連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/138/:恋の先輩
今思えば俺は、無意識にアイツを好きになってたのかもしれない。
よくもまぁパートナーだのずっと一緒だの惜しげも無く言ってたもんだ。
そこになんの躊躇いも無かったのはきっと、事実を言っていたに過ぎないからと自分を偽ってたのかもしれない。
いや、それは行き過ぎた考えかもしれないが、兎も角、1番大切な存在であるのは変わりなかったし……うん、なんだろう。
「……どうしたもんかなぁ」
俺は今、地下神殿入り口の石像が参列した通路を歩いていた。
考え事をするには綺麗な所を見ながらに限る。
海で俺は、フォルシーナが自分にとって大切な存在だと自覚した。
それからいろいろ思い返してみれば、世話になりっ放しで俺自身の情けなさも身に染みた。
最終的には、離れて欲しくないと結論が出て、幸せを願ってやってるのに、俺の思いはしっちゃかめっちゃかで手の施しようがない。
しかも、アレだろ?
「フォルシーナはルガーダスさんが好きなんだよなぁ……」
言葉に出してみて、続いて出るのはため息。
そりゃあさ、俺は6年も一緒に居たんだから恋愛対象じゃないかもしれない。
おっさんでも、この場所にはルガーダスさんぐらいしか他に異性がいないんだからフォルシーナが彼に交際を持ち掛ける可能性は十分にある。
ルガーダスさんだって、フォルシーナは美人で笑うと可愛いし、頭良いし、断る理由もねぇもんな……。
「まぁ、俺は恋できる立場でもねぇけどさぁ……はぁ……」
今まで――キィもミュラリルも断ってきた。
それはなんでだろう。
俺が幸せにできる保証がまったくないからだろう。
実際、今の俺は此処で研究しているだけだし、恋愛だのできない。
さらには、俺は最終的には人柱になる。
研究をできるだけやって、俺の人生がつきそうになったらきっと俺は封印される。
もしくは――フラクリスラルが、戦争を持ちかけてくれば――。
俺だってわかっているんだ。
フラクリスラルが西大陸の異変に気付いてない筈がないって。
きっと、ここを俺が来る前に戻そうと、戦争を持ちかけて来るはずなんだ。
おそらくそれをしてないのは、俺とフォルシーナの存在だろう。
家名を捨てたと言っても正式な手続きなんてしてないし、国は貴族の子供と見ているわけだ。
フォルシーナに至っては研究者として一流だし、殺すには惜しい筈。
とはいえ、ここまでは全て仮定に過ぎないが、フラクリスラルが襲ってくる可能性は高いんだ。
だが、善悪比を俺がひっくり返してしまえば襲う理由もなくなる。
いつ俺が声も聞けなくなるかわからない。
恋愛、恋愛か……。
「……まぁ、死ぬ前に告白ぐらいできれば、それでいいだろ」
俺の意志はどんな事にも負けない。
恋愛も、国との戦争も、浮華に過ぎない。
……絶対に。
…………。
……。
王曰く、季節は晩秋となり、木の葉は枯葉となり飾り気のない木々が目立つようになったとのこと。
私はまた新たな悩みを抱えていました。
「最近、露骨にヤラランの様子がおかしいです」
所は変わり、地下神殿入り口付近。
石像の間を私とルガーダスさんがゆっくりと歩いていました。
「お前に対して明らかに挙動不審だよな〜」
ルガーダスさんが呑気に呟く。
相変わらずどうでも良さそうというか、投げやりというか……。
「……本当、どうしたんでしょうか」
ここ最近のヤラランはおかしい。
まぁ、殴ってしまったあの日を折りに変になったのだから私への態度が変わっても不思議ではないですが、それとは違うような気がします。
例えばこの前、試料が何処にあるが尋ねた時――
「ヤララン、この試料がどこにあるか知りませんか?」
「えっ!? いやその……あっちにあるよ多分、うん。……無かったらごめん」
と、おどおどした様子で答えたり……。
しかも無かったし……。
他にも……。
「ねぇヤララン、ここの数式なんですけど……」
「そっ、そんなのは全部1入れときゃなんとかなるっ!じゃあ俺は下でやるからまたな!」
「いやいやいやいやっ……って、もう居ないし……」
など……挙動不審です。
あからさまに避けられてるんでしょうか?
