連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/71/:襲撃

「どうですかヤララン! キィちゃんがポニーテールですよっ!」
「お前の頭ん中が平和なことはよくわかったよ」

 今日の天気はあいにくの雨。
 魔法で急成長させた穀物や植物は潤い、また明日にでも増殖させるがなどとぼんやり考えて寝っ転がっていた。
 なのに、フォルシーナは俺に充てがわれた部屋にキィを連れてきて「これはビックリ!」といった様子で俺に声を投げかけた。
 しかもノックもなかったし。

「なぁなぁ? ヤラランからして、女が髪型変えるのってどう思う?」

 金髪を頭頂部のちょい後ろで括ったキィが怪訝そうに尋ねてくる。

「あん?次会った時誰かわかりにくいなぁ、ぐらいかね? 可愛くなって人を喜ばしたいのは良いことだと思うがな」
「あぁあ、ヤララン。それはモテないですっ……。悲しきや、ヤラランの言語力っ」
「…………」

 頭に手を当てて歯噛みをし、フォルシーナに本気で残念がられるがそんなのは些細なことだった。
 今日は全員仕事なしの平和な日ではあるが、食料はほぼない。
 村から持ってきたものなどとっくになくなり、この街で作っている野菜や穀類を食べる日が殆どでもはや肉も出ない。
 肉なんて元は動物だし、メリスタスに悪いから俺はあまり食いたくないが、
 この地にも子供が居るわけだし、食わせてやりたいとは思う。
 これも、贅沢ぜいたくなのか。
 そんな、俺にしては難しいことを考えていたのだから。

「いいですかヤララン? 女の子にアピールできる瞬間来たり! と思った時にはアピールするのです。ほら、男を見せないと」

 そう、こんな事を言われたって集中している俺の頭には届かないのだ。

「なんですかその目は!? もっとやる気を出しなさい! 見なさいこのキィちゃんの可愛さを! それに比べて貴方は寝転がってぼけーっとして、40過ぎたおっさんですか!?」

 ……俺の頭には届かな――

「クッ! 従者を続けてもうすぐ5年、私はこのようなどーしようもなく、モテない、モテない主人を持ってしまった……男も磨けず、いずれ女性の色気に気付いてももはや三十路、手出し出来ずに自分で自分を慰めるしかない哀れな――」
「銀髪テメェしばくぞこのヤロォォオ!!」
「ひ――っ!!? 怒ったぁああ!」

 怒りで顔から湯気を出しながら即座に飛び起きてフォルシーナを全力でフォルシーナに襲いかかる。
 フォルシーナは半泣きになりながらテーブルを回ってぐるぐると俺と追いかけっこを始める。
 その様子を流し目でずっとキィが見ていた。
 うわぁーだのひぃーだのと悲鳴をあげる音とドタドタと床を駆ける音が雨音さえ消していて、俺たちの元気っぷりにため息まで吐き出していた。

 ――ドドォオオオオオオン!!

『うおっ!!?』
「ひゃあっ!?」

 唐突に鳴った雷に驚き、俺とキィは共鳴してフォルシーナだけは可愛らしい悲鳴をあげた。
 驚きは2人にとってはそれだけだが、俺はもう1つ驚いた。

「か、雷ですかっ! ビックリしましたぁ……」
「雷……か?」
「?   ヤララン、どうしました?」
「【無色防衛】がやぶれてる」
「……はぁ? まぁそりゃあ雷ですからね。ヤラランのあの結界でも破れるのでは?」
「……あぁ、そうだな」

 さっきまで半泣きだったフォルシーナの質問に答えていく。
 俺が張っていた結界は2つの性質を混ぜたものだった。
 1つ目の無色防衛カラーレス・プロテクトは、威力あるものを自動的に防御する。
 もう1つは探知結界ディテクション・プロテクトといって、人間が入ってきた場合に俺に感知させる能力がある。
 どっちも物理や魔法で破ることは可能だが、雷は反応するのか?
 雨は、反応しないぞ?
 反応してたら張ってらんないしな ……。
 …………。

「……フォルシーナ、俺はちょっと外に出る。タオル出して待っとけ」
「幾つですか?」
「“2つ”だ」
「……承知しましたよ。お気を付けて」
「わーってるよ」

 俺の顔から状況を察したのか、気のいい返事をくれた。

「? ヤララン、どうしたんだよ?」
「キィちゃんはお留守番です。ヤラランはともかく、風邪を引いたら困りますから」
「……フォルってほんとにヤラランの事テキトーに扱うよな」
「ふふっ、どうですかねー」

 後ろの方でそんな声を聞きながら、俺は無色魔法で窓から雨雲へと飛び出した。
 暗い空だった。
 黒い雲ばかりで、数秒おきにあちこち白い光を放ち、土砂降りの雨を降らしている。
 体に当たる雨が痛くとも、濡れる服も気にせず空を駆ける。

「……なにもない? 誰もいな――!?」

 独り言を呟く刹那、鋭い白の光が俺の頭目掛けて直進してくる。
 体をよじらせて躱し、一度空中に止まる。
 止まるや否や、新たに光がレーザーのように曇天から迫ってくる――。

「……ったく、お出ましか。【無色防衛カラーレス・プロテクト】!」

 咄嗟に無色防衛を周囲に展開し、光は結界にブチ当たる。
 ギィィィイという嫌な音が四重奏を奏で、レーザーの終わりは見えなかった。

「そんなんじゃ破れねぇよ!!!【力の四角形フォース・スクエア】!!」

 防衛結界をフッと取り下げ、力の四角形フォース・スクエアで光を押し返す。
 敵の出力は脆く、ブオン!と音を立ててあっという間に見えなくなるまで押し返していった。
 が、これでは敵を仕留めるには当然至らないだろう。
 一時的に妨げる程度。
 相手の姿が見えてない以上俺にはどうにもできないが、攻撃の来た方向を追えばいい。

「【羽衣天韋はごろもてんい】」

 魔力消費軽減を含め、マフラーを羽衣へと展開する。
 それと同時に、俺は空を蹴った。

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