「魔王様」の定義

神無乃愛

達樹は珍しく留守番です


 こんな撤退嫌だ、そう思った達樹だったが、おそらくアザゼルのほうがダメージがあっただろう。


「……そんなふざけた理由で撤退してきたのかい?」
 説明を受けたシスの呆れた声。普通ならば、そうだろう。しかし、いまだ妄想が止まぬ千夏を見て、シスもどうやら納得したらしい。
「あぁぁぁぁぁ。残念! 絶対にいい光景だと思うの!」
「それはお前だけだ!」
 千紘が止めるものの、効力は発揮されていない。
「まぁ、無事逃げて来れたんだ。よしとするしかないだろ、千紘」
 翠も呆れ顔で呟いていた。
「魔素の強い魔界で上手く立ち回るにはどうしたらいい?」
 こういったことはソルトやクンツォーネに聞くべきである。
「我らの眷属も少々連れて行けば、何とかなるであろう。王よ、インキュバスと盟約を結んだそうだな。インキュバスの血でも持って行くとよかろう。ただ、魔法耐性のない王には出来ぬ」
「そっか。だと今回俺は戦力外か」
 ソルトの言葉を聞いて、達樹はあっさり言った。
「エリとエルフリーデちゃんもこっちに残していった方がいい。ありゃ、厄介だ」
「分かった。だと俺たち三人が留守番組。他で魔界に行く。それからソルトさんが選んだギルタブルルの戦士が一緒に行くって事でいいかな?」
「承知」
「あとはインキュバスの血を入れる容器をクンツォーネさんに作ってもらって、インキュバス族から血をもらうか」
「王よ、あっさりと言うが対価は何だ?」
「俺はもらってるぜ。毎度楽しい依頼が来るたびに血が騒ぐ」
「インキュバス族には対価を渡してるよ。領民に迷惑をかけない程度の淫惑なら認めてあるから」
「王よ、相変わらずやることがえげつないな」
「褒め言葉だね。それから、クンツォーネさん、もう少ししたらアルプ族のバートさんが来ますから、ちょっとだけ打ち合わせをしてもらっていいですか?」

 そして翌日にはバートとインキュバスの王、そして何故かサキュバスのブレンダまでやって来た。

 その翌日には血を入れた容器も出来上がり、千紘たちは再度魔界に行くことになった。


「残された時間は少ないんだけどな」
 思わず呟いた達樹の隣には、エルフリーデが不思議そうな顔で立っていた。
 エリを通じて千紘たちに頼まれたのだろう、達樹が少しでも生きていられるようにささやかな「治療」をして欲しいと。
 正直、達樹はそこまでして生きていたいと思わない。ただ、今起きていることくらいは責任を持ちたいと思うだけだ。
 バルコニーにあるソファに座って、達樹は夜空を見上げた。
 この世界に来てからここまでのんびりしたことなどなかった。
 そして、向こうの世界とは違い、夜は暗く星や月が瞬くような光を放っていた。
「隣、座ればいいのに」
 躊躇うエルフリーデを無理矢理隣に座らせ、達樹はまた夜空を見上げた。
「……月が綺麗だね」
 その言葉だけはエルフリーデの顔を見ながら囁いた。

「さて、休もうか。皆無事だよ」
 そこまで言ってエルフリーデを抱きかかえた。

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