「魔王様」の定義

神無乃愛

移動方法を考えましょう

 きちんとした場所が決まるまで浮遊城砦のようになると住民に説明すると、子供たちは大はしゃぎをし、大人たちは怖がった。
「ラピ○タみたいよね~~」
 そう楽しそうにいうのは千夏で、翠がまったくだ、と同意していた。
「チナツおねえちゃん、『ラピ○タ』って何?」
「空に浮かぶ城なの。ぴったりでしょ?」
「うん! 僕楽しみ!!」
 まだ決まってすらいないのに、子供たちに陽気に答える千夏にお気楽なものだと達樹は思った。

 何せ、どうやって浮遊させるかが問題なのだ。城には地下もあり、自治領内には樹木も多いことから、地中数十メートルくらいは最低でも掘り下げて持っていきたい。
 それを行うには、「土」の魔法を使える人間の能力が不足しているのだ。
「さて、どうやって浮遊させるかなんだけど……」
 本日会議に出席しているのは幼馴染たちにエリザベス、エリ、エルフリーデ、シスと他神官二人、そしてクンツォーネとエメラルドだ。
「『風』魔法で全体に結界を張って浮遊、『火』を動力に『水』で冷却。『土』で土台。……その『土』がまず第一の難関。それから移動場所固定が第二の難関。何より広大になる土地をどうやって移動させるかが第三の難関」
 とりあえず、問題点だけを挙げていく。
「とりあえずよぉ、どんくらいの土地になるんだ?」
 クンツォーネの質問に、達樹とシスは地図を指し示し場所を確認する。
「ほぼ、自治領の総て」
「ここには大きい湖が出来るかもしれない」
 シスの言う通り、地下水脈が眠っている土地だ。
「探し当てるまでの資源は?」
「問題ないよ。進みながら雨の場所を探したりする予定。そのためにはかなり頑張ってもらわないといけない」
 千紘の問いにもあっさり達樹は答えた。
「砂漠って聞いたけど、どのあたりなの?」
「千佳姉としては不服かもしれないけど、行きながら考えるよ。この地図に示されていないオアシスがあれば、その近く。そして、天候として出来ればそこまで厳しくないところ、かな?」
「そりゃ不服でしょ? 『どこになるか分からない』じゃ住民は納得しないの」
「納得させるから大丈夫だよ。それよりもどうやって移動させるかだよね」
『だから、神殿の近くのみと言ったのに』
 筆談でエルフリーデが混ざってきた。
「それだと、住民が結構動揺するんです。意外に神殿への信仰心は馬鹿に出来ない。新たに神殿を作るのは愚の滑稽。破門されて、それが不服で反乱を起こしたとも取られかねない。そうするとあなた方を保護する大義名分すらなくなるんです」
「たたたたた達樹さん! あああああああ姉に、そそそそそこまで、いいいいいいい言わないでぇぇぇぇぇ」
「俺は事実しか言ってない。上辺だけで言われるのは俺が最も嫌いとすることくらい、エリさんだって知ってるでしょ」
 この双子は相変わらず察しが悪すぎる。
「空間圧縮は使わねぇのか?」
「使ったあとの反動が怖いかな? 何せ道具を圧縮するのとはわけが違う」
 クンツォーネの言葉に返した達樹の台詞で、全員が押し黙った。

 達樹はちらりと哉斗の方に視線をやった。いや、哉斗の傍にいる、、、、、、、エメラルドに視線をやったのだ。
 それに気がついたエメラルドは、こそこそと哉斗の後ろに逃げた。
「何か、方法あるみたいだね、エメラルドちゃん」
『なっ無いわよ!』
「じゃあ、どうして哉斗兄の後ろに隠れたの? 俺は哉斗兄が小父さんから聞いてないかなって思って見ただけなんだけど」
 その瞬間、全員から疑惑の眼差しを受けた。そんなもので小さくなるほど、達樹は繊細ではない。
「しかも、今、すっごく焦ってたよね? ってことは何か知ってるんでしょ? 答えてくれないなら、拷問するけど?」
 例えば抑えて羽をむしるとか、にっこり笑って達樹が言うと、瞬時に哉斗が達樹の頭を叩いた。
「阿呆。脅してどうする。知らないと言ってるのに」
 この哉斗の行為も計算どおりだ。
「まぁ、知ってて黙ってるなら俺としても考えがあるけど、知らないんじゃ仕方ないか。その辺の妖精ピクシー捕まえて聞こうかな」
『ちょっ! それ脅しよ!?』
「脅しじゃない。俺は聞きたいだけ。エメラルドちゃんが知らなくても他の妖精ピクシーが知っててもおかしく無いでしょ?」
 というか、脅しと言ってる時点で、何かしら方法があり、それを隠しているのだ。尋問を開始するしかない、達樹が決意した時だった。
「達樹、お前は黙ってろ。ってか、席外せ。エメラルドが不憫だ」
「え~~~~~」
「ふざけんのも大概にしろよ? 移動させたいんだったらお前が折れろ」
「へ~~い」
 哉斗の言葉に達樹は大人しく従った。ここがきっちり移動できるならこれしきの悪名はなんともない。
 あとの汚れ役は哉斗が引き受けてくれるはずだ。哉斗が無理なら翠か千紘がやってくれる。そう、達樹はとった。

 そして、その思惑は間違いではなかった。

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