でも、離れたくないと言ってましたし……。
うーん、遂にヤラランが私にデレたかとも思いましたが、それも違うっぽいんですよね。
慌ててはいるけど、別に照れてる様子でもないんですよね。
あの人、滅多に赤面なんてしませんし……。
「……よくわかりませんねぇ」
「はっはっは! お前ら似た者同士だなぁ。つーかよくここまで恋愛が成就しねぇもんだよな? ここは人生の先輩であるノールにでも聞いてみたらどうだ? アイツ出会って3日で恋人になったみたいだぜ?」
「おおっ、その意見ナイスです! 粗大ゴミ以下の役立たずの癖に、今の発言だけは認めましょう!」
「……お前の中で俺はどうなっているんだ」
そんなルガーダスさんのボヤきも聞かず、さっさと瞬間移動でノールちゃんの居るはずの空き家に移動しました。
視界が変わると、そこは薄暗い空き家でした。
部屋の奥に藁が積んであり、後は真ん中に囲炉裏があるだけ。
囲炉裏には火が灯っており、火の上に置かれた釜に入ったスープを、ノールちゃんがお玉で掻き混ぜてました。
んー?と唸って私を見ると、ため息を1つ吐いてジト目を作り、口を開きました。
「なに? ウチになんか用?」
「ノールちゃん、恋の先輩である貴方に相談があります」
「早くして。お昼ゴハン作ってるんだから……」
お玉を釜の中に立てかけ、魔法で火を消すノールちゃん。
私は彼女に、ヤラランの事が昔から好きであることを始めとし、最近の出来事を全部話しました。
時々、うんうんとか、あーとか相槌をしながらノールちゃんは聞いてくれました。
で、話終わる頃には……。
「……長い。もうスープ冷めちゃったし」
スープも冷めて、文句を言われてしまうわけです。
その事は申し訳ないけれど……。
「お昼を邪魔して申し訳ありません。でも、どうにか私にアドバイスをください! お願いします!」
「告白すればいいんじゃないの?」
「軽っ!?」
あまりにも当たり前のアドバイス過ぎて思わずツッコミをいれてしまう。
ちょっとちょっと、恋愛の先輩でしょう!?
「なんかこう、もっとないんですか?」
「ないけど? ウチさぁ、死んだ彼氏の名前がキトリュー様って言うんだけど、彼に会って1日で好きになってね、その日はフラれたのよ」
「え? は、はぁ」
頬杖を付き、ゆっくりお玉でスープを混ぜながらノールちゃんが語る。
「フラれたけど、めちゃくちゃ好きだったから諦めてたまるかーっ!って猛アタックしたわけ。そしたら2日で落としてやったわ」
「おお〜っ」
3日で恋人になったとはそういう経緯ですか。
ふむふむ、先に告白してからアタック……。
「好きなもんは好きでしょ? 相手が告白断ろうが関係ない。寧ろ、その程度で折れる恋心だったら、ポッキリへし折って別の恋探した方がいいわ。諦めきれない恋なら延々とアタックすればいいのよ」
お玉にスープを1掬いし、ちょびちょび釜の中に落としていく。
無意味な行動に出るノールちゃんの瞳には昔を懐かしむような、優しさが内包していた。
「……いいね、恋が出来るのは。ウチは彼が王子として産まれたこの地を離れることすらできないわ。君も、もう随分縛られてるんじゃない?」
「……そうですね。私も、縛られてるかもしれません」
「ダメよ、そんなんじゃ。寧ろ相手を縛ってやるぐらいの気持ちでいい。自分をグイグイ押し出して、相手の心を射止めなさい」
「はは……。ありがとうございます。そうですね、ちょっと頑張ってみますよ」
「よろしいっ。とっとと戻って、告ってきちゃえ。朗報待ってるよん」
「はいっ。ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、私はまた瞬間移動を発動させた。
戻る地は決まっている――。
「ウチもおばさん臭くなったかなぁ……」
1人残されたノールは、スープを飲みながらそんな事を呟いたそうな。
よくもまぁパートナーだのずっと一緒だの惜しげも無く言ってたもんだ。
そこになんの躊躇いも無かったのはきっと、事実を言っていたに過ぎないからと自分を偽ってたのかもしれない。
いや、それは行き過ぎた考えかもしれないが、兎も角、1番大切な存在であるのは変わりなかったし……うん、なんだろう。
「……どうしたもんかなぁ」
俺は今、地下神殿入り口の石像が参列した通路を歩いていた。
考え事をするには綺麗な所を見ながらに限る。
海で俺は、フォルシーナが自分にとって大切な存在だと自覚した。
それからいろいろ思い返してみれば、世話になりっ放しで俺自身の情けなさも身に染みた。
最終的には、離れて欲しくないと結論が出て、幸せを願ってやってるのに、俺の思いはしっちゃかめっちゃかで手の施しようがない。
しかも、アレだろ?
