連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/49/:復讐
暫くして、メリスタスとナルー、他にたくさんの猫と狼数匹が列を成して現れる。
先頭にはキィが付いており、俺は胡座をかいて迎えた。
「や、ヤラランくん! その怪我大丈夫!?」
「多分、皮が剥がれた程度で大したことねぇよ。それより、そっちの男だな……」
「え? あ…………」
隣白目を剥いてるコートのおっさん。
腕と鼻が折れ、生力感じぬ姿で眠っている。
「……確か、生きてるんだよね?」
「ん? あぁ、生きてるよ」
「……そっか。ヤラランくんならそうしてくれると思ってた。ありがとうね」
「?  ああ……」
なんで謝辞を述べるのかわからなかったが、まぁ気持ちは受け取っておこう。
礼を言い、すぐにメリスタスは男の前にしゃがんだ。
「…………」
何か思うことがあるのだろう、色のない顔で男を見つめている。
仮にも母が死ぬ起因となった人間、そいつが目の前にいるのだ。
だけど、俺が生かしといたことを喜んだんだ。
メリスタスが殺したりするような事はないだろう。
「なぁ、メリス――」
「さよならっ」
呼ぼうとした声は微笑みと共に現れたメリスタス本人の声に遮られ、その少年は着物の裾から包丁を取り出した。
呼び止める暇もなく、少年は男の左胸に包丁を振り下ろした。
「――――」
驚愕のあまりに何も言えなかった。
完全に呆気にとられ、全ての音が消え失せ、呆然と人殺しの様を見ていた。
フウッ、と息を吐いてメリスタスが立ち上がる。
「申し訳ないとは思うけど、これだけはしたかったんだ。ごめんね、ヤラランくん」
「――っ、お前!」
声を掛けられて漸く言葉が出た。
しかし、急に動こうとしたもので腹部が痛み、呻くだけだった。
「ヤラランくんにはわからないと思うけど、僕はお母さんの手一つで育ったんだ。そのお母さんを殺したと言ってもいいこの男を恨まなくて何を恨むの?」
「恨んで、いいことあるかよ!」
「少なくとも、僕はスッキリする。それに、恨まれる要因を作ったのもこの男だよ? それにさ、物語に出てくる勇者様も、悪者は大方殺すじゃない。僕が間違ってるの? この世界は勇者様の世界でもない。法律も、いや、国もない。それなのに善悪は測れないよ」
「…………」
彼の言うことは全部事実だ。
この大陸において人を殺すのは悪とされているわけじゃないし、寧ろ悪人を殺すのは善行であると。
恨まれるのもその男が悪い。
だって大好きな人を殺されたんだから、仕返しをされたって何も言えないんだから。
だけれど、本当にそれでいいのか?
いや――。
「私もメリスタスは悪くないと思うぜ?」
「!  キィ!?」
ここで初めてキィが口を挟んだ。
思わぬ伏兵、ではなかった。
「私の母さんも殺されて、ソイツを私は憎んでる。知ってるだろ、ヤララン。村で話したもんな」
「……ああ」
キィの母親が死ぬ話を、何ヶ月か前に聞いた。
それはフォルシーナの“この大陸で生まれた人の悪意を知るため”だったが、
話の内容が心に残るもので今も覚えている。
「でも……それでも、あんなにあっさり人を殺すなんて……」
今の俺は回復魔法も使えない。
助ける手立てがないのに、一刺しで殺すだなんてのは、殺してもなんの感慨もない証拠じゃないか。
「……。確かに殺すのは悪い事だ。けどな、ヤララン。自分が同じ立場ならどうする?」
「……俺なら、か」
キィが一歩ずつ、俺の方へ歩み寄ってくる。
「きっと、散々大切な人を殺された理由を問い、その上で最終的には殺すだろうな。若しくはヤラランが死ぬ」
「……なんで言い切れるんだよ」
「人に変わりはいねぇ。死んだら二度と戻ってこねぇ。だからその苦しみをそっくりそのまま返そうとするのは、当然だからだ」
そしてキィは、月を背にして俺の前に立った。
沈んだ瞳をしていた。
爛々とした蒼い瞳は無く、冷静で、澄んでいて、でも暗い……そんな瞳を。
「いくら善意が強いっつっても、絶対に殺さないのかどうか、考えてみろよ。まぁ、私の場合だけどさ、悪いことしかしねぇような奴を殺す」
それって善い事なんじゃねぇの――?
