「魔王様」の定義
誰が「魔王」ですか?
清めの魔法を翌日に行う。
達樹も、沐浴をして備える。
今までで一番多い人数の神官が聖女と達樹を囲んだ。
「神官長シスリード=ファルスの名において、この呪を唱える」
厳かにはじまった儀式を見て、内側から見るとかなり面白いんだな、と達樹は思った。数人で囲んで、厳かに唱えるだけでも笑えるというのに、顔が……なんとも言えない。
そのあたりは、流石に達樹でも黙って笑わずにいた。
ざわり。
全身を何かが通り過ぎる感じがした。その瞬間、毛が全て逆立つような気分だった。
そして、己を介して聖女へ注がれる。
これが魔法なのだろう。
「ひぃぃぃ!! おおおおおおおおお許しくださいぃぃぃ!!」
唐突に叫ぶ聖女……いや、長い黒髪に黒い肌、そして金の瞳をした二十後半くらいの女性と、長い銀色の髪に白い肌、そして黒い瞳をした十歳くらいの少女に分かれたのだ。二人は姉妹といってもおかしくないくらいにそっくりで、そして色だけが違っていた。
そして、黒い方に達樹たちは見覚えがあった。
「エリ?」
呟いたのは哉斗だった。
「ここここここここれには、そそそそそそそそこそこの、りりりりりりりり理由がぁぁぁぁぁ!!」
そう、かなりあがり性の哉斗の「親戚」エリだ。
常におどおどして、こちらの顔色を伺う年上の女性だった。
「エリ、……『そこそこ』の理由だろうがなんだろうが、お前は二年前に故郷に帰ったんじゃなかったのか?」
哉斗が呆れて問いただしていた。
そう、哉斗の父に言われ、達樹たちは納得していたのだ。
「故郷がここだって事? とりあえずエリさん。落ち着いて? 分かってるよね?」
「ううううううう……達樹さん。『魔王モード』発動させないでください」
「人聞き悪いなぁ」
「『魔王モード』?」
シスが驚いたようにやっと声をあげた。
「エリさんがつけたんだけどね、私たちも納得したわよ。うもう言わさず、相手を言いなりにさせる達樹のこと。ここに来てからしょっちゅうやるでしょ? ここで言われる『魔王』とは違うから、安心して」
「ひらたく言えば、極悪人の達樹だと思えばいい。ほんっとうに性質悪いぞ」
千佳の言葉に千紘が付け足していた。
「皆酷いなぁ」
「達樹、お前自分の能力分かってやってっから、言われるんだ。諦めろ。それより、親父がどう絡んでて、こうなってるかエリに口割らせてくれ」
「哉斗兄がそれで良いなら、俺、本気でやるけど?」
「『やる』が『殺る』にきこえますぅぅぅぅぅ」
「……遠慮、要らないみたいだね」
エリの言葉に、達樹はにっこり笑って答えた。その状況をもう一人の女の子に見せまいと哉斗が庇っていた。
「さて、エリさん。洗いざらいしゃべってもらうよ? あ、あなたが嘘をついたと思った時点で、俺、本気でいくからね。大人しくしたほうが身のためだよ」
「……既に悪人の言葉だよな」
微笑む達樹の後ろに、翠と千佳が立っていた。
「おおおおおお話しますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! お願いだから、千佳さんまで敵にまわらないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そして、神官たちもいる前でエリはポツリポツリと話し始めた。
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