「魔王様」の定義
一体何がしたいのですか?
ギルタブルルの毒だ、エルフリーデが気付いた時には遅かった。
そして、達樹は知っていて飲んだのだと。
シスリードは達樹に巻き込まれるように倒れこんだ。
自殺行為だ。思わずエルフリーデは達樹の傍に駆け寄った。
――誰か! 水属性の魔法を使えるものはいないの!?――
このままエルフリーデが癒しを行えば、確実に毒が回る。
――姉さん、闇で時間を止める方法があります!――
そんな魔法があること自体、エルフリーデは知らなかった。
エルフリーデが闇魔法を使って、達樹の時間を止め、随行したもう一人の神官が水魔法で達樹の体温を下げているている間、エルフリーデはギルタブルルに向き直った。
これが、ギルタブルルのやり方か、と。
「我らは侵入者に手加減などしない」
きりっと弓を引き始めた。
「エルフリーデ様!」
苦しいはずのシスリードがエルフリーデの前に立ちはだかった。
「エルフリーデちゃん、ギルタブルルに色々言いたいことがあるだろうけど、まずは達樹の治療に……」
血清がない。その場しのぎにしかならない。それほどにギルタブルルの毒は遅効性であり、強いのだ。
「……ここまでしなくて、大丈夫だよ」
「タツキ!」
「毒なのは最初から分かって飲んだし。それに私は通常より毒に対する抵抗があるから」
少しして目を覚ました達樹が、ギルタブルルに向かって笑っていた。
「まぁ、私は特殊ですけどね。……サソリ毒でなかったことに感謝です」
どこまでも他者を心配させるのが趣味らしい。
「あなたは……」
「交渉に必要なカードは一枚だけじゃない。それは常に覚えておくといい。それから、最大の切り札とも呼べる交渉カードはいつ、どんな時に切るかしっかり見極めなきゃいけない」
エルフリーデとほとんど年齢が変わらないというのに、達樹はどこまでも冷静だった。
「ここから先の交渉は誰にも見られたくないんだ。……私とそちらの代表者数人で話できませんか?」
「タツキ!!」
シスリードの言葉を無視して、達樹は千紘とシスリードに向かって言う。
「千紘兄とシスはここに残って、あとは戻って欲しい」
そこまで言うと、達樹は千紘に何かを耳打ちし、そのあと翠ともう一人の神官へ耳打ちした。
「分かった。それでいく」
千紘が悔しそうに答えていた。
「だだだだ大丈夫でしょうか」
「エリ、あいつを見くびってるのか?」
「そういうわけではないのですが」
不安そうなエルフリーデに翠は軽く答えている。
ここは自治領内である。
エルフリーデは達樹と交渉の場につきたかったが、達樹が拒否。せめて地上に残ろうと思ったが、それも千紘たちが止めた。
無力だ、今回ほどそれを痛感したことはない。
何故、達樹はエルフリーデたちを信じないのだろう。
何故、頼ってくれないのだろう。
――姉さん……――
心配する心話を送ってくるエルフリーデを無視した。
「今回はかなり厄介な交渉相手なんだよ。交渉カードの切り方は、重見の爺さんに色々教わったはずだ。
あいつ、交渉で負けんのってほとんどないんだ。大抵初見で相手の本心を見抜ける。そこでどういうカードの切り方をすれば勝てるっていうのが分かる。もしくは達樹自身が相手と交渉する価値がないって判断して切っちまうんだ。……いい例があの愚王だな」
翠が誰に言うでもなく話し始めた。
「ファルス神官長も仰ってました。陛下を怒らせた挙句、交渉を打ち切ったと」
「わたくしも存じ上げておりますわ。その足でわたくしをパトロンにすると仰ってくださったんですもの」
神官とエリザベスが放った言葉に、エルフリーデはただ驚くしかなかった。
「エルフリーデさんは初耳かもしれないけど、本当のこと。今回の交渉はおそらく五分以下で達樹の言い分が通らない。……最悪相手側に殺されてもおかしくない。だから余計な連中を下げて、自分ひとりの交渉に臨んだんだ。
おそらく、ある程度の時間が経ったら千紘たちは戻ってくる。そして、その時点で達樹を見捨てて他の場所へ移動するはずだ」
馬鹿な……あれほど死んでは困ると言った筈だ。
「そういう奴なんだよ。……エルフリーデさん、達樹が心配だからって俺らに嫉妬しないで欲しいな。ってか、俺たちはエルフリーデさんに感謝してるよ」
「ほほほほ本当ですか?」
「エリ、お前には感謝できない。千紘の苦労増やしてっだろ」
「すすすす翠さん、ひひひひ酷いですぅぅぅぅ!!」
「スイ殿、我々はどのようにすれば……」
「とりあえず、交渉の件は内密に。あとは無事に戻ってくることを信じるしかない」
その言葉を聞き、数人の神官と自警団の面々が下がっていった。
それに続いて他の人間も己の職務に戻っていく。
「……達樹の読みどおりだな。エリ、千紘に連絡だけ入れといて」
翠の言葉を受けたエルフリーデが空間を繋いでいた。そして翠は不思議な箱を取り出して何かをしていた。
「あんまり変わらないんですねぇ」
「俺はガラケーだからな」
意味が分からない話を二人がしていた。
