「魔王様」の定義
意識のない時の会話と、抱き枕
遠ざかる意識の中、達樹はこのまま死んでしまうのかと思った。
まだ死にたくない。
どんな卑怯な手段を使ってでも、やりたい事がある。
――あなたは、本当は弱い人――
ふわふわとした意識の中で、見知らぬ女性の声がした。
――そんなこと、知ってるよ――
――じゃあ、どうして強がるの?――
――そうしないと生きていけなかった。兄さん姉さん以外に、味方は少なかったから――
聞こえる声に、達樹は赤裸々に返した。
――味方を増やす努力はしたの?――
――自分ができない事は言わない方がいい――
何となく返した言葉に、女性が戸惑ったのが分かった。
――やっぱりあなたと俺は似てる――
――もの凄く、不本意だわ――
――それは光栄だ――
いつもの癖で、達樹は嫌味を返した。
ふわりと身体が温かいもので包まれる感じがした。
――あなたは、優しい人だ。俺とは違う――
たったその一言で絶句するなら、達樹の交渉相手には向かない。
――あなたを治癒するのはもの凄く不本意。でもこの先あなたがいないと困るの――
――それで?――
――根本的な治癒は出来ないけど、少しでも症状は軽くする事ができるわ。だからあなたは、この先もっと長生きが出来る――
誰にそのことを聞いたのか。知っているのは達樹の他に、千紘しかいない。千紘がこういったことを話すとは思えないのだ。
――あなたに触れたら、流れてきただけ。皆心配してるわよ。あなたが指揮官なんだから、最後まで責任もって――
そのつもりだよ、その言葉は起きてから言おうと思った。
達樹が再度目を覚ました時、傍にいたのはエルフリーデだけだった。傍にいる、という点では妖精もだが、彼はずっと鳥籠に入ったままだ。
「助けて、くれたの?」
助けたのは、達樹のためではない。それは良く分かっている。
「……ありがとう。エルフリーデさん」
そう告げた瞬間、エルフリーデの顔が真っ赤になった。
可愛い、達樹は柄にもなくそんな事を思った。ふわふわして、柔らかそう。
思わず抱き寄せて、再度眠りについた。
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