「魔王様」の定義

神無乃愛

持ち込まれた問題は、苦悩の種


「阿呆かぁぁぁぁぁ!!」
 ことの顛末を聞いた千紘は思わず大きな声をあげた。
「ここでも問題起こしてどうする!? 間違いなく神殿を敵に回したぞ!!」
「ん~。とりあえず俺たちの自治区に一度戻ろうかなぁ、と。シスに話を聞けば『聖女様』のことも聞けるだろうし。
 俺が怒られるから。翠兄も千佳姉も哉斗兄ちゃんも俺の望みかなえてくれただけだから」
 達樹のその言葉に千紘は頭を抱えていた。長男というものは苦労性になりやすいらしい。ただでさえ、よくつるむこの昔馴染みたちは問題を起こすというのに。
 いつの間にか兄妹のように仲良くなっていた。それを嫌だと思ったことは無い。……が、毎度こうも問題を起こされれば、ストレスで「医者の不養生」になってしまう。これだけはやめろと、同業に就いた祖父や父、果てはいとこにまで言われた。
 ……まぁ、つるんでいる連中のせいでそう思われていたのかもしれない。半分くらいは実の妹ちなつによって引き起こされている。残りは翠と達樹だ。ただ、達樹は身体が弱いため、そこまで大きな問題を起こさない。……いや、起こす確率が低かっただけだと、異世界に来てから実感している。
 今回がその顕著な例だろう。
「で、どうするんだ?」
「どうするもこうするも無いよ。とりあえず一度自治区に戻る。国王と謁見できるならしたほうが良いし。シスに聞いて、彼女を神殿に戻したほうが良いなら、戻すよ」
 達樹がそう言った瞬間、少女は怯えた。
 これが演技なら褒めて差し上げたい。おそらく本当に怯えている可能性もある。
「戻るかどうかは、彼女の意思で良いだろ」
 そう言ったのは翠だった。

 一時撤退のような形で自治区へ戻った。


 そして、彼女の姿を見たシスが驚きの声をあげた。
「せせせせ……聖女様!?」
「うん。そうらしい」
 しれっと言う達樹をシスが睨んでいる。
「普通であれば連れてこない。ただ、捕らえられている気がしたんだ。
 そして、俺が差し出した手を取ろうとした瞬間、神殿にいる兵士たちが来て怯えていた」
「それは有り得ない!!」
 シスは既に拒絶反応を示していた。
「それにしても、一言も話さないのは何故だ?」
 誰もが疑問に思っていることを、あえて千紘は口に出した。
「元々声が出ないんだと俺は思ったけど」
「しかし、聖女様からのみことのりとして毎回……」
 達樹の言葉を否定するかのように、シスが口を出した。
「……そういうことか。だから鎖で繋いでたのか」
「達樹?」
「あ、千夏姉、ごめん」
 達樹の眉間に皺が寄り、目を細めていた。これはかなり厄介で考え込む時の癖だ。
「今の段階での仮説言っちゃうね。シス、君の逆鱗に触れるかもしれないから先に謝っておくよ。
 あなたは声が聞こえる。これは間違いないね?」
 達樹の最後の一言は聖女様へ向けられたものだ。その言葉に、聖女様はこくんと頷いた。
「うん。あなたがあそこにいたのは、自分の意思?」
 それに対して、聖女様は俯いただけだった。
「なるほどね……仮説として言っておくよ。あなたの大切な人を人質に取られた」
「タツキ!!」
「シス、最初に言っただろ? 君の逆鱗に触れるかもしれないって。でも、彼女の態度を見ている限り、当たりみたいだね。
 ここまで来ちゃうと、話せないのか、話さない、、、、のか分からないね」
 そして、シスに聖女様の能力を聞いていた。
「僕も今回お会いするのは初めてだ。絵姿しか見たこと無かったから。……『白き偉大なる癒し』と『白き予知力』と伺っている」
「……やたら『白』を強調してない? 癒しって千夏姉の『治癒者ヒーラー』とは違うの?」
「『治癒者ヒーラー』や『魔法医師ウィッチドクター』よりも凄い癒しの能力と聞く。ただ、それを行うと、聖女様がかなり疲労されるので、神殿側で使わせないようにしていると」
 おかしいよね、それ。そう達樹は言い切った。千紘もそれに対しては同意見である。
「そういった場合、権力誇示の為に、使い惜しみはしないはずだぞ。おそらくは、象徴シンボルに無理やりされている可能性があるな」
「チヒロ!」
「一日一人でもいい、使わせることによってありがたみってのがでるんだ」
 千紘の返しにシスはすぐさま黙った。
「癒し、使える?」
 達樹の問いに、聖女様は首を振っただけだった。

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