連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/41/:牛の語り・前編
「ナルー……いきなり現れんなよ。ビックリしたじゃねぇか」
「おやおや、これは失敬。驚かせてしまったようですね」
6本足の牛は特に悪びれた様子も無く目の前までやってきた。
そして、俺とキィの2人を交互に見て、ニコりと笑う。
「御二方は仲がよろしいようで」
「……仲良いよな? 俺ら」
「いや、私に訊くなよ」
先ほどから嫌いオーラをプンプン漂わせているキィに確認取るも、わからないようだ。
お前にわからないなら俺にはもっとわからん。
「まぁまぁ、私の目から見れば御二方は仲良しなのですよ」
「はぁ、だと良いんだがなぁ……」
別に険悪な空気、というわけでもなかったし、仲良しでひとまず納得しておくとしよう。
嫌われたくはねぇなぁ、まったく……。
「ところで、お前は何しに来たんだ?」
「ホホホ、少しばかりお話を。まず、私の上にいるユーミュから話を聞きました」
「…………」
ナルーの上で丸くなって座っている紫色の猫、それがユーミュであろう。
昨日魚の切り身を食って逃げた猫だ。
「ユーミュは少々精神が幼く、村に近づく者全員に攻撃を仕掛けるのですが、反撃もせず魚を食べさせてくれたそうですね」
「少々幼くってレベルじゃねーよ。殺しにかかって来やがったよ」
「ホホホホ。それはまぁ置いといて」
「…………」
「私も貴方の事を信用しましょう、ヤララン殿」
「……ほう?」
まだ信用されていなかったらしい。
それもそうか、まださっき会ったばっかで何をどう信用しろというのか。
まぁ、これで俺も良い奴だとは認められたのだから良しとしよう。
「それで?」
「1つ、依頼を頼みたいのです……が、その前にあの子と私……この村跡の話を致しましょう」
「はぁ、この村のねぇ……」
「えぇ……そうですね、もう2年も前になります。そこで私は彼女と出会ったのです」
「彼女?」
「メリスタス様のお母様です――」
そしてナルーは語り出した。
初めに出会った時は困惑しました。
黄色い着物を身に纏い、夕陽のようなオレンジの髪を靡かせる艶やかな様に心惹かれながらも、私は殺されないことに驚いていました。
当時の私は、ただの牛でしかありませんでした。
殺され、人間の食事に利用されるのが当たり前と考えていたのです。
それが怖くなって森に逃げたのに、彼女は私を殺すことをせず、そっと頭を撫でたのです。
「そんなに怯えるんじゃありませんっ。別に殺したりしないわよ? 仲良く生きましょう?」
「…………」
私はただただ頭を下げました。
そして、帰ると言った彼女に着いて行きました。
道の所々には待機していたらしい猫達が現れ、彼女と私の後に続いて行きました。
着いたのは村跡で、寂れた廃墟が連なっていたのです。
ですが、住む者達は廃れてなどいませんでした。
村に入った私達を迎え入れてくれたのは色とりどりの猫達で、体当たりして来たり足を舐めたりして来ました。
「お母さん、お帰りっ」
「ただいま〜。む、メリスタスも髪伸びたね?女の子みたいだし、切っちゃうよ?」
「えぇ〜……お母さんみたいに伸ばしたいのにぃ〜」
「…………」
タタタタと駆けてきた肩まで伸びた髪を持つ少年、それは当時のメリスタス様でした。
その少年は私のことを見て、目をパチクリとさせます。
「お母さん、この動物は?」
「牛よ、牛。本で読んだからわかるかしら?」
「闘牛?」
「うーん、戦いそうにはないわね……」
「そーなんだー」
言って、おぼつかない足取りで私の方に寄ってきたメリスタス様は私の顎と背中を撫で、頰を私の首元にくっつけてきました。
「よろしくねっ、牛さん」
「……モォ〜」
「また名前をつけましょうか。覚えきれなくなってきたけど、牛なら忘れることもないでしょう」
そうして私はナルーと名付けられました。
なんかそれっぽいという理由で付けたそうです。
こうして村での生活が始まりました。
とは言っても、特に何をするでもありません。
猫と戯れ、メリスタスのお母様――メリネス様の護衛として何度か森の中に散策に向かう程度でした。
「【雷撃】」
メリネス様が川の下流に雷を放つと、じゃぶじゃぶと魚が浮かび上がってきます。
このようにして魚を取って猫に食べさせ、私のような草食動物は普通に草を食べてました。
森の中では何度も見知らぬ人間に出会いました。
そして、出会い頭に襲ってくるのです。
しかし、メリネス様の雷と猫達の攻撃にはとても敵いませんでした。
「良い? 無闇矢鱈に人を襲っていいもんじゃないの。お魚の一つぐらいならあげるから、出会い頭に攻撃とかやめてよね? わかった?」
いつもそう言って、メリネス様は襲って来た人間を見逃していました。
人を殺さず、動物をも生かす彼女にずっと付いていこうと、私は決めました。
とある日に、私はメリスタス様のお守りを頼まれ、メリネス様と30匹ほどの猫と狼1匹を連れて食料調達に行った日です。
来る日も来る日も食糧難でしたからメリネス様は毎日魚や草を沢山持ち帰るのですが、その日は夜になっても帰ってはきませんでした。
「ねぇナルー?お母さん、帰ってくるよね?」
「……モォ〜」
「……だよね。……お腹すいたなぁ……」
「…………」
