分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅱ-6

二十階層。
死の門番などと呼ばれるようになったソレは、
今までのように大きな的ではなく、小さい…そう人間のよう。
【地縛霊】
迷宮に迷い込んだ者たちが生を渇望しすぎた結果、迷宮の魔物へと変貌した姿。
強さを求めるあまり、探索者を襲う危険な魔物だ。
霊系統の魔物であるために物体による攻撃は通り抜けてしまう。
が、『浄化』などの付与系魔法を纏わせればかすり傷だけで消滅するほど存在は薄い。
しかし、Dランク探索者が地縛霊になったのならまだ良い方だ。
二十階層ボスである地縛霊。
元はBランク探索者。その体組織の強さから物理的な攻撃が通るものの、
逆に即死級の傷を負わない限り存在が消滅することはない。
理性が完全に残っているため魔法を使い、戦術的な攻撃さえ繰り出す凶悪な霊だ。
突破するまでに探索者は傷だらけになり、それ以上の探索を断念しやすい。
そんな悪魔とも言うべき存在のいる部屋への扉をスカイとフィナは開ける。

ギギ…と扉が開くと、中で座っていた半透明の男がゆっくりと立ち上がる。
「始めての挑戦者のようだな…フフッ。ここを通りたければ私を倒してみろ!」
フッと男の体がぶれる。
殺気の籠った一撃に反射的に反応したスカイ。
剣と刀がせめぎ合う。
三秒の攻防の末に男は天井まで飛び退く。
「フィナ、あれと戦えるか!?」
「少しならっ!」
言うと同時に男へと向かうフィナ。
スカイは弓を取り出す―――弓が動かない。
「拗ねてる場合じゃないっ!」
フンッと言わんばかりに弓は動こうとしない。
「あーもう分かった、この迷宮ではお前しか使わないから!」
スカイの目の端ではフィナが押されつつあるのを確認している。
仕方ないなぁーと言わんばかりに弓はスカイの手に収まった。
「『具現化』!」
弓に魔力がともり、発光―――と同時に羽のある精霊が飛び出る。
「約束はちゃんと守りなさいよっ!」
「あーわかった、だから展開を手伝ってくれ」
久しぶりの再会だというのにうるさいという感想しか生まれないことに辟易するスカイ。
「てんかーい」
弓はさらに魔力を蓄え始める。
スカイは体内から三割の魔力を取られたのを確認した。
弓に刻まれた魔法陣が光輝く。
スカイの身長の半分程度だった弓は、
魔力の結晶を生み出してスカイの身長と同じくらいにまで巨大化する。
弓全体に雷電が走り始める。
「準備おっけーいつでもどぞー」
「標的、地縛霊」
「ロックしたよー」
緊迫感のない声がボス部屋に響く。
魔力結晶の矢が作られる。
グググッとスカイは弓を引き絞る。
魔力の収縮と共に、弓はあり得ないほどのしなりを見せ、ついに魔力結晶にひび割れが起きる。
漏れ出た魔力が爆縮されると同時に矢は雷を内包し始める。
「『雷竜砲』っ!」
魔力が放出されるギリギリのタイミングでスカイは矢を放つ。
「フィナ!飛び退けっ!」
競り合いとなっていた場を一瞬で天井へと飛び上がりゴンッと頭をぶつけるフィナ。
追いかけようとした男は目の前にある矢をどうすることもできず―――
着弾とともに耳の鼓膜を破りかねない高音と閃光が部屋を満たす。
それは現実では五秒程度。だがフィナにとっては五分ほどだったように感じられた。
光が収まった時には天井から何時の間にかスカイの腕の中に。
「おい、耳は大丈夫か?」
「は、はい…ギリギリ…」
まだ高音が耳の中で鳴り響いている気のするフィナ。
よろよろと立ち上がろうとするもバランスを崩し、スカイに支えられた。
「少し休むぞ」
もう一度腕の中で抱きかかえられるフィナ。
そこで少し思考が回復する。
この状態は―――俗に言うお姫様抱っこ―――?
自覚するや否や顔は真っ赤になる。
思考はメチャクチャになり、目が泳ぐ。
スカイは、「やはり高音にはなれないもんだよな…」
と勝手に解釈し、水晶に手で触れた後、フィナの手首を持って水晶に触れさせる。
「ほら、少し休憩だ」
テントを出し、ベットに寝かせ、水を飲ませる。
病人のような扱いにドキドキしながら思考をまとめようとするのに二時間ほどかかった。

「本当に大丈夫か?」
「はいっ!」
立ち上がれるようになったフィナは元気よく答える。
それを見てスカイは大丈夫だろう…と判断し階段を下り始めた。
二十階層から先は一階層ごとにボスがいることで有名だ。
そう言えばボスを倒した時のログが出なかったな…と思うスカイ。
実は霊体が完全に消滅してしまったので経験値が入らなかったのである。
が、一応階層クリアのボーナス表示はあったのだが、
フィナの看病(?)をしている間に見逃していたのだった。

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