分解っ!

ノベルバユーザー194919

4-5 訓練の日々Ⅱ

「久しぶりだなスカイ少尉」
「…お久しぶりです少将」
軍に入ってから四週間。
スカイはグドラムの紹介で、あの試験官に訓練を受けることになっていた。
「で?基礎が足りない?あの人は何を言ってるんだ?」
「魔法強化なしだと基礎が…」
「…え、魔法強化なんてしていたのか?」
「ああ、はい」
そんな事実に初めて気づいたと言わんばかりの顔。
「むぅ…逆に刀術を使いながら魔法強化ができることが素晴らしい技術というものだな」
「そっちは五年間毎日欠かさずですから」
主に戦争をしている間も魔法強化をし続けていたのだから当然だろう。
「よし。応用の技が使用できる体なら三年も必要無いだろう。
一週間で基礎をやり続ければ何の問題もないな!」
「よろしくお願いします」
「あと、敬語だと気持ち悪い」
「ええ…」
軍の規定は何処へ行ったのか。そんな思いがスカイの胸に広がった。
「ん。鷲杜 光輝だ」
「ワシモリ コウキ?」
「…ああ、先に苗字が来る家系なのだ。珍しいだろ?」
「珍しいな」
「ん。自己紹介も済んだところで…今から五時間素振りだ」
ポンと剣が渡される。
「――――――は?」

休むことなく五時間ひたすら基本型の素振り。
「2…1…終了!最後までやりきる体力あり、基礎もできあがったと…んじゃ休憩だ」
地面に倒れるスカイ。
「さて…もうそろそろ那奈が来るかな~」
ちなみにスカイが五時間素振りをしている間、
日差しが照りつける中棒立ちしていた鷲杜も十分疲れているはずなのだが、笑顔で汗を服だけだ。
「お父さん、今日はこっちなんだねー…って誰?」
訓練場のドアを開けて入ってくる女性。
もうすぐ成人といったところであろうか。袋と中身の弁当を持って鷲杜の方にやってくる。
「ああ、こいつを鍛えるように言われてな。新人のくせに少尉だとさ」
「なにそれ?ああ!第五遊撃旅団配属でしょ?」
大体異例の昇級で回りから不満が噴出しそうな人間は
全て功績が完全に追いつくまで第五遊撃旅団配属となるのが通例だ。
「もちろんだ。だが…一度俺が倒されたからな」
「ええ!?お父さんが…にしてはなんで倒れてるの?」
「端的に言えば五時間素振りさせたから」
「…それ、お父さんの最終目標だよね?」
たしかエリート学校から軍に入ってきた若者の鼻っぱしを折るための物であって、
完遂出来る者はほとんどいない…と記憶を掘り返す那奈。
「ああ。最初から五時間振り続けられるのは鍛え続けた証拠ってやつだろう」
「えっ五時間振り続けたのこの人!?」
「今は疲労で倒れてるがな。…おーい聞こえるか?昼飯にするぞー」
「おう…」
と手を振って一応の応答を返すスカイ。
「いや、お父さんこの炎天下で五時間はないでしょ」
「基礎ができてないという話でな…
一週間で基礎が完全に染み込めば問題ないだろう。基本的に全部素振りだがな」
「えー…」
さすがにそれはないんじゃないの?と言いたげな目の那奈である。
「ま、とりあえず昼飯をくれ。2人分持ってきたんだろう?」
「うん。はいこれ」
「おう」
「ちょっと訓練見ていってもいい?」
「んーじゃあ少しさっきの基礎鍛練でどれだけ実力が上がったか確かめてみるか…
おーい、昼食食べたら試合と行こうじゃないか。魔法強化なしで」
「わかった」
少し体力が回復したスカイは立ち上がって砂埃を落とす。
「ほれ、うちの娘お手製の弁当だ。食え」
「あ、ああ」

昼食を食べている間鷲杜の娘自慢を延々と聞かされた後、剣での勝負となった。
「よし、剣を落とした方が負けってところにするか」
「ああ」
剣を構える2人。
「那奈、開始の合図」
「う、うん。始めっ!」
同時の踏み込み。一瞬で2人の間合いが詰まる。
キィンと火花が散る。
「キレが良くなったじゃないか」
「そうじゃなきゃあんた殺してるところだ!」
剣が弾かれる。
これまでのスカイであれば手から剣が落ちるところだが、
そこで剣を逆手に持ち替え、反撃に移るスカイ。
「っと!剣を逆手に持つのは感心しないぞ!」
「一時的な対処としては最善の選択!」
距離をとって剣を通常の持ち方に戻すスカイ。
「さぁ、肩慣らしが済んだところで本番と行こうじゃないか」
「そうだな」
「今回はこっちから行こうか」
ブンッと鷲杜の剣から放たれた火の波がスカイの剣にあたると同時に剣を斜めにして衝撃を流すスカイ。
その隙に間合いを詰めた鷲杜の剣が下から上がってくるのに反応してスカイも剣を合わせる。
反動で剣が同時に弾かれた瞬間、鷲杜は背中で剣を回してスカイに突き刺しに来る。
それをギリギリで弾くスカイ。しかし鷲杜の手から剣は離れない。
五秒ほどの攻防で力量が上がっていることが体感できるほど五時間の素振りは効果があったようだ。
すでに両者からは汗が出てきており、極限の集中状態である。
「やっぱり強くなったんじゃないか?」
「確実に…なっ!」
飛び上がると同時に剣を振り下ろすスカイ。
が、もちろん鷲杜はスカイの体ごと剣を弾き返した。驚異的な筋力である。
「あんまり『将』の位を舐めて貰っちゃ困るんでね!」
鷲杜の剣がスカイの目の前に迫ると同時にドンッという音の衝撃が伝わる。
一秒ほど剣を受け止めていたスカイだったが、
鷲杜の剣にあたった瞬間の衝撃が手にダメージを与え、剣をとり落とした。
「ちっ…負けたか」
最後の視界から消える技はやはり刀術にあったはずだと思い出すスカイ。
「『縮地』か」
師匠が一度だけ見せてくれた技。実際に受けるのと見るのでは違うものなのだと改めて感じたスカイ。
「ああ、まぁ…反応されるとは思ってなかったがな」
「どちらにしろまだ俺には扱えない。魔法強化しても使えなかったからな…」
一度試したことがあったが、筋肉の筋が引きちぎれそうな感覚は未だに覚えているスカイ。
「ほう…じゃあ明日は五時間走らせてやる」
「おい…」
確か師匠も魔法強化しなければ使えない技を己の体のみで使えというのか、と思うスカイ。
「最初は魔法強化が必要だろうが、段々と使わなくとも出来るようになる。確証してやる」
「ああ…」
それならグドラムにも勝てるかもしれない…と思ったスカイだった。
「ふーん…顔もいいし、性格も…いい、かな?有望株ってやつかなぁー」
と試合を傍から見ていた那奈は場違いなことを考えていた。
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メインストーリー:【死神】
『第一章【胎動】第七節:訓練の日々編』が継続中です。
完了条件『【グドラム】に勝利、【フィナ】への贈り物』が完了していません。

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