「魔王様」の定義
魔界へ行きます
ほっとした千紘たちとは裏腹に、達樹は「来たの?」といわんばかりの態度だった。このサキュバスにしろと命令を下したのは達樹のはずだ。
「達樹さん、変ですよね」
エリにも分かるほどおかしいということか。
「姉さんも心配してるんですよ。……なんというか、刺々しいって」
「刺々しいのは今に始まったことじゃないのは、エリだって知ってるだろ?」
「そう、ですけど……達樹さん思いつめてますよね」
正直な話、エリがどもるのは達樹と話しているときくらいなものだ。あとは、かなり緊張しているとき。だが、ここまで鋭いということはない。
「エルフリーデちゃんがそう言ってたのか?」
翠が話に混ざってきた。それに対してエリはこくんと頷いただけだった。
「なんだか、エルフリーデちゃんのほうが俺らより達樹のこと分かってるよな」
「どうしてでしょうねぇ」
相変わらずほのぼのと返してくる。
結局、達樹の気持ちなど誰一人分からなかった。
そのまま魔界領を旅する。ブレンダも一緒に旅をすると、流石に周りの魔族たちの反応も変わってきた。
達樹が必要だったのはそれだけである。
ブレンダに用はない。
「タツキ様はクールなのですね」
ブレンダも色仕掛けをしようとしているのか、達樹にまとわりついて来た。
それすらも無視して達樹は進んでいく。
「本当は、連れて来たくなかったとか?」
「ありえますよねぇ。達樹さん、天邪鬼ですか……」
「何か言った? 千紘兄とエリさん」
「いいいいいいいえ! めめめめ滅相も、あああああありませんんんん!」
相変わらずのエリに達樹は少しだけ苛立ち、ため息をついた。
「……この辺で大体魔王領を見渡した感じか」
地図を片手に達樹は呟く。日数にして一週間。
これ以上時間はかけれなかった。
「魔界に行こうと思う」
とりあえずシスたちに連絡だけを入れて、魔界に行く準備をした。
魔界の入り口は魔王領の真ん中にそびえる高い山、その麓にある。
「『山の麓に』って本当の意味だったんだね」
勿論、それを教えてくれたのはブレンダである。
「あとはいいよ、ブレンダさん。ここまで来てくれればこちらの用件は済んだから」
「え!?」
「あなたが必要だったのは、情報収集のため。あとは魔王領にアネッサ嬢がいなかった場合に魔界に続く『正式な』門の場所を教えてもらうためだよ」
冷たく達樹は突き放した。
「ごめん、ありがとう」
そんな達樹をフォローしたのは、哉斗だった。
「無事のお帰りをお待ちしております。タツキ様、皆様」
何か言いたげなブレンダを無視して達樹は魔界へ進んだ。
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