「魔王様」の定義

神無乃愛

皆さん、酷いです

「うっふふふ。いいもの見たわ~~」
 千夏が達樹の部屋に戻るなりハイテンションになった。
 ちなみに、この部屋にはシス、エリザベス、そしてエルフリーデもいる。半ば強引にエルフリーデを達樹が連れてきた。それを心配してシスとエリザベスがついてきたのだ。
「あと何もしないんだけどなぁ」
「流石に、あんな行為を目の前でやられたら信用しろと言うのが無理だ」
「あれはエリさんに対する牽制。でないと、ろくでもないことをエルフリーデさんに吹き込んだら皆大変でしょ」
 シスとエリザベスが驚き、千夏と翠は頷いていた。
「エリちゃんはそういった迂闊な台詞をよく吐くの。空気読まないっていうか」
「だな。一番の被害者は千紘だったな。同じ学年に設定してたから、いやぁ楽しかった」
「そそ、お兄ちゃんはその発言を撤回しまくって付き合ってるって噂がたったし」
 楽しそうに二人が言うが、達樹としては「そんなことがあったんだ」くらいである。確かにそう思われてもおかしくない状況ではあった。
「ついでだし、移動方法について話しちゃおうかと思ってるんだけど」
「タツキ、いつその方法を知った?」
「ん、最近だよ。アリーさんと知り合ってからかな」
「アリー?」
 全員の声が重なっていた。
「そ、そこにいる、妖精ピクシーさん。ちょっと問題ありで、引きこもり」
「お前と同属か」
 翠の言葉に達樹は頷いた。
「まぁ、やってもらうには結構大変。最低でも一週間はここに留まるけど」
 アリーにもらった一つの小さな粒を出す。
「これ、オリハルコンで出来た魔法媒体。この粒を作る際に全属性の魔法を吹き込む。そして、それを二十方向に埋めて、そこに妖精ピクシーを配置。中心部に残った魔法媒体と俺、それからアリーさんを配置。俺たちを中心に魔法陣を設置して、その外に全属性の魔法使いを配置。エリさんとエルフリーデさんの能力と同等になるように力を調節して欲しい」
「エリ様とエルフリーデ様に合わせられるだけの人数を集めるのと、オリハルコンを扱える『鍛冶屋』を見つけるのが大変そうだな」
 それ以上にオリハルコンを見つけるのが大変だと。
「あるよ。クンツォーネさんにこれから渡す予定だけど」
「どこで手に入れた!?」
 また全員ではもって驚きの声をあげてきた。
「エルフリーデさんが持ってた装飾具に全部がオリハルコン製だったのがあったから」
「……それの使用許可を……エルフリーデ様に取ったのか?」
「今からだけど?」
「タツキ! それはここで僕たちも説得に回れということか!?」
「ううん。納得、、してくれるでしょ?」
「それは脅迫というのです! タツキ様!!」
「脅迫じゃないですよ。エリザベスさん。俺からのエルフリーデさんへのお願い、、、です」
 達樹がにっこり笑ってエルフリーデに言うと、全員が達樹とエルフリーデの間に割って入ってきた。
「翠兄と千夏姉までそっちに回るの?」
「エリ相手にだったら、『自業自得』で済ませられるが……エルフリーデちゃんにそれはちょっと……」
「えぇ? 翠、それは酷いよ。エリちゃんだって黙ってたら、そういった仕打ちを受けるのはおかしいでしょー?」
「そもそもタツキの態度は頼む態度か!?」
「その通りです! タツキ様!」
 全員から各々の言葉で責められたが、達樹は一向に気にしない。
「で、エルフリーデさんとしては……」
「達樹! いっぺん黙れ!! 少し反省しろ!」
 また翠に怒鳴られた。


 オリハルコンの話は、全員が揃っている時にすることになった。
「……姉さんのアクセサリーでオリハルコン製のものってありましたっけ?」
 エリが言った言葉に、達樹はそれを全員に見せた。

 なんてことはない。ずっとエルフリーデが首からぶら下げていたものだ。
「たたたた達樹さん! そそそそれだけは、かかかか勘弁してくださいぃぃぃぃ!」
「どうして?」
「あああああ姉の、ててて天界での、みみみみみ身分証明書でででですぅぅぅぅぅ!」
「エリさん、普通に話してくれないかな? 俺、今何もしてないでしょ?」
「そそそそ存在じたいが……」
「……ふぅん。そんなに問答無用でして欲しいの?」
「ちちちち違いますぅぅぅぅ」
「達樹、落ち着け。それをエリは察知して怖がってるだけだ」
「難しいかな? 俺ピリピリしているつもりないし。ってか、エリさんの言質は取ったの?」
「取った。余計なことを口走ったら、問答無用で達樹が制裁を入れるってな」
 千紘の返しに達樹は笑った。正直に言えば、達樹は釈然としない。自分がエリをそこまで怯えさせる原因が思いつかない。
「確かにタツキは事を強引に進める気配がある。そこにエリ様が怯えていらっしゃるのかも知れない」
「シス、それは最初の時にも言った筈だよ。俺は薬がなければ死ぬだけだって。既に四ヶ月くらいは過ぎているんだから、残りはあと二ヶ月くらい。その間に全てを終わらせる」
 薬の代用品も見つからない。焦っているいえばその通りだ。
『妹の言う通り、これは確かに渡せない。あの捕らえられていたところに行けば、もう少しあったかも知れない』
「そっか……。じゃあさ、哉斗兄と翠兄であそこに行ってもらえるかな」
「俺が道案内か?」
「そ、哉斗兄と千佳姉しか場所知らないし」
「分かった。あったらめっけもんだな」
「どうせだから、近くまで神殿で『飛ぶ』といい。僕が許可するよ」
 前回、神殿のこの機能を使わなかった理由は、周囲をよく知るためという理由と、どこから魔王領に入るのがベストか分からなかったためである。
 すぐに二人はいなくなった。

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