連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/37/:手懐け

 同時刻――。

「しつけぇワン公だなぁ!!」
「ガウウウウッ!!」
「ワゥゥウウ!!」

 いつの間にやら、私を追う狼は2匹になっていた。
 だがしかし、奴らとの距離もほんのちょっとずつ離れて行くし、他の動物なんて姿も見えない。
 コイツらさえ振り切れば、私は好き勝手動き回れるのだ。

「そいっ!」
「ワウッ!」
「ワフッ!」

 通路から建物の間へと入る。
 走る勢いは殺せず、壁を蹴って速度を失わせてそのまま壁を蹴り進む。
 狼共は一旦止まってからの方向転換、また差が開く。
 この調子なら早くも振り切れるだろう。

「ニャァァアア!!」
「ミャウウ!」
「なっ!?」

 狭い通路の先、そこには2匹の猫が待ち構えていた。
 先読みとは恐れ入る……。

「だが甘ぇ!」

 前後左右を塞がれてるなら飛べば良い。
 私は足を止め、解衣していない羽衣で浮遊する。
 空に逃げる私に狼共は飛びつこうとするも間に合わず、その手は空を切るのみ。

「……ふぅ」

 村が見渡せるだけの高度まで上がり、一息つく。
 魔力を結構使ったもんだ。
 この飛行もあと30分持つか持たないかといったところだろう。
 魔力が多いうちに神楽器を出したいものだが、既にどの屋上にも猫が待ち構えていて降りることも難しい。
 私がこうして囮になってる間にヤラランが手掛かりでも掴んでくれてればいいんだが……。

「つか、ヤラランに人のこと言えねぇな」

 結局、ヤラランの言ってた案が配置違いで実現してしまった。
 そりゃ2人いりゃ二手に別れて探索した方が良いに決まってるし、おのずとこうなるだろう。
 狼がヤラランに追っていってたらヤラランの案が成立していたのだ。

「上手くいかねぇもんだなぁ……」

 ヤラランは私を気遣ってて囮の役を買って出ようとしていたのだろう。
 なのに、逆に心配させる形になってしまった。
 ……心配してくれてる、よなぁ?

「…………」

 なんでそんな事を気にするんだと自分に呆れ返る。
 別に心配してようとしてなかろうと良いだろうに。

「今できる自分の役割に、集中しねぇとな……」

 下を見れば、私を見上げ、吠え、牙を見せる幾多の動物。
 魔力が切れたら、そう思うと冷や汗が流れる。
 諦めて離散してくれねぇかな……。
 まぁ、きっとヤララン次第だろう。
 私の魔力が持つ時間は大まかに知っているはずだから、それまでには戻ってきてくれる。
 私はそう信じている――。











 メリスタスに連れてこられたのは2〜3匹の猫が寛いでいた1階の部屋。
 俺を見た瞬間には毛を逆立てながらも、メリスタスと居るからかそれだけで襲ってきたりはしなかった。

 元々は寝室なのか、綺麗に使われている。
 木造のテーブルセットに修繕が施された後のあるベッド、この部屋にも本棚があってギッシリと本が詰められている。

「ここで暮らしてるのか?」
「寝る時はね……後は基本的に地下に居るよ」
「へぇ、地下? 何があるんだ?」
「何もないよ……人間に襲われないように地下に居てって、ナルーがうるさいから……」
「……はーん」

 ナルーというのが誰かは知らないが、きっとメリスタスの事を愛してるんだろう。
 命を守ってやりたいという気持ちがあるからこそ地下にいろと言うはずだから。

「まぁ、座ってよ。立ってるのも疲れるでしょ?」
「おう……」

 言われるがままに椅子の1つに腰掛ける。
 メリスタスもテーブル越しに向かい側に座った。

「それで、えーと……僕に話?」
「あー、その前にだな……仲間が動物に襲われてるんだけど、やめさせてもらえねぇか? 心配でならねぇ……」
「え!? あ、そっか、一応浸入だもんね……わかった、ちょっと行ってくるね!」
「え? お、おう……」

 ガタリと立ち上がり、そそくさと部屋を飛び出して行く。
 ……見た感じ凄く良い奴だなぁ。
 身を守るために動物使って村を占拠っていうなら理由も頷けるし、別にここには来なくて良かっただろう。
 もちろん、まだ判断材料は足りないから探索したいが――

 ――パァン!!

「うおっ」

 考えに没頭していると、外部からの衝撃音に驚く。
 なんだ今の?
 なんの音?
 俺はのそのそ立ち上がって窓から外の景色を覗いた。
 見えたのはメリスタスが両手を叩こうとしている所で、次の瞬間にはまたパンッ!と音が鳴り響く。
 すると、1匹、また1匹と猫がメリスタスの元に駆け寄り始めた。
 10や20、いや、100はゆうに居るだろう。
 他にも牛や羊、狼も彼女の元に集まった。

「いい、みんな? 今この場所に居る人間は傷付けないであげて? なんかお話しして欲しいらしいから、僕がお話しするよ」

 動物達に向けてメリスタスが言い付ける。
 大半の動物は可愛らしく鳴いたり頷いたりしたが、一部では何の動きも見せない。
 疑っているのであろう。

「お坊っちゃま、大丈夫なのですか?」

 一頭の牛がメリスタスに尋ねる。
 ……牛が喋ってるぞ。
 しかも足が6本だし。
 なんだあれ? 幻獣かなんかか?
 よくわからん。

「大丈夫だよ。世界一善魔力が多い男って言ってたし」
「……余計怪しいのでは?」
「少しお話ししたけど、襲ってきたりしてないし、大丈夫。心配ならみんな付いてきてよ」
「ニャー」「ガウウッ」「メェ〜」
「あっ、でも煩くしないでよ? 声聞こえなくなっちゃうから」
「ニャー」「ガウウッ」「メェ〜」

 異様な光景過ぎて頭が痛くなる。
 100以上の動物を手懐てなずけている朗らかな少女。
 というかお坊っちゃまとか言われてたが、男か?
 女性らしい丸みはないが、声は女性よりだし、容姿もロングヘアで顔立ちもなんか幼いし、気のせいか……?

 まぁメリスタスが女であれ男であれ、そんな事はどちらでもいい。
 とにかく、キィが戻ってくるのを待とう。

「ニャァァア!!!」
「バウウッ!!ワウッ!」
「メェエエ〜!」
「……うるせぇっ!!」
「わーっ! みんな静かにっ! 敵意とか出さないで〜っ!!」

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