連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/144/:流動する情勢

「お前ら、戻ってきたのか……」

 ゼェゼェと荒い息遣いで2人は膝に手をついて俺たちの前に立った。
 どうにもタイミングが良すぎる。
 一体全体、どういうことなのか。
 それはキィが話し出す。

「アルトリーユで、フラクリスラルが、西大陸に侵攻するって、聞いて、飛んできたっ」
「フラクリスラルが攻めてくる事が、アルトリーユに伝わって……?」

 わざわざアルトリーユにまで告知しておく必要が、果たしてあるだろうか。
 俺の疑問をメリスタスが拾う。

「多分ね、ミュラリルさんみたいな、この大陸に居る人を、撤退させる為だと思う、よ……」
「……なるほど、確かにな」

 この大陸の中にスパイやミュラルルのような奴がいる可能性は幾らでもある。
 そういう輩を撤退させるために告知したのだろう。
 でも、それなら――まだ時間があるって事だな。
 猶予があると聞いて心が少し軽くなる。

 しかし、キィの放った言葉で一気に重くなった。

「それで、上でサァグラトスの死体があったから、お前らが心配で……」
「! 王の!?」
「……フラクリスラル王の仕業ですね」

 冷静な分析をフォルシーナが下す。
 確かに、ここに今日来たのはフラクリスラル王のみだ。
 瞬間移動を使い、無色魔法が強いと聞くのだから争いになる前に殺したのだろう。

「……おい、それはどこだ?」

 ルガーダスさんが身を乗り出してキィに尋ねる。
 大分息の落ち着いてきたキィが答える。

「1階の、城正面から右の方の部屋だ」
「わかった」

 ルガーダスさんはそれだけ言うと、駆け足で去っていった。
 ……40年以上苦楽を共にした中だろう、いろいろ思うことがある筈だ。

「……俺たちも追い駆けるか?」
「……野暮ですよ」
「……そうだな」

 フォルシーナの意見に賛成し、俺たちは動かなかった。
 多分、暫くルガーダスさんは城を動かないだろう。
 その間に、連れてくる奴らを連れてこよう。

「キィ、メリスタス。悪いけど、留守番しててくれ。俺とフォルシーナはタルナとミュラリルを連れてくる」
「……って言われてもなぁ」
「ヤラランくん、さっき陽が沈んだよ?」
「えっ、そなの?」
『うん』

 2人揃って頷く。
 ここは地下だから外の様子がわからないが、2人が言うならそうなのだろう。

「……どうする?」

 横にいるフォルシーナに尋ねてみる。
 彼女はうーんと1つ唸り、すぐに答えを出した。

「時間があるのなら、明日でも良いと思います」
「……お前がそう言うなら、そうするか」

 明日でも誰も苦労しないわけだし、今日は何もしなくて良いのかね?
 来客中だから、研究ってのもちょっとな。

「つーか、どうすんだよヤララン? 戦うのか?」

 やんごとなしにキィが尋ねてくる。
 その質問はルガーダスのを含めて2度目だ。

「戦わねぇよ。要は、善悪比を傾けられればフラクリスラルの攻める理由は無くなる。俺が神楽器で魔力増やしまくって、反善の剣で斬られれば悪意が増えまくり、同時に世界全体での善意が増えまくる。こうなれば世界は豊かになるだろ?」
「……は? お前、マジで言ってんのか?」
「……ヤラランくん。さすがに、自分を犠牲にするのは……」
「最初からそのつもりでやってたんだよ。俺がこうすることで金輪際戦争も紛争も起きず、豊かな地を築ける。つっても、この装置を操れなかった時の最終手段だったがな」

 長く続いたキーボード、その上にある画面とその他諸々の配管や画面の出ている装置に目をやる。
 まだ俺たちはこの装置の事を全然わかってない。
 潮時といえば、そうだったのかもしれないな……。

「フォルシーナ、お前はそれでいいのかよ!? ヤラランがバカなこと言ってんだぞ!?」

 キィが憤慨を撒き散らして喚く。
 フォルシーナは全く動じず、クスリと笑って優しく答えた。

「良いのですよ。実は私、秋頃からヤラランと恋仲になりまして……」
『!?』
「3ヶ月少しですかね……もう十分ですよ」

 メリスタスもキィも、フォルシーナがぶっちゃけると口を開けて固まる。
 ……なんだか俺の方も照れ臭いが。

「はぁ!!? ヤラランお前、フォルシーナと恋人になってたのか!!?」
「うっせーよキィ。恋仲にゃなったが、別に普段どおりだし、大したことはしてねぇよ……」
「ヤラランは物凄く純情で、キスの1つも恥ずかしいからってしてくれないんですよ? おませさんなんですよねぇ〜」
「余計な事言わんでいい! って、どさくさに紛れて抱きつくな! あーもうっ!」

 フォルシーナが横から抱きついてくる。
 邪魔だ、暑いし。
 何より恥ずいんだよ!

 俺は引き剥がすためにフォルシーナの肩を掴み、思いっきり押した。

「いやん。ヤララン、今胸に手を当てませんでした?」
「当たってねーよっ! 誤解を招くこと言うんじゃねー!」
「顔真っ赤ですよ〜っ? フフフフッ、可愛い〜っ♪」
「……もう好きにしてくれ」
「はーい♪」

 遠慮なく腕に抱きついてきて頬擦りしてくるフォルシーナ。
 俺としては、諦めて開き直ったのではなく、単に力が入らなくなって抵抗する気も失せただけだった。

「……うわぁ」
「2人共とても仲よさそうだね〜」

 そんな俺たちを見て、キィは引き、メリスタスはニコニコ笑ってそう言ったのだった。

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