「フォルシーナはルガーダスさんが好きなんだよなぁ……」
言葉に出してみて、続いて出るのはため息。
そりゃあさ、俺は6年も一緒に居たんだから恋愛対象じゃないかもしれない。
おっさんでも、この場所にはルガーダスさんぐらいしか他に異性がいないんだからフォルシーナが彼に交際を持ち掛ける可能性は十分にある。
ルガーダスさんだって、フォルシーナは美人で笑うと可愛いし、頭良いし、断る理由もねぇもんな……。
「まぁ、俺は恋できる立場でもねぇけどさぁ……はぁ……」
今まで――キィもミュラリルも断ってきた。
それはなんでだろう。
俺が幸せにできる保証がまったくないからだろう。
実際、今の俺は此処で研究しているだけだし、恋愛だのできない。
さらには、俺は最終的には人柱になる。
研究をできるだけやって、俺の人生がつきそうになったらきっと俺は封印される。
もしくは――フラクリスラルが、戦争を持ちかけてくれば――。
俺だってわかっているんだ。
フラクリスラルが西大陸の異変に気付いてない筈がないって。
きっと、ここを俺が来る前に戻そうと、戦争を持ちかけて来るはずなんだ。
おそらくそれをしてないのは、俺とフォルシーナの存在だろう。
家名を捨てたと言っても正式な手続きなんてしてないし、国は貴族の子供と見ているわけだ。
フォルシーナに至っては研究者として一流だし、殺すには惜しい筈。
とはいえ、ここまでは全て仮定に過ぎないが、フラクリスラルが襲ってくる可能性は高いんだ。
だが、善悪比を俺がひっくり返してしまえば襲う理由もなくなる。
いつ俺が声も聞けなくなるかわからない。
恋愛、恋愛か……。
「……まぁ、死ぬ前に告白ぐらいできれば、それでいいだろ」
俺の意志はどんな事にも負けない。
恋愛も、国との戦争も、浮華に過ぎない。
……絶対に。
…………。
……。
王曰く、季節は晩秋となり、木の葉は枯葉となり飾り気のない木々が目立つようになったとのこと。
私はまた新たな悩みを抱えていました。
「最近、露骨にヤラランの様子がおかしいです」
所は変わり、地下神殿入り口付近。
石像の間を私とルガーダスさんがゆっくりと歩いていました。
「お前に対して明らかに挙動不審だよな〜」
ルガーダスさんが呑気に呟く。
相変わらずどうでも良さそうというか、投げやりというか……。
「……本当、どうしたんでしょうか」
ここ最近のヤラランはおかしい。
まぁ、殴ってしまったあの日を折りに変になったのだから私への態度が変わっても不思議ではないですが、それとは違うような気がします。
例えばこの前、試料が何処にあるが尋ねた時――
「ヤララン、この試料がどこにあるか知りませんか?」
「えっ!? いやその……あっちにあるよ多分、うん。……無かったらごめん」
と、おどおどした様子で答えたり……。
しかも無かったし……。
他にも……。
「ねぇヤララン、ここの数式なんですけど……」
「そっ、そんなのは全部1入れときゃなんとかなるっ!じゃあ俺は下でやるからまたな!」
「いやいやいやいやっ……って、もう居ないし……」
など……挙動不審です。
あからさまに避けられてるんでしょうか?
