフリーデは声を代償にエルフリーデを異世界に飛ばした。
 それなのに……。
 それなのに、エルフリーデは逃がした日から少しずれた日時で戻ってきてくれた。ただ、「姉さんが心配ですから」。そのためだけに。
 いつもエルフリーデがすることは、裏目に出る。天界へ繋がったのも、エルフリーデがむやみに魔法を使ったからだろう。天界で殺されそうになったエルフリーデを救ったのはリュグナンだった。ただ、エルフリーデに恩が売りたかっただけだ。
 それから十年、ずっと一緒の身体で生きてきた。エルフリーデは己の意思を出してくれなかった。
「大変です! 達樹さんが魔王に負けてます!!」
 少ない人数しかいなくてよかった。達樹がここを治めてから敗北というものを喫していない。だから、これが伝われば、領民の士気に関わってくる。
「……ひょっとして……達樹さん、……まさか……」
「エリ様?」
 エルフリーデの言葉を受け、エルフリーデそれ、、に集中する。
 まさか……。

 次の瞬間、エルフリーデ姉妹たちは走り出していた。

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