連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/59/:容姿

 無理をさせるのも悪いと思い、飛行速度は俺にとっては遅めだった。
 それでもぐんぐんと目下の木々を超えて進んでいき、最初は聞こえていた悲鳴も後の方にはスッカリ聞こえなくなって約1時間。
 目的地の旧エリト村に着き、全員を無事着陸させる。

「そ、村長……人使い荒い……」
「死ぬかと思った……」
「すまんすまん。お前らは少しここで休んでてくれ。俺は色々呼んでくるから」

 疲れの入った返事を幾つか聞きつつ、俺はメリスタスがいる元村長宅へと向かった。
 雑に扉を開いて屋内に入り、大声で帰還を告げる。

「戻ったぞ〜!」

 すると、中からドタドタと足音がして次第に足音は大きくなってきた。
 勢いの良い出迎えだなと楽観して、俺は両腰に手を当ててわざわざ出迎え待った。
 そして廊下の奥からそいつらは現れた。
 猛スピードで走ってきて、俺の目の前で急停止する。

『ヤララン(くん)! 助けてっ!!』
「……どちら様ですか?」
『酷いっ!!?』

 目の前に現れた奴は2人。
 ちょっとクセっぽく捻れたオレンジのショートヘアの少年。
 そして水色の細い紐で結ばれ、ツインテールになってる金髪さん。
 しかも着物だったのに上は法被と下に短くなり、白いなんかヒラヒラしたやつを履いている。
 確か南大陸で出来たスカートとかいうやつだった気がする。
 はぁはぁ、なるほど。

「で、誰?」
「キィだ! わかんだろ!?」
「メリスタスだよっ!」
「おぉ、お前らだったのか。人間って変わるもんだな」
「そんな感慨深い言葉使うの今なのっ」
「うん、違うな」

 メリスタスから適切なツッコミを受ける。
 コイツは髪が短くなっても童顔のせいか、まだ女に見える。
 髪は肩につかない程度で男としてはまだ長い方だしな。
 外側にぴょこぴょこ跳ねてて面白い。

「で、何が“助けて!”なわけ?」
「フォルを止めてくれ! 後生だから!」
「え? うーん、まぁできればな……」

 外見はますます女らしくなったキィに懇願され、2人を押しのけて奥へと向かう。
 2階に上がって、いつも使うメリスタスの部屋の前に立つ。
 扉はしまっていた。
 いや、中を見たくもないからこれでいいんだけど。
 ……見なくちゃだよな。
 フゥッと1つ深呼吸をして、俺はゆっくりとドアを押し回した。

「うーん、やっぱり青が良いんですがナルーですし……」
「ホッホ、私はなんでも構いませんよ」

 開けた扉の先には膝立ちでナルーを正面から見るフォルシーナと、青い布を胴体に被せられ、頭には丸っこい帽子、6つの足先にピンクの布を巻かれたナルーがいた。
 その奥の方にあるベッドには赤紫の頭巾をかぶり、同色の着物を着せられたカララルがいつもの様子と打って変わって凛々しく本を読んでいる。
 なぜだ? 今日に限ってフォルシーナの外装魔改造が酷く発揮されてるぞ?
 別にみんな、俺の見た感じだと見た目悪くないから良いんだが、ここは引いてはいけない気がする。

「おや、ヤララン。お早いお戻りでしたね」
「え!!? 明主様!?」
「さっき戻った。で、どうしてこんなことになって――ふんっ!」

 言い掛けて、飛びかかってきたカララルの腕を掴み、勢いのままに放り投げる。
 飛ばされた彼女の体躯は廊下の壁に当たって目からは星が出ていた。
 よし。

「うわぁ、可哀想に……」
「寧ろみんなが可哀想だけどな」
「えーっ、いいじゃないですか〜。キィちゃんとか、スカートですよ? 太もも見えてて可愛いでしょう?」
「自分の感性人に押し付けんなよ」
「じゃあ、可愛くないんですか?」
「…………」

 俺は口を尖らせた。
 いや、可愛くなくはない。
 いつもは野蛮でガサツだけど、それもあの容姿なら誰にでも寛容されることであろう。
 それほど良かった、というのが俺の感性から出た意見だった。

「フッ……ヤラランも男ですね」
「でもお前はスカート履かねぇんだな」
「私にもいろいろあるのですよっ。それよりほら、嫌がってる方々に似合ってると言ってあげてください。特にキィちゃんです。着物返せって煩くて……」
「自業自得だろ……が、まぁ仕方ない。久々にお前の味方に付いてやろう」
「……私、今までずっとヤラランの味方でしたのに、なんなんでしょうこの差は……」

 それはきっと主人と従者という位置づけであろう。
 だがそんな言葉も返す必要なく、俺はまた下に降りた。

「ヤララン! 着物取り返してきてくれ!」
「僕はもう取り返せるものないよぉ……うぅ……」
「まぁまぁ、そんなしょげなくてもいいんじゃねぇの?お前ら似合ってるし、良いと思うけどな」
「に、似合ってる……?」
「えー、僕は髪長い方がお母さんみたいで……でも、言ってもしょうがないか……」

 俺が慰めてやると2人とも好反応で、今の状態に納得しそうだった。
 諦める、とも言うが。

「メリスタスはスッキリした感じだし、キィなんて大分印象違って可愛いぞ?」
「はっ? か、可愛い?」
「とっつきにくい感じがなくなったっつーか、良いと思うぞ?」
「お、おう……」

 キィは俯いて自分の身を抱きしめた。
 褒められ慣れてないし、きっと恥ずかしかったのだろう。
 褒めるっつったらフォルシーナがふざけた褒め方しかしねぇしな……。
 もっとみんな褒めてやりゃいいものを。

「……やっぱりお嫁さんだよっ!」
「あん?」

 突如、メリスタスが声を上げた。
 何が嫁だって?
 なんと返していいのかわからず、俺は聞かなかったことにした。

「まぁ、あれだ。待たせてる奴らが居るし、一旦合流しようぜ?」
「あ、うん」
「…………」

 メリスタスは相槌と共に足を動かしたが、キィは微塵も動かなかった。
 ほっとくのもどうかと思い、一応声を掛けてみる。

「……キィ合流しないか?」
「…………」
「…………」
「……バーカ」
「……え?」

 何故か罵られ、そのままキィはそそくさと外に飛び出した。
 なんなんだ奴は……。

「あら、あらあらあらあら……若いですねぇえ」
「あ、お前居たのかよ」

 2階からゆっくりと、頰に手を当ててニコニコ笑いながらフォルシーナが降りてくる。
 何を気持ち悪く笑ってるんだコイツは。

「えぇえぇ、居ますとも。若いって素敵ですねぇえ……」
「不思議とお前に殺意を覚えるんだが、一発殴っていいか?」
「ダメですよっ。ほらほら、2人が先に行っちゃいましたから私達も参りましょう。お2人は貴方が連れてきた場所知らないんですから」
「あ、そうだな。早く行くぞ」
「はいっ」

 促されるがままに、俺たちは早足で外に飛び出した。

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