連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/120/:3人

 連れてこられたのは1つ上の階、そこは本棚の列がズラリと並んだ空間だった。
 天井には空調の巨大なファンが回っており、本棚の間には本が散乱していて足の踏み場がない。
 ルガーダスが本を踏みながら歩いて行き、俺も渋々付いて行くと、その奥には6つのベッドともそれに隣接された机があった。
 下の階のような機械的な物はなく、アルコールランプで明かりが灯してあるだけ。
 ベッドの付近も書類が散乱してるし、布団がぐしゃぐしゃであまりにも汚い。

「……ここで生活してるのか?」
「そうだ。汚ねえって言いたいのか?」
「いや、別にそうじゃねぇけど……」
「ふん、研究者は真面目な奴はキチッと整理するが、俺みたいな奴はこんぐらいの部屋が過ごしやすいのさ」
「……あっそう」

 ルガーダスは右奥の机の中を漁りだし、引き出しを開けては閉め、やがてクリップで閉じられた厚い紙束を取り出し、表紙を確認して俺に示した。

「ほら。とりあえず、コイツを読め。今までの研究成果らしい。大したこと書いてねぇけどな」
「……あ、あぁ」
「んで、読んだら奥でこっそり見てる女に回せ」
「……え?」

 俺にはわからないが、誰かこっちを見ているようだ。
 さらにルガーダスが声をかける。

「どうせお前も研究に加わんだろ? こっちこい」
「…………」

 本棚の間から現れたのは、気まずそうな顔のフォルシーナだった。
 目線を下にして、俺と変わらぬ背のはずが小さくなったように感じる。

「……おはようございます」
「おい、コイツはさっきも会ったのに挨拶する女なのか?」
「いや、今は頭おかしいだけなんだ」
「おかしくないですよっ!」

 フォルシーナの怒声が無駄に広いこの空間に響いた。
 なんか怒ってるし、やっぱりおかしい。

「どうしたんだよ?憤慨してもいいことねぇぞ?」
「……だって私はさっき諦めてたのに、無知のヤラランがやるからには、相棒として共同研究しないわけにはいかないじゃないですか」
「……はぁ。馬鹿にしたいのか褒めてるのかどっちなんだ」

 無知な相棒で纏めればいいのか。
 腹を立てるほどではないが、ため息が出る。

「とにかく、お前もやるんだろ?頼りにしてるから、一緒にやってみようぜ」
「……はい。私も元気を出して、力を振り絞って協力しますっ」

 両拳を握り、元気な様を見せようとするフォルシーナ。
 その仕草は見せかけか、真か……。

「……オメェら、無理はすんなよ。どうせすぐ投げ出すんだ。根詰めたりしても仕方ねぇからな」
「誰が投げ出すかよ。アンタは投げ出したのか?」
「ハッ、どうせやることもねぇんだ。地味に毎日ちょこちょこ調べてるよ。特に何も見当たらん。動力を見たって、どういう原理でエネルギーを得ているのかすらわからない。や、これは投げ出してるのに等しいのか?まぁどっちでもいい。どうせ、あの装置を攻略することなんて不可能だからな」
「…………」

 不可能という、たった三文字の言葉が重い。
 目の前の紙を見ても、意味のわからないことしか書いてないし、可能とする現実味がないのだ。

「実際のところ、俺としては俺の死後に装置と魔物を操れる奴がいりゃ万々歳だ。どうせ俺も、あと20年足らずで80超えるし、お前らガキンチョが技術受け継いで、尚且なおかつガキでも産んでくれりゃあ東の意地汚ねぇ技術者もこねぇってもんだ」
「……あのですねぇ。わ、私たちの子供とか……そういうデリカシーのないこと言わないでくれませんか?」

 フォルシーナが顔を真っ赤にさせながらルガーダスに反論する。
 デリカシーのない?
 そういうもんなのか?
 とはいえ、俺もその意見には賛同できる。

「そうだな。俺も、仮にであってもフォルシーナが子供を身ごもって欲しくない。一番賢いのに、妊娠したら働けないだろ?」
「あー、それもそうかもな?でもお前、恋人に子供産んで欲しくねぇってのはどうかと思うぜ?」
「……よく勘違いされるが、恋人じゃねぇよ。大事な仲間にゃ変わりねぇけどな」
「ハッハッハ! そうかいそうかい! 嬢ちゃん、残念だったなぁ? このガキにはそんな気が――」
「それ以上言ったら拳を5、6発いきますよ……?」
「――いやぁ、この緑の服のガキは嬢ちゃんの魅力に気付かねぇなんて、なんて残念なんだぁー!」
「……なんだよ、お前ら」

 研究者2人がうるさい。
 よくわからないが、2人が盛り上がってる間に資料を読み通そうと視線を落とした。

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