「魔王様」の定義

神無乃愛

魔王様がやってきました


「タツキ様! 魔物が攻めてきました!!」
 のんびりまったりと、書類に目を通していた達樹の元へ自警団の一人が慌てて入ってきた。
「来たか」
 何となく想像はついていた。おそらく二人のエルフリーデを捕らえるつもりだろう。
「ソルト、頼む」
「承知」
 これだけでギルタブルルは動き出す。
「ギルタブルルの戦士たちと連携を組んで守るように! シス、エリさんとエルフリーデさんを!!」
「分かった!」
 交易のあるところへ二人のエルフリーデを飛ばすのは楽だ。ただ、そうした場合、飛ばしたところにも魔物が攻めてくる可能性もあり出来ない。それくらいだったら、この領地で守ったほうがいい。
「領民を地下に避難! 魔法攻撃と防御を!」
「かしこまりました」
 すぐに全員が動き出す。
「予想より早かったなぁ」
 これが達樹の正直な感想で、ありがたいと思うことでもあった。

 魔物の多くは砂漠に住む魔物ではなかった。ほとんどが魔界にいる魔物といってもいいだろう。
 地上からはリザードマンやワームも沸いている。
 それらに剣で切りかかり、術を放つ。物量戦で向こうは来ているが、こちらは生憎それに対抗するつもりはない。
「指揮官を倒せ! 同士討ちにさせること」
 達樹が指示したのはそれだけだった。
 そしてギルタブルルや自警団たちはそれを容易く実行していく。
 このあたりは翠や哉斗の賜物だろう。
「タツキ様! 上空からも魔物が!!」
「やっぱり来たか」
 来た魔物はワイバーン、ロック鳥といった大きな魔物ばかりだった。
「狙いやすいよ」
 呆れて達樹は呟き、ナイフを投げる。
「やっぱりいたね、、、。アザゼルさん」
 その言葉に漆黒の瞳を持つ男が笑っていた。


「流石、と申しておきましょうか」
「残念。今日は千夏姉いないから、楽しめないよ」
「ふざけるな!」
「あ、もしかして千夏姉、魔王様とあなたの関係を暴露しちゃったって事?」
「そんなわけあるか!」
 アザゼルの仮面が剥がれていく。こんなに愉快な魔族だとは。千夏に感謝だ。
「あなたは自分を守る術すらほとんどないはずだ! 魔法耐性無しが!!」
「事実だよ。でも耐性無しって楽だね」
 強い者からの干渉を一切受けない。
 情報戦と心理戦。達樹の得意とするところである。
「いいのかなぁ。きっと魔王様は倒されるかも」
「ふざけるな!」
「ふざけていないよ。実際あなたの連れてきた魔物たちはかなり倒されてるでしょ? 人間を甘く見たら駄目だよ。俺たちの国の言葉に『窮鼠猫をかむ』ってあるけど、それですらない」
 エルフリーデにもらっていた魔法効果で達樹はアザゼルの後ろへ回る。
「どう? 人間風情に背後を取られるって」
 アザゼルの背中にナイフを突き立てて達樹は嘲笑った。
「この距離じゃ、ワイバーンもロック鳥も使えない。もっと小回りの効く魔物を連れて来るべきだったよね。あ、これ一撃でも食らうと、あなた死ぬよ?」
 もう一本ナイフを取り出し、アザゼルの手に傷をつけた。右手に持っているナイフとは効力の違う、別のナイフ。
分かる、、、でしょ? これよりも強いのをあなたの弱点に押し当てられてるって事くらい。それから感謝してるよ。これだけ魔物を連れてきてもらえば、素材に事欠かない」
 必要最低限しか討伐しないこの領地では、魔物素材のアイテムがかなり枯渇していた。
「倒せるだけ倒せ!」
 ソルトの声が砂漠に響き渡っていた。


 まったく動かない達樹たちとは裏腹に、ソルトたちは倒すもの、剥ぐものに分かれ、奮闘していた。しかも中には美味な魔物の肉もある。料理人まで出てきて解体を始めていた。
「人間とは強かだな、我らが王よ」
 アザゼルと一騎打ちになっている達樹を見つめながらソルトは呟いた。


「くっ」
 アザゼルの悔しそうな呟きに、達樹は思わず笑みを浮かべた。
「魔界でだったら、あなたの勝ちだろうね。ホームベースだしさ。だからこっちでなら俺が勝つんだよ。アザゼルさん」
 アザゼルの感情を逆撫でするように達樹は呟いた。

 さて、次はどんな言葉を投げつけよう、そう思ったときだった。

 アザゼルの首が飛んだのだ。


 黒き髪に紫の瞳。そしてこの威圧感。
「全員撤退!」
 達樹はすぐに判断した。この男こそ、真の魔王であると。
「魔界の魔王が直々に攻めてきた! 怪我人をすぐに運べ!!」
 そして、達樹はその男と静かに対峙した。

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