連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/77/:確認

 しばらく経って、また雨が降り始め、屋内にいることを余儀なくされた俺たちは雑談やカードゲームをしたりする他にやる事もなく、のほほんと過ごしていた。
 カードゲームは矢張りフォルシーナが鉄壁で常にトップに立っており、次いで俺かカララル、下位はミュラリルかキィであった。
 キィはまぁ、考えるのが苦手そうだしわからんでもない。
 けれど、ミュラリルが下位に着くのは意外だった。
 単純なゲームで、ルールも知っていたのに弱かった。

「……そんなに気にしなくていいからな?」
「わたくしが今まで勝てたのは全て接待だったのですわね……どうせわたくしなんて……」

 部屋の隅っこでいじける薄い金髪の王女を同じ金髪のキィが、小指で自分の顎を掻きながら慰める。
 いや、慰める気はあまりなさそうだ。
 ちなみにキィはまたフォルシーナに髪をいじられて横髪が筒みたいにグルグルしている。
 これはさすがに似合わん。

 フォルシーナは部屋を出て研究しに行った。
 今度は何を思い付いたのかは俺には見当も付かんが、どうせロクでもない事に違いない。
 そして残ったカララルは……

「明主様! 私は本を読んで生まれ変わりました! 新しい知恵を、人々に生きる光を与えてこようと思います!!」
「おお、いってら」
「明主様も行くのですっ! 明主様が居れば百人力ですからっ!」
「いや、雨降ってるし、この街では生きる道標みたいなのはもう与えたっぽいし、遠慮するよ」
「私の善意がぁぁああ!! 溢れるぅぅうう!!」

 仁王立ちからの両腕でガッツポーズして空に叫ぶ姿を俺にまじまじと見せつけていた。
 最近静かだった分、今日は一段と面倒臭い。

「それより、ちょっと疑問があるんだが、訊いてもいいか?」
「え? はい! 明主様の疑問を解消できるならばなんでもぉおお!!!」
「あーもうっ! 顔ちけぇよ!」

 座って胡座をかく俺のために四つん這いになって顔を近づけてきた。
 顔を鷲掴みして退けるが、手を前に伸ばしてきて邪魔だ。

「いいから聞けっ」
「むーっ! は、はいっ!」

 また四つん這いになって後ろに4足歩行し、正座するカララル。
 どいてくれるならなんでもいいが、なんて動きをするんだ……。

「……もう大分前になるが、お前は俺の結界を一撃で破ったよな? 今もできるか?」
「ぬぬぬっ……おそらく、可能かと思われますよっ」
「は〜……」

 純粋に感嘆した。
 どうにもカララルは強いらしい。

「元貴族とか、だったりする?」
「いえ、平民でしたよ? 私は黄魔法しか使えないですし、魔法が強い理由はなんなんでしょうね?」
「自分でもわからんのか……」

 自分でもわからなんじゃ、これ以上訊いても意味はなさそうだが……もう一つだけ尋ねてみる。

「フォルシーナは遜れば魔法は強くなると言ったが、それ以外にも単に、魔力を加えまくれば魔法ってのは強くなる。密度が高まるからな。そういうことはあるか?」
「あ、それかもです。私は狂ってた時から何故か魔力が有り余りまして……魔法を使うときは、思いっきり!が信条ですっ」
「ほほう。それなら納得も行くな……」

 確か、男に捨てられたとか言ってたっけか。
 それで憎しみと共に悪魔力が増え、魔力量が上がったと。

「思ったより普通だな……」
「……? どうしたんですか、明主様?」
「いや、なんでもない。納得できてよかったよ」
「はぁ、そうですか……」

 問答を終えると先ほどのやる気もなくなったのか、カララルはのそのそと四つん這いでベッドに向かい、それを背に分厚い本を読み始めた。
 ふむ……。
 この大陸は、俺の知り得ないことがたくさんありそうだった。
 それはフラクリスラルが他国の人を悪意肥やしにこの大陸に差し向けたり、善幻種という存在を目にしたり、国や世界による不可解なカラクリがある。
 カララルの力の源、これもその不可解に含まれると思ったが、余計な心配だったらしい。
 カララルも本を読み始め、暇になった俺はその場に寝っころがり、そのまま眠りについたのだった。










 朝には雨も止み、雲が一ミリもない空が視界いっぱいに広がる。
 視線を落として街の所々傷んだ木造建築の群れを見ると、道には人がたくさん集まっていた。
 俺は今、街の中心の建物の上に立っている。
 横にも後ろにも立つものはなく、フォルシーナ達も下で民衆に混じっていた。

「今日は昨日作れなかった分の食料を作り、街の修繕と衣服を作るための機織り機を幾つか作ってもらいたい。各自、適切な行動を取ってくれ。場所は俺の下にある掲示板に告知しておくから見ておくように。まだ文字が読めん奴は聞け。今日俺は此処にいるから、何かあれば1人か2人、連絡するように」

 今日の指示を出し、色々な相槌を貰う。
 殆どが肯定のもので、残りは返事をしないだけだった。

「じゃあ手分けして作業に入ってくれ。日が真上に着いたら一旦ここに集合して昼食だ。つっても、今日も野菜ばっかだけどな」

 野菜は緑魔法でいくらでも作ることができる。
 20人近くが緑魔法を使えるから、今のところ食料には困らない。

「以上! はいっ、解散!」

 両手を叩き、解散を促す。
 ザワつきながら人々は掲示板を見たり、仕事をしに行くであろう方へと散っていった。
 その様子を見ながら、俺は建物に足をぶら下げて腰を下ろした。

「ヤラランは今日お休みですか?」

 と、同時にピンクの着物を着たフォルシーナが俺の横に降り立つ。
 わざわざ羽衣を広げてるし、下から飛んできたらしい。

「休みじゃねぇよ。掲示物作りと予定表作り、それから街の活気付けに催しを考える」
「ほう……催しといえば、冬は雪合戦でしたね。もうすぐ春ですし、花見でもしますか?」
「あぁ、花見をする。けど、花見だけだと面白みがないだろ?なんか付け足すさ」
「……そうですか。では、任せますよ」
「あいよっ。お前は機織り機作りの指揮に着いてくれ。頼んだぞ?」
「仰せのままに」

 フォルシーナは倒れるように落ちていき、地面に着く前に羽衣の力で身を翻してどこかに飛んで行った。
 さて、もう人も大分離散した。
 俺も仕事を始めるとしよう。

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