「魔王様」の定義

神無乃愛

グレス聖王国にて


 エメラルドがいることもあり、この国は素通りするつもりでいた。
「止まれ!!」
 無視したいところではあったが、あっという間に囲まれてしまった。
「その中身を検分する。そして、その人相はエーベル王国から犯罪者として……」
 誰一人この話を聞く気になれなかった。もう、何と言うか呆れるということを色々してくれる王様だ。
「エーベル王国の国宝を盗んだ偽勇者一行め! グレス聖王国騎士、アルケストと唯一の神イーシュエント様の名においてお前達を束縛……え!?」
 アルケストの声が止まった。
「あんた、肩こってるわね。そりゃそっかぁ。こんなに重い甲冑着てたら、そうなるわね……水虫に注意しなさい」
「なななななな!!」
「水虫の原因は蒸れ! それから感染するの」
 その前に千夏一人に甲冑剥ぎ取られるってどんだけ騎士は弱いの? と思ったのは達樹一人ではないはずだ。
「ま、いいでしょ。さぁて秘密の花園でも……いったぁぁぁい。お兄ちゃん。何で叩くの!?」
「んな時間あるか! 阿呆!!」
 千夏と千紘が注目を浴びている間に、翠と哉斗に一つ頼みごとをする。二人は達樹の思惑に呆れたもののすぐさま実行に移した。
 翠はハンマーで、哉斗は剣で。
 騎士たちの鎧を全部剥ぎ取っていく。
「なぁ、哉斗。そこで『またつまらないものを斬ってしまった』とか言って欲しいな」
「翠、ふざけんな。俺はあとでも使えるように一応剥ぎ取った。お前が剥ぎ取ったのは使い物にならんだろうが」
「あ……あ……」
「まぁ、俺たちからの要望はさっさと通して欲しい。OK?」
「そんなこと出来るわけなかろうが!!」
 達樹たちの言い分はあっさりと却下された。

「逃げようと思えば逃げれたんだけどさ」
 牢につながれたまま達樹は呟く。全員と引き離されたが、何とかなるだろう。薬も数日分あるし、エメラルドは哉斗と一緒だ。
 逃げなかった理由はいくつかあるが、その最たる理由はこの国の現状を知ることである。だが、牢の中の環境は悪すぎる。
「出ろ」
 思ったよりも早いお出ましである。
 出来れば国の状況をこの目で見たかったような気はする。何せここに来るまで目隠しをされた。牢に投獄後、時間を確認したがそこまで経っていなかった。ということは国境付近の古城だろう。城主がシスやエリザベスのように物分りのいい人であることを祈るしかない。
「ご苦労様」
 背中まである金の髪に、アイスブルーの瞳。そして「凛々しい」といえる顔立ちをした、「キラキラ」した服を着た男が出迎えてきた。話の内容によるが、相容れない感じがする。
「エーベル王国国王からあなた方が盗賊であるから捕まえて欲しいと、として人相書きが渡された。それと同時期に何故か、、、エーベル王国内にある我が神殿の神官長、シスリード=ファルスからはあなた方を助けるよう、嘆願書が届いておる。どういうことだ?」
「みたまま、だと思いますよ」
 シスめ、余計なことを。
「二つの情報以外に、あなたの目の前に本人たちがいるでしょう? 何故、ご自身の目を信用なさらないのですか?」
「はははははははは」
 いきなり笑い出した。
「面白い。だが、私はその言葉を信じない!」
 だったら聞くなよ、そう突っ込みたくなるのは達樹だけではないはずだ。
「私が信じる言葉はたった一つ!! 誇り高き唯一の神イーシュエント様のお言葉のみ!!」
「どうやって聞こえるの?」
「失敬な男だ! 声を聞く司祭も巫女もいる!」
 あぁ、話が通じない。何か、本当にどうでもよくなるところばかりだ。
 そんなことを思っていたら、勢いよく扉が開いた。
「達樹!!」
「哉斗兄さん!」
 大剣を構えた哉斗と、頭を抱えた千佳が慌てたように入ってきた。
「無事か!?」
「うん。問題ないよ。薬も飲めたし」
「だったらいいの」
「この場で真っ先に薬の心配するのか!? 千佳姉ちゃんは!!」
 達樹の答えにほっとした千佳に、身の安全が最優先だろうと哉斗が叫ぶ。
「事実。薬が飲めて身の安全が保障されればここにいる必要はないの。兄さんたちも逃げたし、あとは達樹だけ」
「そっか。ありがとう」
達樹おとうとの心配をするのは、年上の役目よ。気にしないの」
 頭を撫でる千佳の手がくすぐったい。
「さて、脱出するぞ」
「待て!」
 待てと言われて待つ馬鹿がいるかっての、そう捨て台詞をはいたのは、翠だった。
 ひょいっと翠に担ぎ上げられ、なす術もなく廊下を逃げる。
「こういうのって……」
「阿呆! しゃべるな。舌かむぞ!」
 次の瞬間、「何かが」見えた。
「翠兄! ちょっと待って!」
「どうした!?」
「誰かもう一人捕らえられてる!!」
 その言葉に、三人が驚いていた。
「どっちだ!?」
 哉斗の言葉に達樹は道を示していく。


「……なんだ……この部屋……」
 豪華な調度品に囲まれた、「牢獄」だと達樹は思った。
「哉斗兄ちゃん、あそこ!」
 ベッドの上には鎖に繋がれた少女。銀色の髪はとても長く、黒い瞳。全てを惹きつける容姿にして、儚げに見えた。
「くそ!」
 哉斗が剣を振り、鎖を断ち切った。
「貴様ら! やはり『聖女様』が目的か!?」
 ん? 「聖女様」? 一瞬使えると思ったが、とりあえず怯えた少女のほうに目をやった。
「君が望むならおいで!」
 達樹は思わずそう言って手を差し出した。
「達樹!?」
 千佳が驚いた声をあげたが、それすらも無視した。普通、達樹はこんな言い方をしない。

 一瞬迷った少女は、達樹に手をのばした。
「聖女様!」
 その言葉にびくり、として少女は手を戻そうとしたその瞬間、哉斗が少女を抱えた。
「翠兄、そこの壁ハンマーで」
 哉斗に集中している間に、翠にそう指示する。それだけでいい。

 がこぉぉんと、響く音がして壁が壊れた。
「さて、脱出! 達樹!」
 翠に担がれるのは、既に諦めた。

 三人は颯爽とその場を去った。

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