連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/154/:終戦

 雨の降る夜でした。
 魔物の雄叫びや鳴き声が地上を締め上げ、悲鳴もが聞こえました。
 戦いは終わり、私は1人、雨も当たらぬ地下神殿の最下層に着く。
 とうに限界を迎えた体力、私は装置にもたれかかり、ゆっくりと落ちる瞼に抵抗はありませんでした。
 やる事はやった、もう、寝てもいいはず。
 そう、自分に言い訳をして――。










 今から約半日前――。
 タルナと散開した後、私は【二千桜壁】を解除して【音響サウンド】を使い、叫びました。

『聞きなさい!!』

 まずは注目集めのために言い放ちました。
 キィンと残る耳鳴りが過ぎ去ると、私は続けます。

『今からこの大陸を魔物で埋め尽くします!! 私はこれから魔物の製造を行い続け、この大陸を満たします!! 死にたくなくば、く帰国してください!! 2度は言いません!! では、これより始めますっ!!!』

 それだけ言い残し、私は瞬間移動で地下神殿の4層から6層を順に移動しました。
 人骸鬼みたいに飛べる物は避け、見た目で飛べないと考えられる魔物を指定し、瞬間移動で次々に、無造作に地上に送り出します。
 100、200、300……それからは数えるのもやめ、私は地上に降り立ちました。

「【完全制御コンプリート・マネージ】、解除!!」

 そして、全ての魔物を解き放ちました。
 豚のようなもの、筋肉の逞しい鬼のようなもの、液体状、光球のようなものも、全て解放しました。
 途端に彼らは四方八方に走り、浮遊し、散り散りになりました。
 私を攻撃するものも居て、即座に私は瞬間移動で地下神殿に逃げ戻りました。

 一旦落ち着くと、次は空に瞬間移動します。
 上空からフラクリスラル軍の様子を見ると、私の言ったことを聞き入れず、進軍してきていました。

「……どうしようもありませんね」

 私の顔を知ってる人は、フラクリスラルでは多いはず。
 そんな私が彼らに何を言ったとしても、今では敵国人の私の言葉は聞き入れてもらえない。
 そうだと言うのなら――。



 これ以上先に行く前に、死に失せなさい。



 魔物がいよいよ軍人と邂逅を果たした。
 化け物に怯んだ刹那には人は死に、魔物も他の兵に殺される。
 そしてまた魔物が殺す。
 そんな五十歩百歩の攻防が繰り広げられる。

「――――」

 私は無言で、また地下神殿に瞬間移動しました。
 今度は最下層、そして魔物の精製を始めます。
 1体作っては【完全制御コンプリート・マネージ】で作り置きをし、この作業を繰り返す。
 大体、1体40秒程のペースで300体は作ったでしょうか。
 それら全てを選択対象とし、地上に放ちました。

 魔物はいくらでも作ることができる。
 悪魔力で作り上げ、彼らにこの地下神殿まで来させないよう、魔物の放出を続けました。

 いつまでやったのかわからず、外が夜になってる頃には、もうフラクリスラルの人は1人も西大陸に居ませんでした。
 数々の死体の中、ファリュイア・シュテルロードのものがあるのも見えましたが、何も言うことはありません。
 東の方を探しただけだから簡単にわかりました。

 ――この場所は守った。

 そして私は――。

 眠りを――。

 ――――。











 どれくらい寝ていたのかわかりませんでしたが、気持ちの悪い目覚めでした。
 日の光はなく、薄暗いホール内でゴウンゴウンと空調のファンがいびつな音を鳴らしながら回っている。
 私は起きてから、何度か嘔吐しました。
 人を殺した自責の念と、友人がまた死んだ悲しさ。
 私達がここに来て、救われた命は多い。
 だけれど、私に深く関わった人がみんな死にました。
 その悲しさと自責の念が折重なり、気持ち悪さがずっと残ったんです。

「――ヤララン……」

 涙目になりながら、眠るようなヤラランの顔を見ました。
 今あなたが側にいたらどんな介抱をし、労いの言葉をかけてくれるか。
 それとも人殺しをした私を責め立て、怒鳴り散らすか。
 私は怖くなりました。
 もう、今では私を嫌うかもしれない……。
 こんな私をもし見られたら、もうパートナーじゃないと言われるかもしれない……。
 そんな不安が頭をよぎってやみませんでした。

 私はとにかく、今できることをしました。
 界星試料の研究、悪魔力を使った魔物の精製、魔法の研究……。
 自分にできることに、全てを捧げました。
 他に何もすることはできない。
 なんせ、大陸に私は1人なのですから――。

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