連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/111/:人骸鬼
改まって見ても、やっぱり怖い顔をしている。
クマのある目は眼光が鋭く、鼻下にも顎にも生えた白い髭は重力のままに垂れ下がり、頭に被った王冠や多くの装飾が似合っており、荘厳な表持ちだった。
そんな彼が、口を開く。
「其方達、シィのご子息の友人よ。其方達を善い人間と見込んで、可能ならば、余の願いを聞き届けて欲しい」
「……ものによりますね。不可能な事もありますから」
俺が言うよりも早く口を開き、フォルシーナが言葉を返す。
俺の不躾な物言いよりも、フォルシーナが交渉する方がいいのは目に見えており、俺も口を閉じた。
爺さんが話の内容を口にする。
「シィのご子息を、安全な場所で幸せに暮らせるよう、手配して欲しい」
「……ふむ」
俺なら二つ返事で承諾しようものだったが、フォルシーナは相槌だけ返した。
そして、先ほどまで威厳があるように見えた爺さんは、今はもう過保護な1人の大人にしか見えなくなった。
爺さんの体から、家族を守りたい気持ちが溢れてるように思えたから。
「ハヴレウス家は呪われているとしか思えない。それ程までに酷い境遇を追っている。みな死に、大公、その他貴族も殆ど死んでしまった。ならば妹の子孫1人ぐらい、幸せであって欲しい。余の最後の願いだろう。我々は人柱としてこの先も生きる宿命なのだから。報酬なら、ここにある物をなんでもやろう。だから、どうか……」
「……その前に、どうか私の話を聞いてはくれませんか?」
「聞こう。なんだ?」
「ありがとうございます。私達は今、西大陸を平和にするべく活動しています」
「! 近頃の悪意損失は其方達が原因か」
「申し訳ありません。ですが、そのおかげもあって、シィ様のご子息――キィは笑って過ごせています。幸福は人それぞれですので、キィは今の生活でも十分かと存じます。ですが、それも私の一存でしかありません。ですので、よろしければキィに直接交渉してみてはいかがでしょう? ヤラランみたいに口が悪いのですけれど、きっと、キィちゃんも血の繋がりのある貴方とたくさんお話がしたいと思われるはずですから……」
最後の方、フォルシーナ微笑みながら話した。
そこには2人で沢山話して欲しいという深い思いがあって、元々、家族同士で話させようという算段で俺が物を言う前に言葉を返したのだと理解した。
「……其方は優しいな」
「これでも、優しい人の隣で5年以上過ごしてますから」
「成る程。……良きパートナーを持っているようだな」
暗に俺のことを言ってるのがわかって苦笑した。
全部が全部、俺のおかげでフォルシーナが成長したわけじゃない。
だからその言葉に、素直に喜ぶのもちょっとな……。
「しかし、よもや42年ぶりに人間の優しさに触れるとはな……」
「フフッ、今のご気分は如何ですか?」
「……。実に心地よい、懐かしい気分だ。もう、すっかり忘れていた……こんな暖かさがあったなんて……心より感謝するぞ、少女よ」
「美少女ですよ、お兄さん?」
「……食えない奴め」
「…………」
フォルシーナが美少女と言った瞬間、ギョロッと隣にいる銀髪野郎を見てしまった俺は悪かっただろうか。
まぁともあれ、これでハヴレウス城には平和的に行けそうだ。
「キィちゃんが戻り次第、話の場を設けましょう。ヤララン、良いですね?」
「もちろんだ。王様もそれでいいよな?」
「無論だ。姪っ子か……楽しみだ」
「…………」
王様は初めて笑みを零した。
子煩悩のように見えて、俺とフォルシーナも顔を見合わせ、また微笑んだ。
――バンッ!!!
その微笑みも、刹那に聞こえた衝撃音と共に掻き消される。
続いて聞こえてきたのは木が割れる音。
バリバリと床に穴を開け、頭から血を流すノールが落ちてきたのだ。
「ぐっ……アアッ! 人骸鬼風情が……舐めた真似をッ!!!」
天井から降ってきた巫女は黒の甲冑と羽を纏っているが、所々傷付いたり鎧は割れたりしていた。
歯を噛み締めながらゆらゆらと立ち上がる。
「だ、大丈夫かよ?」
俺は駆け寄って黄魔法を使い、ノールに回復を掛ける。
「ノール、どうした? 人骸鬼など、其の敵ではないだろう?」
「……あまり、力が出ない。【黒天の血魔法】の魔法の威力が、前の半分しかないんだよ! ムカつく、死ね、殺す、叫ばせてやる、ぐちゃぐちゃにして――やるっ!!!」
「あっ! おい!!」
呪詛を綴りながら、ノールは落ちてきた穴から飛び出してった。
まだ傷も塞がってないのに、あんな様子で勝てるのだろうか……?