何でもないように、キィはそう言った。
悩ましい言葉だった。
これを肯定すれば、一部ではあれど人殺しを許すことになる。
いや、元々人殺しは一部許していた。
他の誰かここの奴が襲われそうになったらコート野郎を殺すとナルーと約束していたんだ。
俺はコート野郎の命とここの動物達、メリスタス、キィの命を天秤に掛けたんだ。
キィが天秤に掛けたのは、世界にとってコート野郎の様な奴の生きる価値だろう。
さもなれば、殺していい、という結果になってしまうのはわかっている。
だから。
だから――。
俺はキィの言葉に――。
「――違う」
先頭にはキィが付いており、俺は胡座をかいて迎えた。
「や、ヤラランくん! その怪我大丈夫!?」
「多分、皮が剥がれた程度で大したことねぇよ。それより、そっちの男だな……」
「え? あ…………」
隣白目を剥いてるコートのおっさん。
腕と鼻が折れ、生力感じぬ姿で眠っている。
「……確か、生きてるんだよね?」
「ん? あぁ、生きてるよ」
「……そっか。ヤラランくんならそうしてくれると思ってた。ありがとうね」
「?  ああ……」
なんで謝辞を述べるのかわからなかったが、まぁ気持ちは受け取っておこう。
礼を言い、すぐにメリスタスは男の前にしゃがんだ。
「…………」
何か思うことがあるのだろう、色のない顔で男を見つめている。
仮にも母が死ぬ起因となった人間、そいつが目の前にいるのだ。
だけど、俺が生かしといたことを喜んだんだ。
メリスタスが殺したりするような事はないだろう。
「なぁ、メリス――」
「さよならっ」
呼ぼうとした声は微笑みと共に現れたメリスタス本人の声に遮られ、その少年は着物の裾から包丁を取り出した。
呼び止める暇もなく、少年は男の左胸に包丁を振り下ろした。
「――――」
驚愕のあまりに何も言えなかった。
完全に呆気にとられ、全ての音が消え失せ、呆然と人殺しの様を見ていた。
フウッ、と息を吐いてメリスタスが立ち上がる。
「申し訳ないとは思うけど、これだけはしたかったんだ。ごめんね、ヤラランくん」
「――っ、お前!」
声を掛けられて漸く言葉が出た。
しかし、急に動こうとしたもので腹部が痛み、呻くだけだった。
「ヤラランくんにはわからないと思うけど、僕はお母さんの手一つで育ったんだ。そのお母さんを殺したと言ってもいいこの男を恨まなくて何を恨むの?」
「恨んで、いいことあるかよ!」
「少なくとも、僕はスッキリする。それに、恨まれる要因を作ったのもこの男だよ? それにさ、物語に出てくる勇者様も、悪者は大方殺すじゃない。僕が間違ってるの? この世界は勇者様の世界でもない。法律も、いや、国もない。それなのに善悪は測れないよ」
「…………」
彼の言うことは全部事実だ。
この大陸において人を殺すのは悪とされているわけじゃないし、寧ろ悪人を殺すのは善行であると。
恨まれるのもその男が悪い。
だって大好きな人を殺されたんだから、仕返しをされたって何も言えないんだから。
だけれど、本当にそれでいいのか?
いや――。
「私もメリスタスは悪くないと思うぜ?」
「!  キィ!?」
ここで初めてキィが口を挟んだ。
思わぬ伏兵、ではなかった。
「私の母さんも殺されて、ソイツを私は憎んでる。知ってるだろ、ヤララン。村で話したもんな」
「……ああ」
キィの母親が死ぬ話を、何ヶ月か前に聞いた。
それはフォルシーナの“この大陸で生まれた人の悪意を知るため”だったが、
話の内容が心に残るもので今も覚えている。
「でも……それでも、あんなにあっさり人を殺すなんて……」
今の俺は回復魔法も使えない。
助ける手立てがないのに、一刺しで殺すだなんてのは、殺してもなんの感慨もない証拠じゃないか。
「……。確かに殺すのは悪い事だ。けどな、ヤララン。自分が同じ立場ならどうする?」
「……俺なら、か」
キィが一歩ずつ、俺の方へ歩み寄ってくる。
「きっと、散々大切な人を殺された理由を問い、その上で最終的には殺すだろうな。若しくはヤラランが死ぬ」
「……なんで言い切れるんだよ」
「人に変わりはいねぇ。死んだら二度と戻ってこねぇ。だからその苦しみをそっくりそのまま返そうとするのは、当然だからだ」
そしてキィは、月を背にして俺の前に立った。
沈んだ瞳をしていた。
爛々とした蒼い瞳は無く、冷静で、澄んでいて、でも暗い……そんな瞳を。
「いくら善意が強いっつっても、絶対に殺さないのかどうか、考えてみろよ。まぁ、私の場合だけどさ、悪いことしかしねぇような奴を殺す」
それって善い事なんじゃねぇの――?
何でもないように、キィはそう言った。
悩ましい言葉だった。
これを肯定すれば、一部ではあれど人殺しを許すことになる。
いや、元々人殺しは一部許していた。
他の誰かここの奴が襲われそうになったらコート野郎を殺すとナルーと約束していたんだ。
俺はコート野郎の命とここの動物達、メリスタス、キィの命を天秤に掛けたんだ。
キィが天秤に掛けたのは、世界にとってコート野郎の様な奴の生きる価値だろう。
さもなれば、殺していい、という結果になってしまうのはわかっている。
だから。
だから――。
俺はキィの言葉に――。
「――違う」
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