「魔王様」の定義

神無乃愛

間違えただと!?

 どうやら異世界に召喚されたらしい、そんなことに重見 達樹しげみ たつきが気がついたのは、この男の言葉のおかげである。
「あ、間違って召喚しちゃった」
 ごめんね、と舌を出す仕草をする神官らしき男、シスリードだ。彼の髪は青く肩まであり、瞳の色は赤だった。
「じゃあ、帰してくれないかな?」
「無理かなぁ……僕の腕前でも片道しか開けれないから。……君が『伝説の勇者』になってもらうしかないんだけど」
「断る」
 何が楽しくてお約束的な「勇者様」にならなくてはいけないのだ。根っからの「オタク」である幼馴染たちなら喜んでやっただろうが。
「だとさぁ……死んでもらうしかないんだよね」
「尚更断る」
「だって、僕が召還できるのは一人だけだからね。君がいなくなればもう一人位召還できる力はあるから」
 まったくもって自己中心的な話である。

「仕方ないじゃんか。ここエーベル王国は既に終わりなんだから」
 シスリードが嫌そうに呟いた。
「終わり?」
「そ、もう終わりだね。間もなくこの国は消滅しちゃう。魔王によってね。ま、僕が言うのもなんだけど、魔王がいなくても遅かれ早かれこの国は滅んだよ。林檎の実が内側から腐っていくのと一緒だよ。片道しか異世界とつなげられない僕が神官長だっていうあたりで、術力も弱ってるんだから」
「少しでも国を長く保たせる為に、勇者様が必要だってこと?」
「……違うな。僕は国王に命令されただけ。国王はそこまで考えてない」
 ただ悪いこと全てを魔王と魔族へ責任転嫁したいだけだと。
「それに従ってる時点で僕も同罪だ。ただ僕は少しでも大切な人に生き延びて欲しいからね」
「知らんよ、俺は」
 達樹はばっさりと切り捨てた。
「同罪だと思うなら、止めろよ。俺から言えるのはそれだけ。……ま、正直ここに長く居れないかな。間違いなく俺は死ぬから」
「……いつ?」
「さぁ? 明日かもしれないし、一年後かもしれない。……ここの環境は俺をなぶり殺しにするにはもってこいだ。あんた、俺の親父に感謝されるよ」
 継母の機嫌を伺い、邪魔者扱いしている父親あの男からしてみれば、自分が手を出すことなく達樹がいなくなるのだ。これ以上ありがたいことはないだろう。その代わり、自分を大事にしてくれる幼馴染たちに間違いなくシスリードは殺される。

 さて、時間としてはそろそろ薬を飲む頃合だろう。こちらの世界に来たときに一緒に持ってきたバッグを開けた。
 スマホをのぞけば時間としては昼頃、食事をしなくても薬は飲まなきゃいけない。
「白湯ない?」
「……あるけど」
「頂戴」
 白湯を持ってきてもらって大人しく薬を飲む。持っている薬の量は一週間。さて、これが切れれば本当にカウントダウンだ。
「その箱何?」
「あぁ、スマホ。電話だよ」
「電話?」
「遠くにいる人間と話をするための道具」
「空間を繋げるってこと?」
「違うかな」
 原理をどう説明していいのやら。見れば圏外。いつも持ち歩いているソーラーバッテリーがありがたいくらいに役に立つだろう。
 ふ、と電波が入った。理由は? そんなものどうでもいい。早く幼馴染に連絡をしなくては。
 次々にかけていくも全て撃沈。仕方ない、一番忙しい幼馴染の電話をタップした。
『もしもし!? 達樹今どこだ』
「今、異世界」
 その言葉にシスリードが反応した。なにやら手を動かし始めた。
『ふざけたこと言うな! 薬どうするつもりだ』
「それも考慮して千紘ちひろ兄に電話をいましたところ」
『阿呆が! お前が行方不明になってから一週間だ』
 こちらでは一日も経過していないというのに、そこまで時間が経っていたとは。
「ん、大丈夫。また連絡してもいい?」
『お前の家絡みの行方不明ではないんだな?』
「うん。それだけは大丈夫」
『なら、また連絡を寄越せ。そん時には皆揃っているよう努力するから』
「有難う、千紘兄」
 やっぱり幼馴染たちはありがたい。
 ぷつっと電話を切ると、疲れたシスリードが驚いていた。
「やっぱり空間が繋がっている。今度は僕の意思で空間が繋げられると思う」
 どこまでも無茶をさせたいらしい。
「今ので空間が繋がったってこと?」
 また見ても圏外である。
「さっきね、誰かが空間を繋ぐ術を使ったんだ。そしたら、君がそれで何かし始めた」
「アンテナがたってたから、電話しただけ」
「あんてな?」
「説明難しいので省略」
 電話の機能をどうやって話をしたらいいものか達樹は一瞬悩んだが、すぐさま説明出来ないと悟りやめた。
「ところで、シスリードさん」
「シスでいい」
「じゃあ、シスさん。この世界のことを分かる範囲でいい、教えてもらえないか?」
 とりあえず幼馴染を頼る前にするべき事はある。

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