そして、達樹は知っていて飲んだのだと。
シスリードは達樹に巻き込まれるように倒れこんだ。
自殺行為だ。思わずエルフリーデは達樹の傍に駆け寄った。
――誰か! 水属性の魔法を使えるものはいないの!?――
このままエルフリーデが癒しを行えば、確実に毒が回る。
――姉さん、闇で時間を止める方法があります!――
そんな魔法があること自体、エルフリーデは知らなかった。
エルフリーデが闇魔法を使って、達樹の時間を止め、随行したもう一人の神官が水魔法で達樹の体温を下げているている間、エルフリーデはギルタブルルに向き直った。
これが、ギルタブルルのやり方か、と。
「我らは侵入者に手加減などしない」
きりっと弓を引き始めた。
「エルフリーデ様!」
苦しいはずのシスリードがエルフリーデの前に立ちはだかった。
「エルフリーデちゃん、ギルタブルルに色々言いたいことがあるだろうけど、まずは達樹の治療に……」
血清がない。その場しのぎにしかならない。それほどにギルタブルルの毒は遅効性であり、強いのだ。
「……ここまでしなくて、大丈夫だよ」
「タツキ!」
「毒なのは最初から分かって飲んだし。それに私は通常より毒に対する抵抗があるから」
少しして目を覚ました達樹が、ギルタブルルに向かって笑っていた。
「まぁ、私は特殊ですけどね。……サソリ毒でなかったことに感謝です」
どこまでも他者を心配させるのが趣味らしい。
「あなたは……」
「交渉に必要なカードは一枚だけじゃない。それは常に覚えておくといい。それから、最大の切り札とも呼べる交渉カードはいつ、どんな時に切るかしっかり見極めなきゃいけない」
エルフリーデとほとんど年齢が変わらないというのに、達樹はどこまでも冷静だった。
「ここから先の交渉は誰にも見られたくないんだ。……私とそちらの代表者数人で話できませんか?」
「タツキ!!」
シスリードの言葉を無視して、達樹は千紘とシスリードに向かって言う。
「千紘兄とシスはここに残って、あとは戻って欲しい」
そこまで言うと、達樹は千紘に何かを耳打ちし、そのあと翠ともう一人の神官へ耳打ちした。
「分かった。それでいく」
千紘が悔しそうに答えていた。
「だだだだ大丈夫でしょうか」
「エリ、あいつを見くびってるのか?」
「そういうわけではないのですが」
不安そうなエルフリーデに翠は軽く答えている。
ここは自治領内である。
エルフリーデは達樹と交渉の場につきたかったが、達樹が拒否。せめて地上に残ろうと思ったが、それも千紘たちが止めた。
無力だ、今回ほどそれを痛感したことはない。
何故、達樹はエルフリーデたちを信じないのだろう。
何故、頼ってくれないのだろう。
――姉さん……――
心配する心話を送ってくるエルフリーデを無視した。
「今回はかなり厄介な交渉相手なんだよ。交渉カードの切り方は、重見の爺さんに色々教わったはずだ。
あいつ、交渉で負けんのってほとんどないんだ。大抵初見で相手の本心を見抜ける。そこでどういうカードの切り方をすれば勝てるっていうのが分かる。もしくは達樹自身が相手と交渉する価値がないって判断して切っちまうんだ。……いい例があの愚王だな」
翠が誰に言うでもなく話し始めた。
「ファルス神官長も仰ってました。陛下を怒らせた挙句、交渉を打ち切ったと」
「わたくしも存じ上げておりますわ。その足でわたくしをパトロンにすると仰ってくださったんですもの」
神官とエリザベスが放った言葉に、エルフリーデはただ驚くしかなかった。
「エルフリーデさんは初耳かもしれないけど、本当のこと。今回の交渉はおそらく五分以下で達樹の言い分が通らない。……最悪相手側に殺されてもおかしくない。だから余計な連中を下げて、自分ひとりの交渉に臨んだんだ。
おそらく、ある程度の時間が経ったら千紘たちは戻ってくる。そして、その時点で達樹を見捨てて他の場所へ移動するはずだ」
馬鹿な……あれほど死んでは困ると言った筈だ。
「そういう奴なんだよ。……エルフリーデさん、達樹が心配だからって俺らに嫉妬しないで欲しいな。ってか、俺たちはエルフリーデさんに感謝してるよ」
「ほほほほ本当ですか?」
「エリ、お前には感謝できない。千紘の苦労増やしてっだろ」
「すすすす翠さん、ひひひひ酷いですぅぅぅぅ!!」
「スイ殿、我々はどのようにすれば……」
「とりあえず、交渉の件は内密に。あとは無事に戻ってくることを信じるしかない」
その言葉を聞き、数人の神官と自警団の面々が下がっていった。
それに続いて他の人間も己の職務に戻っていく。
「……達樹の読みどおりだな。エリ、千紘に連絡だけ入れといて」
翠の言葉を受けたエルフリーデが空間を繋いでいた。そして翠は不思議な箱を取り出して何かをしていた。
「あんまり変わらないんですねぇ」
「俺はガラケーだからな」
意味が分からない話を二人がしていた。
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