連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/86/:その頃・前編
西大陸西端の村、過去にヨルタ村と呼ばれたこの地での副村長、タルナ。
それが僕の名であり、カズラの補佐を主に担当している。
掲示や行事の内容を考えたり、村人の問い合わせを聴いたりするのが仕事だ。
そんな僕が、最近懸念していることがある。
技術班とやらが、変なものを作っているのだ……。
「……これ、君」
「……はい。なんでしょうか……?」
木造二階建ての小さな総務部、そこの廊下で白衣を身に纏った少女を呼び止めた。
振り返った少女は眼鏡を掛けており、泣きぼくろが愛らしい……ではなく、手にはピンク色の箱を持っていた。
「……白衣、技術班のだね? その手に持ってるのはなんだい?」
「あっ、これですかっ!? これは魔力感知の最新コンパクト品なんですっ! 善魔力、悪魔力、色魔法全部、さらには主任の考案した圧縮魔力まで取り扱えるんですっ! 世に出回ってなくて、200万フラはくだらないんですよっ!」
「……はぁ、そうなのかい」
聞いてもよくわからなかったが、魔力を感知するものであるとは認識した。
というか、説明の時はハキハキと話すのだな。
技術班の人達は皆引っ込み思案というのが村で有名だが、都合のいい体というか、なんというか……。
「……それで、また何かを作ってるのかい?」
「え、はい……。迷惑でなければ、その……あの、黒魔法が自動で洗濯物を干す物干し竿を作れればと……」
「…………」
なんてくだらないものを作ってるんだ、とは言えなかった。
彼女も彼女なりに一生懸命作ってるんだろうなと思ったから。
だがしかし、物干し竿?
「なんで物干し竿なんて作ろうと?」
「え、だって、便利だから……」
「……言うほど便利かね?」
「冬は手が冷たいですし……」
「今は春だよ?」
「はうっ……」
「…………」
この間抜けな「はうっ」という声も、間抜け過ぎて可愛く聞こえない。
何だろうか、今度の回覧板で「全自動物干し竿欲しい?」と項目に入れればいいのか?
……一応付け加えておくとしよう。
「……まぁ、迷惑ではないだろうさ。作っておいてくれ」
「えっ、あっ、はいっ! 失礼します!」
「うん……」
そそくさと少女は走り去っていった。
技術班が総務部に出入りするのは珍しくない。
それは技術班の工房が隣接してるから仕方がないのだが、なんのために出入りしているのかと思えば総務部の空き部屋を倉庫にしていたんだからな。
いろいろと呆れる点が多い。
「タルナさーん」
「んっ、マーツか」
後方からは着物がぴっちりとした筋肉質な男性がにこやかに笑いながら現れる。
彼は今日、村の西側の見張りを勤めていたはずだが、それは日中の話。
戻ってきたということは、もう日が落ちているのだろう。
「こんなところで立って、何してるんですか?」
「休憩中だよ。技術班の子が居たから、さっき話してた」
「技術班? 何か作らせるので?」
「……全自動物干し竿」
「……え? それ、必要ですか?」
「……俺もいらないと思うよ」
僕の思いと同様、マーツにも全自動物干し竿は不評のようだった。
が、僕たち男には夫人の気持ちがわからないしね。
回覧板に掛けるとしよう。
それからマーツとも2、3話をして別れ、俺は仕事部屋に戻った。
部屋には机が4つ真ん中に並んでいて、窓際に僕の席と仮村長であるカズラの席がある。
本当はカズラとヤラランの席だが、ここに座ってるとハブられた感があってあまり好きではない。
しかし、他に座るところもないのでしぶしぶ座り、催し物の案を練る。
ヤラランはザックリとした案しか出さなかったが、彼がやると言ったらなんでもやった。
彼の居ない今、別に催し物などやらなくてもいいと思うが、彼なしでもやっていくために考えなくては。
「失礼しまーす」
畏まる気もない気怠げな声と共に部屋の扉が開く。
現れたのはこじんまりとした少女、カラウだった。
僕の隣にいる父親のカズラが立ち上がり、娘の元に歩み寄る。
「どうした、カラウ。またお手伝いに来てくれたのか?」
「うん。後ね、海沿いにたくさん人がいるみたいだから、お父さん呼んできてって」
「……海に沿いに人?」
「おそらく、フラクリスラルから寄せられてきたんだろうね」
親子の会話に口を挟む。
ここは西端、東から船が来るならこの辺りに着くし、急に人が湧く理由はそれしかない。
「となると、うちに迎え入れるのか……」
「ヤラランなら間違いなくそうするね。もう日も暮れてて手の空いてる者が多いのは幸いか……」
俺も椅子から立ち上がる。
やれやれ、また仕事か。
「説得しに行こうか。今ここにいる人達で手の空いてる者を集め、集合次第海に向かうよ。いいね、カズラ?」
「ああ。また、新しい仲間が増える。祝いの準備もしておこう」
「……君は酒が飲みたいだけだろう?」
「わかるか?」
「……もう、それなりの付き合いだからねぇ」
もう半年以上同じ職場にいるのだ。
いろいろと見えてくるものもあるさ。
……ヤラランにはヤラランの仲間がいるようだが、僕にも僕の仲間ができた。
まったく、平和じゃないと、こんなことも言えないね。
「さ、行こう」
「あぁ」
「お父さん、一緒しよーっ!」
扉の外に歩き出す。
今日もまだ、仕事は終わりそうになかった。
それが僕の名であり、カズラの補佐を主に担当している。
掲示や行事の内容を考えたり、村人の問い合わせを聴いたりするのが仕事だ。
そんな僕が、最近懸念していることがある。
技術班とやらが、変なものを作っているのだ……。
「……これ、君」
「……はい。なんでしょうか……?」
木造二階建ての小さな総務部、そこの廊下で白衣を身に纏った少女を呼び止めた。
振り返った少女は眼鏡を掛けており、泣きぼくろが愛らしい……ではなく、手にはピンク色の箱を持っていた。
「……白衣、技術班のだね? その手に持ってるのはなんだい?」
「あっ、これですかっ!? これは魔力感知の最新コンパクト品なんですっ! 善魔力、悪魔力、色魔法全部、さらには主任の考案した圧縮魔力まで取り扱えるんですっ! 世に出回ってなくて、200万フラはくだらないんですよっ!」
「……はぁ、そうなのかい」
聞いてもよくわからなかったが、魔力を感知するものであるとは認識した。
というか、説明の時はハキハキと話すのだな。
技術班の人達は皆引っ込み思案というのが村で有名だが、都合のいい体というか、なんというか……。
「……それで、また何かを作ってるのかい?」
「え、はい……。迷惑でなければ、その……あの、黒魔法が自動で洗濯物を干す物干し竿を作れればと……」
「…………」
なんてくだらないものを作ってるんだ、とは言えなかった。
彼女も彼女なりに一生懸命作ってるんだろうなと思ったから。
だがしかし、物干し竿?