でも、離れたくないと言ってましたし……。
うーん、遂にヤラランが私にデレたかとも思いましたが、それも違うっぽいんですよね。
慌ててはいるけど、別に照れてる様子でもないんですよね。
あの人、滅多に赤面なんてしませんし……。
「……よくわかりませんねぇ」
「はっはっは! お前ら似た者同士だなぁ。つーかよくここまで恋愛が成就しねぇもんだよな? ここは人生の先輩であるノールにでも聞いてみたらどうだ? アイツ出会って3日で恋人になったみたいだぜ?」
「おおっ、その意見ナイスです! 粗大ゴミ以下の役立たずの癖に、今の発言だけは認めましょう!」
「……お前の中で俺はどうなっているんだ」
そんなルガーダスさんのボヤきも聞かず、さっさと瞬間移動でノールちゃんの居るはずの空き家に移動しました。
視界が変わると、そこは薄暗い空き家でした。
部屋の奥に藁が積んであり、後は真ん中に囲炉裏があるだけ。
囲炉裏には火が灯っており、火の上に置かれた釜に入ったスープを、ノールちゃんがお玉で掻き混ぜてました。
んー?と唸って私を見ると、ため息を1つ吐いてジト目を作り、口を開きました。
「なに? ウチになんか用?」
「ノールちゃん、恋の先輩である貴方に相談があります」
「早くして。お昼ゴハン作ってるんだから……」
お玉を釜の中に立てかけ、魔法で火を消すノールちゃん。
私は彼女に、ヤラランの事が昔から好きであることを始めとし、最近の出来事を全部話しました。
時々、うんうんとか、あーとか相槌をしながらノールちゃんは聞いてくれました。
で、話終わる頃には……。
「……長い。もうスープ冷めちゃったし」
スープも冷めて、文句を言われてしまうわけです。
その事は申し訳ないけれど……。
「お昼を邪魔して申し訳ありません。でも、どうにか私にアドバイスをください! お願いします!」
「告白すればいいんじゃないの?」
「軽っ!?」
あまりにも当たり前のアドバイス過ぎて思わずツッコミをいれてしまう。
ちょっとちょっと、恋愛の先輩でしょう!?
「なんかこう、もっとないんですか?」
「ないけど? ウチさぁ、死んだ彼氏の名前がキトリュー様って言うんだけど、彼に会って1日で好きになってね、その日はフラれたのよ」
「え? は、はぁ」
頬杖を付き、ゆっくりお玉でスープを混ぜながらノールちゃんが語る。
「フラれたけど、めちゃくちゃ好きだったから諦めてたまるかーっ!って猛アタックしたわけ。そしたら2日で落としてやったわ」
「おお〜っ」
3日で恋人になったとはそういう経緯ですか。
ふむふむ、先に告白してからアタック……。
「好きなもんは好きでしょ? 相手が告白断ろうが関係ない。寧ろ、その程度で折れる恋心だったら、ポッキリへし折って別の恋探した方がいいわ。諦めきれない恋なら延々とアタックすればいいのよ」
お玉にスープを1掬いし、ちょびちょび釜の中に落としていく。
無意味な行動に出るノールちゃんの瞳には昔を懐かしむような、優しさが内包していた。
「……いいね、恋が出来るのは。ウチは彼が王子として産まれたこの地を離れることすらできないわ。君も、もう随分縛られてるんじゃない?」
「……そうですね。私も、縛られてるかもしれません」
「ダメよ、そんなんじゃ。寧ろ相手を縛ってやるぐらいの気持ちでいい。自分をグイグイ押し出して、相手の心を射止めなさい」
「はは……。ありがとうございます。そうですね、ちょっと頑張ってみますよ」
「よろしいっ。とっとと戻って、告ってきちゃえ。朗報待ってるよん」
「はいっ。ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、私はまた瞬間移動を発動させた。
戻る地は決まっている――。
「ウチもおばさん臭くなったかなぁ……」
1人残されたノールは、スープを飲みながらそんな事を呟いたそうな。
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