「……世話の焼ける義妹だ。ヤララン、余と共に援護せよ」
「了解。フォルシーナ、お前は待ってろ」
「……私だけハブるんですか?」
「行きたいのか?」
「いえ、微塵も」
「……じゃあここで待ってろ」
「はーい」
結局戦闘に参加する気のないらしく、呑気に返事を返すフォルシーナ。
まぁ、俺と無色魔法最強らしい爺さんがいりゃあ【黒天の血魔法】の魔法が使えようと相手ではないだろう。
「何を話している。行くぞ」
「へいへいっ」
爺さんが先行して天井の穴から外に出ると、俺もマフラーを羽衣にして外へ飛び出す。
ノールが戦闘している姿はすぐに見つけられた。
黒い光が飛び交い、ほぼ全てが相殺している。
やってくる爆風を俺たちは顧みずに飛んだ。
「アァァァァアアアアア!!!」
空に浮かぶノールが、両手を広げて咆哮する。
怒りに満ち満ちたその叫びと共に、彼女の手には黒木光が収束を始めた。
「――ガガッ、グッ、グゴッ……」
相手にしていたのは彼女より低い位置にいる黒い骸骨。
頭からは一本角が生えており、その周りに半周で途切れ、円を描く黒のリングが浮いている。
上半身はただの黒い骨であったが、羽衣を纏い、手首にはカラスの羽を集めて出来た腕輪のような毛があった。
下半身はどうしたのか、赤の腰帯とと青黒い軽衫を履き、足の骨には先の尖った靴が履いてある。
化け物なのに人間に近い姿だが、背中の腰帯部分からはノールのものと似た漆黒の翼が1組生えている。
体長は3mといったところだろうか、人間に比べればデカい。
明らかに人間の風貌ではないが、体つきからは人間らしさを感じられる。
しかし、そんな事で親近感が沸くでもなく、危険だと言うのならばはいじょするのみ。
俺たち2人は戦いの場から十分離れた空で浮いていた。
無色魔法であるなら、ここからでも効果は十分なのだ。
「【黒天の血魔法】――」
ノールが両手を振り上げると、その手の中には漆黒の大剣が収まっていた。
禍々しい黒い魔力が剣に収束始める。
「――【悪苑の剣戟】!!」
叫ぶと同時に、ノールは人骸鬼へと一気に下降する。
4枚の翼を羽ばたかせ、目にも留まらぬ速さで人骸鬼に衝突し、大剣を振り下ろした。
空が光った。
黒い光の塊が、ノールのいた所から蒼天に上り詰めてゆき、黒い光は徐々に消えていった。
ノールの技の威力は全然衰えているようには見えない。
これであの骸骨も死んだんじゃないだろうか?
「ヤララン、ノールの支援に回ってくれ」
「え?」
「早く」
「お、おう……」
何故か指示をされ、俺は消えゆく黒い光へと突っ込んでいく。
と、黒い塊から何かが落ちた。
肘から先の両腕が無くなったノールが、眠るような表情で落ちていたのだ。
「ッツ!? おいっ!」
急いで俺は下へと飛んだ。
呼びかけても返事はなく、気絶しているように見える。
追いついた彼女を両腕で抱き上げ、俺は空中で静止した。
息はあった、死んではいない。
だが、肘から先、そこは黒い結晶で覆われていて再生できるかも謎だった。
何故、ノールが負傷しているのかわからない。
【悪苑の剣戟】で爆発を起こしたにしても、俺たちとの戦いでは負傷することはなかった。
だとすると、人骸鬼が?
さっきの光は、人骸鬼の――?