「なんで物干し竿なんて作ろうと?」
「え、だって、便利だから……」
「……言うほど便利かね?」
「冬は手が冷たいですし……」
「今は春だよ?」
「はうっ……」
「…………」
この間抜けな「はうっ」という声も、間抜け過ぎて可愛く聞こえない。
何だろうか、今度の回覧板で「全自動物干し竿欲しい?」と項目に入れればいいのか?
……一応付け加えておくとしよう。
「……まぁ、迷惑ではないだろうさ。作っておいてくれ」
「えっ、あっ、はいっ! 失礼します!」
「うん……」
そそくさと少女は走り去っていった。
技術班が総務部に出入りするのは珍しくない。
それは技術班の工房が隣接してるから仕方がないのだが、なんのために出入りしているのかと思えば総務部の空き部屋を倉庫にしていたんだからな。
いろいろと呆れる点が多い。
「タルナさーん」
「んっ、マーツか」
後方からは着物がぴっちりとした筋肉質な男性がにこやかに笑いながら現れる。
彼は今日、村の西側の見張りを勤めていたはずだが、それは日中の話。
戻ってきたということは、もう日が落ちているのだろう。
「こんなところで立って、何してるんですか?」
「休憩中だよ。技術班の子が居たから、さっき話してた」
「技術班? 何か作らせるので?」
「……全自動物干し竿」
「……え? それ、必要ですか?」
「……俺もいらないと思うよ」
僕の思いと同様、マーツにも全自動物干し竿は不評のようだった。
が、僕たち男には夫人の気持ちがわからないしね。
回覧板に掛けるとしよう。
それからマーツとも2、3話をして別れ、俺は仕事部屋に戻った。
部屋には机が4つ真ん中に並んでいて、窓際に僕の席と仮村長であるカズラの席がある。
本当はカズラとヤラランの席だが、ここに座ってるとハブられた感があってあまり好きではない。
しかし、他に座るところもないのでしぶしぶ座り、催し物の案を練る。
ヤラランはザックリとした案しか出さなかったが、彼がやると言ったらなんでもやった。
彼の居ない今、別に催し物などやらなくてもいいと思うが、彼なしでもやっていくために考えなくては。
「失礼しまーす」
畏まる気もない気怠げな声と共に部屋の扉が開く。
現れたのはこじんまりとした少女、カラウだった。
僕の隣にいる父親のカズラが立ち上がり、娘の元に歩み寄る。
「どうした、カラウ。またお手伝いに来てくれたのか?」
「うん。後ね、海沿いにたくさん人がいるみたいだから、お父さん呼んできてって」
「……海に沿いに人?」
「おそらく、フラクリスラルから寄せられてきたんだろうね」
親子の会話に口を挟む。
ここは西端、東から船が来るならこの辺りに着くし、急に人が湧く理由はそれしかない。
「となると、うちに迎え入れるのか……」
「ヤラランなら間違いなくそうするね。もう日も暮れてて手の空いてる者が多いのは幸いか……」
俺も椅子から立ち上がる。
やれやれ、また仕事か。
「説得しに行こうか。今ここにいる人達で手の空いてる者を集め、集合次第海に向かうよ。いいね、カズラ?」
「ああ。また、新しい仲間が増える。祝いの準備もしておこう」
「……君は酒が飲みたいだけだろう?」
「わかるか?」
「……もう、それなりの付き合いだからねぇ」
もう半年以上同じ職場にいるのだ。
いろいろと見えてくるものもあるさ。
……ヤラランにはヤラランの仲間がいるようだが、僕にも僕の仲間ができた。
まったく、平和じゃないと、こんなことも言えないね。
「さ、行こう」
「あぁ」
「お父さん、一緒しよーっ!」
扉の外に歩き出す。
今日もまだ、仕事は終わりそうになかった。
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