「魔王様」の定義

神無乃愛

空気を読んでくれ!


「ねねねね姉さんがぁぁぁぁ!!」
 エリの絶叫を無視する形で千紘たちはまた妖精ピクシーたちのところへ戻った。
「達樹はそこまで鬼畜じゃないぞ?」
「そそそそういう問題ではなくてぇぇぇぇ」
 パニックを起こしているエリを静めたのはシスだった。
「エリ様、少し落ち着きください」
「ででででもぉぉぉ!」
「多分エリ様が動いた方が面倒になりそうな気がします」
「ひひひひ酷いですぅぅぅぅぅ!」
 エリへの尋問は達樹とシス。操縦も哉斗とシスに任せておくのがよさそうだ。

 このとき、余計な事をいつの間にか口走っていたらしく、のちほど軽く達樹に尋問を食らうとは誰一人思わなかった。

 さて、やるべきことは沢山ある。
 その一つが移動方法である。
「そうえば、達樹の部屋にも一体妖精ピクシーがいたわね」
『いっいつの間に?』
「それは達樹しか知らないわよ。従女よりも質素な服を着て、鳥籠に入ってたけど」
『私たちの仲間を鳥扱いするなんて信じらんないっ!!』
 千佳の発言にエメラルドがぎゃいぎゃい騒ぎ出した。
「とりあえず、黙って。妖精ピクシーの件は達樹が起きたら確認するから……。
 エメラルドさん、移動方法をまず教えてくれ」
『……言いたくなくなってきたわ』
 それもそうかもしれない。
「いっそタツキが起きるのを待ったらどうだ? 僕たちが頭を悩ませて考えていることすら、タツキの手にかかればあっという間だ」
「私たちの国の言葉でね『お茶の子さいさい』とも言うわね」
 千佳が遠い目をして言ったが、その通りだと日本国籍側は思った。


 達樹が起きるまで、移動中の食物について考えていた。
「自治領の自給率をもう少しあげるしかないな」
「芋系を作れるようにしないとね。あとは雑穀類かしら?」
「出来れば蕎麦が欲しいとこだな」
「……チヒロ、チカ、すまない。もっと分かりやすく」
「シスさん、ごめんなさいね。もっと自治領内で取れる作物を多くしようって話をしてたの」
「エリザベスさん、一度自治領内で取れる食物の一覧を見せてもらえますか?」
「それなら既にタツキ様にお渡ししましたわ」
 やっぱり抱え込んでやがったか。千紘はため息と共に、今後どうするかを考えた。
「そんな話してたら、お蕎麦が食べたくなりました」
「エリ、空気読まないのもいい加減にしろ!」
 哉斗が怒鳴った。
「だだだだだって! かかかか翔さんが打ったお蕎麦は別嬪でした」
「『別嬪』は違うだろうが……。『絶品』だろ?」
「かかかか哉斗さん……、ここここ怖すぎです!」
「エリ、哉斗は普通に間違いを正しただけだろうが……お前の脳みそは小学生以下まで下がったか?」
「ちちちち千紘さんまでぇぇぇ! 私をいじめないでください」
「誰もいじめてねぇだろうが! 人聞き悪いぞ!」
 何故、こうもカオスになる? 昔もエリは空気を読まないことがあったが、それに拍車をかけ始めている。

 ぞくぅ、悪寒が……いや、半分くらいは怒りのこもった殺気だ。
「エリさん? エルフリーデさんに俺が『食人鬼』って吹き込んだらしいけど、どういうことかな?」


 そこには、起きたばかりでまだ無理が出来ないはずの達樹が、素晴らしく素敵な……、しかも恐ろしいほど冷徹な微笑みをして立っていた。

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