空を見上げれば、人骸鬼がその歯をコツコツと鳴らして俺たちを見下していた。
肋骨も腕の骨も、1つも欠けることなく漫然とした様子で浮遊していた。
クマのある目は眼光が鋭く、鼻下にも顎にも生えた白い髭は重力のままに垂れ下がり、頭に被った王冠や多くの装飾が似合っており、荘厳な表持ちだった。
そんな彼が、口を開く。
「其方達、シィのご子息の友人よ。其方達を善い人間と見込んで、可能ならば、余の願いを聞き届けて欲しい」
「……ものによりますね。不可能な事もありますから」
俺が言うよりも早く口を開き、フォルシーナが言葉を返す。
俺の不躾な物言いよりも、フォルシーナが交渉する方がいいのは目に見えており、俺も口を閉じた。
爺さんが話の内容を口にする。
「シィのご子息を、安全な場所で幸せに暮らせるよう、手配して欲しい」
「……ふむ」
俺なら二つ返事で承諾しようものだったが、フォルシーナは相槌だけ返した。
そして、先ほどまで威厳があるように見えた爺さんは、今はもう過保護な1人の大人にしか見えなくなった。
爺さんの体から、家族を守りたい気持ちが溢れてるように思えたから。
「ハヴレウス家は呪われているとしか思えない。それ程までに酷い境遇を追っている。みな死に、大公、その他貴族も殆ど死んでしまった。ならば妹の子孫1人ぐらい、幸せであって欲しい。余の最後の願いだろう。我々は人柱としてこの先も生きる宿命なのだから。報酬なら、ここにある物をなんでもやろう。だから、どうか……」
「……その前に、どうか私の話を聞いてはくれませんか?」
「聞こう。なんだ?」
「ありがとうございます。私達は今、西大陸を平和にするべく活動しています」
「! 近頃の悪意損失は其方達が原因か」
「申し訳ありません。ですが、そのおかげもあって、シィ様のご子息――キィは笑って過ごせています。幸福は人それぞれですので、キィは今の生活でも十分かと存じます。ですが、それも私の一存でしかありません。ですので、よろしければキィに直接交渉してみてはいかがでしょう? ヤラランみたいに口が悪いのですけれど、きっと、キィちゃんも血の繋がりのある貴方とたくさんお話がしたいと思われるはずですから……」
最後の方、フォルシーナ微笑みながら話した。
そこには2人で沢山話して欲しいという深い思いがあって、元々、家族同士で話させようという算段で俺が物を言う前に言葉を返したのだと理解した。
「……其方は優しいな」
「これでも、優しい人の隣で5年以上過ごしてますから」
「成る程。……良きパートナーを持っているようだな」
暗に俺のことを言ってるのがわかって苦笑した。
全部が全部、俺のおかげでフォルシーナが成長したわけじゃない。
だからその言葉に、素直に喜ぶのもちょっとな……。
「しかし、よもや42年ぶりに人間の優しさに触れるとはな……」
「フフッ、今のご気分は如何ですか?」
「……。実に心地よい、懐かしい気分だ。もう、すっかり忘れていた……こんな暖かさがあったなんて……心より感謝するぞ、少女よ」
「美少女ですよ、お兄さん?」
「……食えない奴め」
「…………」
フォルシーナが美少女と言った瞬間、ギョロッと隣にいる銀髪野郎を見てしまった俺は悪かっただろうか。
まぁともあれ、これでハヴレウス城には平和的に行けそうだ。
「キィちゃんが戻り次第、話の場を設けましょう。ヤララン、良いですね?」
「もちろんだ。王様もそれでいいよな?」
「無論だ。姪っ子か……楽しみだ」
「…………」
王様は初めて笑みを零した。
子煩悩のように見えて、俺とフォルシーナも顔を見合わせ、また微笑んだ。
――バンッ!!!
その微笑みも、刹那に聞こえた衝撃音と共に掻き消される。
続いて聞こえてきたのは木が割れる音。
バリバリと床に穴を開け、頭から血を流すノールが落ちてきたのだ。
「ぐっ……アアッ! 人骸鬼風情が……舐めた真似をッ!!!」
天井から降ってきた巫女は黒の甲冑と羽を纏っているが、所々傷付いたり鎧は割れたりしていた。
歯を噛み締めながらゆらゆらと立ち上がる。
「だ、大丈夫かよ?」
俺は駆け寄って黄魔法を使い、ノールに回復を掛ける。
「ノール、どうした? 人骸鬼など、其の敵ではないだろう?」
「……あまり、力が出ない。【黒天の血魔法】の魔法の威力が、前の半分しかないんだよ! ムカつく、死ね、殺す、叫ばせてやる、ぐちゃぐちゃにして――やるっ!!!」
「あっ! おい!!」
呪詛を綴りながら、ノールは落ちてきた穴から飛び出してった。
まだ傷も塞がってないのに、あんな様子で勝てるのだろうか……?
