分解っ!
Ⅲ-5
今の時代、十四、五歳と言えば国の教育期間で青春を過ごすものなのだろう。
だが、彼らは違った。
「戦争を終わらせた軍団」とまで言わしめたその活躍ぶりは―――親の遺伝であったのかもしれない。
平均年齢十五歳で構成される彼らは―――初めての戦場で
「吐いてたね」
「それが普通なんじゃ…?」
初めての戦争。帝国との大規模戦闘ではなく、小国との小競り合い程度の物だ。
だが…その「小競り合い」でその小国は王国に併合された。
「死体の山―――と言っても想像できないだろうね」
「普通出来ないと思いますけど…」
それはただ一人の手によって作られた。
首が無い。腕が無い。上半身が消え去っている。
血を流している死体、焼けただれた死体。細切れになった死体。
すべては折り重なって凄惨な場所だった。
「今でも王国はそこを立ち入り禁止にしているよ。地面から血の跡が消えないってね」
山の麓からは幾筋も川が流れていた。血の川が。
そこに敵も味方もなかった。あるのはただ「死体」と「怨霊」だけ。
「王国も記録しているよ。過去最悪の悪夢だ、とね。
人を兵器として扱うな。兵器となった「人」は「獣」へと変わり、「死」が降ってくる」
「王国が兵士に人権の主張を許可した時の言葉ですね?」
「ああ。話を戻すとね、死体の山は―――五個作られたよ」
「五個…?」
「1人一個。つまり五人が―――獣となって、死を降らせたんだ」
最初の五人と呼ばれた彼らは―――戦争の狂気に呑み込まれ、理性を崩壊させた。
両親を奪った苦しみを。恨みを。全てをぶつける為に。
「軍団の中でもこう呼ばれたよ<黒の子供達>とね」
戦争の時以外は普通―――といっても身体能力は通常でも王国兵士を凌駕する―――の時は
目は青色の目や赤色の目。金髪や白髪など市民と同じ格好だ。
だがー…一度戦争の中へ入れば―――
「黒色に染まるんだ」
「黒…ですか?」
「ああ。髪が真っ黒にね」
周りから見れば危険信号の一種だ。
徐々に染まる髪の毛。その瞬間、味方ははるか遠くへと逃げ出していくのだ。
さらに言えば、目も真っ黒だったのだろう。
髪の毛が染まり始めると全員目を閉じて、開けた瞬間に他の四人の瞳が黒色に染まるのだから。
ちなみに目を閉じたところで戦闘に支障はない。
「そう言えば、スカイさんは蒼目銀髪ですもんね」
「ああ。両親の遺伝子をきっちり受け継いだみたいだな。父親が蒼目で母親が銀髪だ」
「じゃあ、それが真っ黒に…」
「他の奴は茶色とかだから劇的な変化とはいかないんだが…銀髪は、な」
想像してみればおかしなことだ。白に近い髪が真っ黒に染まるのだ。
「黒に変わる」時間が一番わかりやすい、と仲間たちはスカイの髪の毛を良く見ていた。
「あ、でも毛根の方からなんですよね?」
「いや、毛の先の方からだよ」
色が変わるまで約十分。
五人以外が戦場で戦える時間とほぼ同時間とも言える。
「なんか…想像しただけで怖いんですけど」
「小国との戦争を五回…六回くらいかな。
続けてたら<死の使者>に呼び名が変わったよ」
自嘲的な笑いしか出てこない。
彼らは戦争に怒りをぶつけ、戦争で怒りを溜める。
「いつの間にか、他の仲間たちも黒色の髪の毛になるようになった。
そしたら―――最初の五人の内、自分以外の四人はもう、髪が元に戻らなくなっていったよ」
戦争に行くだけで心の中にストレスはたまっていくのだ。
そして、段々とストレスは精神を破壊し始める。
「一番最初は―――ファーリュ。小柄な女子でね。動くのが好きだった。髪の毛が元々茶色くて目も黒目。
だから黒色から戻っていないことに気づきづらくてね…帝国との戦争中にとてつもない叫声を上げた。
その戦争は確かに勝ったけれども、もう彼女は言葉すら喋れなくなってしまったんだ」
仲間が突然鼓膜を破くような叫び声を上げ、壊れていく様はスカイにとって最悪の光景だった。
その後は死んだ魚の様な目でこちらの質問に首を動かすだけ。
歩くことさえ億劫だといわんばかりに寝たきりになり。最後は足を腐らせながら死を迎える。
悪ふざけの過ぎた学園。でもその中での仲間たちの思い出は―――スカイを苦しめた。
「それからはもうドンドンと。戦争は簡単に終結へと収束したけど、加速度的に仲間が減るんだ。
最後の仲間のカミーは俺に私達の分まで生きてくれと言って死んでいったよ」
何度仲間を焼いただろうか。骨を小さな墓に入れて、彼らは誰にも弔われず死んで行くのだ。
唯一生き残ったスカイも、彼らの墓がある場所へ行くことはない。
彼らを教えた長老たちも、次世代の魔法使いの訓練をする中、過労で倒れることさえあったのだ。
「ひどい時代だよ。惨劇と呼ぶのもおこがましい。地獄さ」
そう、呟いて少女を見る。
しかし、少女はもう寝ていた。
「…意外と度胸のあるかもしれないなぁー」
そう、確かに少女は聞いていなかった。
