「魔王様」の定義

神無乃愛

自分の性格は分かっているつもりです


 ガゼ地区の代表とのやり取りはそこまで難しいものではなかった。ただ、驚いたのは人間族に対する差別意識がかなりあるということだ。こちらでも魔族に対して差別意識があるから仕方ないとは思っているが。それ以上に人間族との混血は忌嫌われるらしい。この国でもその考えがある。だた、納得はいかない。その子供を産んだのは誰だ? と言いたくなってくるのだ。
 タゼ地区とのやり取りはかなり難航した。代表者との話が進まない上に、ドワーフの代表もかなりの偏屈者だったのだ。その偏屈者に気に入られたのは翆と千紘、それからシスだった。翆は分かる。かなりのオタクで、そういった知識も豊富だ。その流れからすれば千夏も気に入られると思ってたが、千夏とは折り合いがあわなかったらしく、口論で終わっている。
 翆の知識はさることながら「定規」「コンパス」といった測量機器にかなり興味を示したらしい。そして千紘が欲した医療機器。それを揃えるべく、屈強のドワーフが五人もこちらに入ってくれた。
「なぁに。こんな面白い話、そうそうない。変わったものを作れるんだ。こっちに来るのが流儀だろう」
 ドワーフ代表クンツォーネが笑って言う。こういった職人魂持ちとは水と油の関係である達樹は早々に戦線離脱をした。そのかわりにシスがかなりの頑張りを見せてくれた。
「僕もドワーフ一族の方々と話をしてみたかったんだ」
 さらりと言ってくれたシスのおかげで、達樹は別の計画に入ることが出来た。

「で、進行状況は?」
「自警団は問題ない。ドワーフの作る武器が無条件で与えられることに喜びを感じているくらいだな」
 哉斗が笑いながら言う。
「材料は?」
「リサイクルと物資確保は出来てるよ。環境汚染にならないように、植樹にも気をつかっているし、魔道師とドワーフの協力体制もなかなかいい」
 千紘の問いに達樹は答えた。この体制を作ってくれたのがシスだった。無駄に木を切らず、そして魔道師の育成になり、挙句自動付加で武器に魔法が入るといいこと尽くめらしいが、なにぶん火属性に偏ってしまっているのが難点である。
「水、土、緑の養育も順調だよ。その魔法で木や薬草を育てるなんて考えつかなかったよ」
 シスが笑って言うが、その発想を最初に達樹に教えたのは間違いなくシスだ。

 魔力持ちと魔力なしの連携も滞りなく進んでいる。何せ、指揮をとる達樹に魔力がないのだ。魔力がないからといって差別されることもない。ただ、就ける職業に制限があるくらいである。
「わたくしも魔力無しですわよ」
 いきなりエリザベスがカミングアウトした。
「……ない、んですか?」
「えぇ。わたくしの実家は元々商家です。夫の浪費で男爵家はすさまじい借金がありましたの。わたくしが男爵夫人になるかわりに、借金を実家で肩代わりしたんですの。
 そして、男爵家という後ろ盾をもらい、王家御用達の商家にまでのぼりつめました。商才はあっても交渉力がないと駄目なんですわね。父の死後、あっという間に夫に金をむしり取られて、実家は没落。夫は掌返したようにわたくしと別居しました。
 その後はチヒロ様もタツキ様もご存知でしょう? 全てを失った女と言われ、慈善事業に没頭し続けただけですわ」
「その心がけは立派だと思いますよ」
 千紘がさり気なくフォローしていた。
 千紘とは異なり、達樹はこの話を聞いてはからずとも上手い具合に体制が整いそうだと、思っていた。
 その辺りが「悪魔」だの「魔王」だのといわれるゆえんであることくらい、達樹も知っている。

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