「……世話の焼ける義妹だ。ヤララン、余と共に援護せよ」
「了解。フォルシーナ、お前は待ってろ」
「……私だけハブるんですか?」
「行きたいのか?」
「いえ、微塵も」
「……じゃあここで待ってろ」
「はーい」
結局戦闘に参加する気のないらしく、呑気に返事を返すフォルシーナ。
まぁ、俺と無色魔法最強らしい爺さんがいりゃあ【黒天の血魔法】の魔法が使えようと相手ではないだろう。
「何を話している。行くぞ」
「へいへいっ」
爺さんが先行して天井の穴から外に出ると、俺もマフラーを羽衣にして外へ飛び出す。
ノールが戦闘している姿はすぐに見つけられた。
黒い光が飛び交い、ほぼ全てが相殺している。
やってくる爆風を俺たちは顧みずに飛んだ。
「アァァァァアアアアア!!!」
空に浮かぶノールが、両手を広げて咆哮する。
怒りに満ち満ちたその叫びと共に、彼女の手には黒木光が収束を始めた。
「――ガガッ、グッ、グゴッ……」
相手にしていたのは彼女より低い位置にいる黒い骸骨。
頭からは一本角が生えており、その周りに半周で途切れ、円を描く黒のリングが浮いている。
上半身はただの黒い骨であったが、羽衣を纏い、手首にはカラスの羽を集めて出来た腕輪のような毛があった。
下半身はどうしたのか、赤の腰帯とと青黒い軽衫を履き、足の骨には先の尖った靴が履いてある。
化け物なのに人間に近い姿だが、背中の腰帯部分からはノールのものと似た漆黒の翼が1組生えている。
体長は3mといったところだろうか、人間に比べればデカい。
明らかに人間の風貌ではないが、体つきからは人間らしさを感じられる。
しかし、そんな事で親近感が沸くでもなく、危険だと言うのならばはいじょするのみ。
俺たち2人は戦いの場から十分離れた空で浮いていた。
無色魔法であるなら、ここからでも効果は十分なのだ。
「【黒天の血魔法】――」
ノールが両手を振り上げると、その手の中には漆黒の大剣が収まっていた。
禍々しい黒い魔力が剣に収束始める。
「――【悪苑の剣戟】!!」
叫ぶと同時に、ノールは人骸鬼へと一気に下降する。
4枚の翼を羽ばたかせ、目にも留まらぬ速さで人骸鬼に衝突し、大剣を振り下ろした。
空が光った。
黒い光の塊が、ノールのいた所から蒼天に上り詰めてゆき、黒い光は徐々に消えていった。
ノールの技の威力は全然衰えているようには見えない。
これであの骸骨も死んだんじゃないだろうか?
「ヤララン、ノールの支援に回ってくれ」
「え?」
「早く」
「お、おう……」
何故か指示をされ、俺は消えゆく黒い光へと突っ込んでいく。
と、黒い塊から何かが落ちた。
肘から先の両腕が無くなったノールが、眠るような表情で落ちていたのだ。
「ッツ!? おいっ!」
急いで俺は下へと飛んだ。
呼びかけても返事はなく、気絶しているように見える。
追いついた彼女を両腕で抱き上げ、俺は空中で静止した。
息はあった、死んではいない。
だが、肘から先、そこは黒い結晶で覆われていて再生できるかも謎だった。
何故、ノールが負傷しているのかわからない。
【悪苑の剣戟】で爆発を起こしたにしても、俺たちとの戦いでは負傷することはなかった。
だとすると、人骸鬼が?
さっきの光は、人骸鬼の――?
空を見上げれば、人骸鬼がその歯をコツコツと鳴らして俺たちを見下していた。
肋骨も腕の骨も、1つも欠けることなく漫然とした様子で浮遊していた。
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