連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/125/:研究過程その2

 フォルシーナがよく使う【魔法入力版マジシャン・ボード】では細々とした電気の流れなどの物理現象は感知できない。
 魔法はもっとざっくばらんとしたもので、巨視的で抽象的な作業なのだ。
 ただ、【自動探知オート・サーチング】の様なもので図は見ることができる。
 電気だのガスだのといった目に見えないものの動きを図にはできないが……それでも、【自動探知オート・サーチング】を使うのが今の精一杯であるには違いない。
 矢張りフォルシーナがいることで一味も二味も違うのだ。

「……色々と小さな素子があるじゃないですか。性質とかわかってませんか?」
「3つぐらいはわかってる。あとは知らねーよ」
「……あと50ぐらいありますよね」
「それよりちいせぇのも100はあるがな」

 寝室にてルガーダスとフォルシーナが図面を広げながらそんな会話をする。
 俺も図面を見ているが、たくさん線が引いてあって、所々変な形の点やマークがついてるだけにしか見えん。

「……本体を分解できないのに、性質を知るなんて不可能ですよね」
「同じ構造のものを作ろうにも精密過ぎるしな。どうするよ、天才少女?」
「……大き目に作ってみましょう」
「材料は? 1つ1つ作るにも、コイツらはいろんな金属の塊だぞ」
「……うーん。しょ、商会にありますかね?」

 多分商会にあるとの事で戻る事になったわけだが、王を介さなければ一先ずは出れない。
 そのためルガーダスさんに呼んできてもらったが、今後も出入りするということで瞬間移動の魔法をフォルシーナが【魔法入力版マジシャン・ボード】に記録して俺とフォルシーナ自身で使えるようにした。
 移動が楽になったのもあり、俺は一度城から離れてタルナやミュラリルの元に挨拶回りに行った。
 カララルにも会ったが泣き付かれて大変だったのはご愛嬌。
 生活については変わりないみたいだが、突然暴れ出す奴がたまにでてきて懲罰房を設立したそうな。
 ……原因は明白だが、今は何も言わず、城の最下層に戻った。

 研究に必要な材料はつつがなく集まった。
 2年も離れていたが上層部の方からの信頼も厚くて顔を見せると喜びの声があった。
 宴会でも開きたかったものだが、そんな時間もない。
 いい加減な管理だし、商会の権限は最後には渡してきたが、そこにはほぼ後悔もない。
 俺たちは、もう生きる地がある――。










「――諦めろよな。人骸鬼は人間を型に出来るんだ。一度型を作ってからじゃねーとできねぇ。1番コンパクトかつ魔力保有が多大な人骸鬼を量産するのが効率良いんだよ」

 研究開始から1ヶ月が経っただろうか。
 ルガーダスは俺とフォルシーナにそう言って諭した。

「人骸鬼より保有量の多い奴は龍のたぐいとか巨大な爬虫類とかで場所を取る。人口は増加する一方で、善意が増え続けるんだ。この先、今はまだスペースのある5層6層、完全に空いてる7層も埋まるのは数百年後かどうか……そう遠い未来じゃないんだよ」

 ベッドに隣接された机の椅子に肘をかけ、足組をしながら俺たちに言い聞かせてくる。
 俺たちも充てがわれた机の前に座っていたが、顔も体もルガーダスの方を向いていた。

「……ですが、倫理的にどうなのでしょうか。未来のために、人間を作って人柱にする。それは、善いことなのでしょうか?」
「あのな、善い事だけしてても仕方ねーんだよ。それに、倫理的に問題だとしても、その問題を責める奴ぁいねぇ。生み出された奴も思考能力がねぇんだから困らねぇ。一直線に人骸鬼を作れず、手前に手順が1つあるだけだ。気にし過ぎなんだよ」
「…………」

 フォルシーナが反論するが、尚もルガーダスは跳ね除けて諭した。
 フォルシーナは眉を顰めて視線を俺にやった。

「……ヤララン、何も言わないのですか? 貴方の方がこういう事に敏感でしょう?」
「……まぁ、そうだな。でも、俺は今、悩んでるんだ。善悪平等の元なら平和の訪れようがない。だったら、誰かが不幸なのが必然なのかもしれないって……」

 俺の言葉を聞いて、フォルシーナはおののいた。
 俺に対して慄くなんて、初めてだった。

「……どうしたんですか。貴方がそんな事を言うなんて……」
「……一部の不幸が世界の事実なら、それを受け止めるさ。そして、この事実が嫌だから俺たちは頑張ってる。他に手段が無いと言うのなら、今は耐えるしかない。そうだろ?」
「…………。それでも、私は認めたくない……」

 俺は内心驚いていた。
 フォルシーナがこんなに人命を重んじるようになっていた事に。
 当然、その気持ちは俺にだってあるけれど……。

「じゃあ嬢ちゃん。アンタに生物精製を一任してやるよ」
「!?」

 ルガーダスが半ば投げやりに言い放つ。
 フォルシーナは驚きのあまりに立ち上がって両手で机を叩いた。

「い、良いんですか?」
「良いんじゃねぇの? その代わり、未来のことも考えてしっかり努めろよ」
「は、はい!」

 フォルシーナはこうして笑顔で請け負った。
 ルガーダスから今までの研究で得られたらしい生物精製のリストを貰い、日々働いている。く

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