「スカイ…」
寝室で寝ている女性は確かに聞いていたのだが―――。
だが、彼らは違った。
「戦争を終わらせた軍団」とまで言わしめたその活躍ぶりは―――親の遺伝であったのかもしれない。
平均年齢十五歳で構成される彼らは―――初めての戦場で
「吐いてたね」
「それが普通なんじゃ…?」
初めての戦争。帝国との大規模戦闘ではなく、小国との小競り合い程度の物だ。
だが…その「小競り合い」でその小国は王国に併合された。
「死体の山―――と言っても想像できないだろうね」
「普通出来ないと思いますけど…」
それはただ一人の手によって作られた。
首が無い。腕が無い。上半身が消え去っている。
血を流している死体、焼けただれた死体。細切れになった死体。
すべては折り重なって凄惨な場所だった。
「今でも王国はそこを立ち入り禁止にしているよ。地面から血の跡が消えないってね」
山の麓からは幾筋も川が流れていた。血の川が。
そこに敵も味方もなかった。あるのはただ「死体」と「怨霊」だけ。
「王国も記録しているよ。過去最悪の悪夢だ、とね。
人を兵器として扱うな。兵器となった「人」は「獣」へと変わり、「死」が降ってくる」
「王国が兵士に人権の主張を許可した時の言葉ですね?」
「ああ。話を戻すとね、死体の山は―――五個作られたよ」
「五個…?」
「1人一個。つまり五人が―――獣となって、死を降らせたんだ」
最初の五人と呼ばれた彼らは―――戦争の狂気に呑み込まれ、理性を崩壊させた。
両親を奪った苦しみを。恨みを。全てをぶつける為に。
「軍団の中でもこう呼ばれたよ<黒の子供達>とね」
戦争の時以外は普通―――といっても身体能力は通常でも王国兵士を凌駕する―――の時は
目は青色の目や赤色の目。金髪や白髪など市民と同じ格好だ。
だがー…一度戦争の中へ入れば―――
「黒色に染まるんだ」
「黒…ですか?」
「ああ。髪が真っ黒にね」
周りから見れば危険信号の一種だ。
徐々に染まる髪の毛。その瞬間、味方ははるか遠くへと逃げ出していくのだ。
さらに言えば、目も真っ黒だったのだろう。
髪の毛が染まり始めると全員目を閉じて、開けた瞬間に他の四人の瞳が黒色に染まるのだから。
ちなみに目を閉じたところで戦闘に支障はない。
「そう言えば、スカイさんは蒼目銀髪ですもんね」
「ああ。両親の遺伝子をきっちり受け継いだみたいだな。父親が蒼目で母親が銀髪だ」
「じゃあ、それが真っ黒に…」
「他の奴は茶色とかだから劇的な変化とはいかないんだが…銀髪は、な」
想像してみればおかしなことだ。白に近い髪が真っ黒に染まるのだ。
「黒に変わる」時間が一番わかりやすい、と仲間たちはスカイの髪の毛を良く見ていた。
「あ、でも毛根の方からなんですよね?」
「いや、毛の先の方からだよ」
色が変わるまで約十分。
五人以外が戦場で戦える時間とほぼ同時間とも言える。
「なんか…想像しただけで怖いんですけど」
「小国との戦争を五回…六回くらいかな。
続けてたら<死の使者>に呼び名が変わったよ」
自嘲的な笑いしか出てこない。
彼らは戦争に怒りをぶつけ、戦争で怒りを溜める。
「いつの間にか、他の仲間たちも黒色の髪の毛になるようになった。
そしたら―――最初の五人の内、自分以外の四人はもう、髪が元に戻らなくなっていったよ」
戦争に行くだけで心の中にストレスはたまっていくのだ。
そして、段々とストレスは精神を破壊し始める。
「一番最初は―――ファーリュ。小柄な女子でね。動くのが好きだった。髪の毛が元々茶色くて目も黒目。
だから黒色から戻っていないことに気づきづらくてね…帝国との戦争中にとてつもない叫声を上げた。
その戦争は確かに勝ったけれども、もう彼女は言葉すら喋れなくなってしまったんだ」
仲間が突然鼓膜を破くような叫び声を上げ、壊れていく様はスカイにとって最悪の光景だった。
その後は死んだ魚の様な目でこちらの質問に首を動かすだけ。
歩くことさえ億劫だといわんばかりに寝たきりになり。最後は足を腐らせながら死を迎える。
悪ふざけの過ぎた学園。でもその中での仲間たちの思い出は―――スカイを苦しめた。
「それからはもうドンドンと。戦争は簡単に終結へと収束したけど、加速度的に仲間が減るんだ。
最後の仲間のカミーは俺に私達の分まで生きてくれと言って死んでいったよ」
何度仲間を焼いただろうか。骨を小さな墓に入れて、彼らは誰にも弔われず死んで行くのだ。
唯一生き残ったスカイも、彼らの墓がある場所へ行くことはない。
彼らを教えた長老たちも、次世代の魔法使いの訓練をする中、過労で倒れることさえあったのだ。
「ひどい時代だよ。惨劇と呼ぶのもおこがましい。地獄さ」
そう、呟いて少女を見る。
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