しかしその日、メリネス様は帰って来なかったのでした。
「おやおや、これは失敬。驚かせてしまったようですね」
6本足の牛は特に悪びれた様子も無く目の前までやってきた。
そして、俺とキィの2人を交互に見て、ニコりと笑う。
「御二方は仲がよろしいようで」
「……仲良いよな? 俺ら」
「いや、私に訊くなよ」
先ほどから嫌いオーラをプンプン漂わせているキィに確認取るも、わからないようだ。
お前にわからないなら俺にはもっとわからん。
「まぁまぁ、私の目から見れば御二方は仲良しなのですよ」
「はぁ、だと良いんだがなぁ……」
別に険悪な空気、というわけでもなかったし、仲良しでひとまず納得しておくとしよう。
嫌われたくはねぇなぁ、まったく……。
「ところで、お前は何しに来たんだ?」
「ホホホ、少しばかりお話を。まず、私の上にいるユーミュから話を聞きました」
「…………」
ナルーの上で丸くなって座っている紫色の猫、それがユーミュであろう。
昨日魚の切り身を食って逃げた猫だ。
「ユーミュは少々精神が幼く、村に近づく者全員に攻撃を仕掛けるのですが、反撃もせず魚を食べさせてくれたそうですね」
「少々幼くってレベルじゃねーよ。殺しにかかって来やがったよ」
「ホホホホ。それはまぁ置いといて」
「…………」
「私も貴方の事を信用しましょう、ヤララン殿」
「……ほう?」
まだ信用されていなかったらしい。
それもそうか、まださっき会ったばっかで何をどう信用しろというのか。
まぁ、これで俺も良い奴だとは認められたのだから良しとしよう。
「それで?」
「1つ、依頼を頼みたいのです……が、その前にあの子と私……この村跡の話を致しましょう」
「はぁ、この村のねぇ……」
「えぇ……そうですね、もう2年も前になります。そこで私は彼女と出会ったのです」
「彼女?」
「メリスタス様のお母様です――」
そしてナルーは語り出した。
初めに出会った時は困惑しました。
黄色い着物を身に纏い、夕陽のようなオレンジの髪を靡かせる艶やかな様に心惹かれながらも、私は殺されないことに驚いていました。
当時の私は、ただの牛でしかありませんでした。
殺され、人間の食事に利用されるのが当たり前と考えていたのです。
それが怖くなって森に逃げたのに、彼女は私を殺すことをせず、そっと頭を撫でたのです。
「そんなに怯えるんじゃありませんっ。別に殺したりしないわよ? 仲良く生きましょう?」
「…………」
私はただただ頭を下げました。
そして、帰ると言った彼女に着いて行きました。
道の所々には待機していたらしい猫達が現れ、彼女と私の後に続いて行きました。
着いたのは村跡で、寂れた廃墟が連なっていたのです。
ですが、住む者達は廃れてなどいませんでした。
村に入った私達を迎え入れてくれたのは色とりどりの猫達で、体当たりして来たり足を舐めたりして来ました。
「お母さん、お帰りっ」
「ただいま〜。む、メリスタスも髪伸びたね?女の子みたいだし、切っちゃうよ?」
「えぇ〜……お母さんみたいに伸ばしたいのにぃ〜」
「…………」
タタタタと駆けてきた肩まで伸びた髪を持つ少年、それは当時のメリスタス様でした。
その少年は私のことを見て、目をパチクリとさせます。
「お母さん、この動物は?」
「牛よ、牛。本で読んだからわかるかしら?」
「闘牛?」
「うーん、戦いそうにはないわね……」
「そーなんだー」
言って、おぼつかない足取りで私の方に寄ってきたメリスタス様は私の顎と背中を撫で、頰を私の首元にくっつけてきました。
「よろしくねっ、牛さん」
「……モォ〜」
「また名前をつけましょうか。覚えきれなくなってきたけど、牛なら忘れることもないでしょう」
そうして私はナルーと名付けられました。
なんかそれっぽいという理由で付けたそうです。
こうして村での生活が始まりました。
とは言っても、特に何をするでもありません。
猫と戯れ、メリスタスのお母様――メリネス様の護衛として何度か森の中に散策に向かう程度でした。
「【雷撃】」
メリネス様が川の下流に雷を放つと、じゃぶじゃぶと魚が浮かび上がってきます。
このようにして魚を取って猫に食べさせ、私のような草食動物は普通に草を食べてました。
森の中では何度も見知らぬ人間に出会いました。
そして、出会い頭に襲ってくるのです。
しかし、メリネス様の雷と猫達の攻撃にはとても敵いませんでした。
「良い? 無闇矢鱈に人を襲っていいもんじゃないの。お魚の一つぐらいならあげるから、出会い頭に攻撃とかやめてよね? わかった?」
いつもそう言って、メリネス様は襲って来た人間を見逃していました。
人を殺さず、動物をも生かす彼女にずっと付いていこうと、私は決めました。
とある日に、私はメリスタス様のお守りを頼まれ、メリネス様と30匹ほどの猫と狼1匹を連れて食料調達に行った日です。
来る日も来る日も食糧難でしたからメリネス様は毎日魚や草を沢山持ち帰るのですが、その日は夜になっても帰ってはきませんでした。
「ねぇナルー?お母さん、帰ってくるよね?」
「……モォ〜」
「……だよね。……お腹すいたなぁ……」
「…………」
しかしその日、メリネス様は帰って来なかったのでした。
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