分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅰ-4

探索者の女性に絡まれた後、受付で準迷宮の場所や規則、常識などなどを聞いたスカイ。
すでに準迷宮の正面に来たスカイは気合を入れ直して迷宮へと入る。
一歩踏み出した先には薄暗い通路が待ち構えていた。
「やっぱりランタンとかは要るんだな…」
と呟きながらもスカイは光の魔法を唱える。
小さく光る玉が頭上でふわふわと漂う。
「まぁこんな光出してたらモンスターも集まってくるってもんだよな」
グルル…と通路の闇から姿を現す狼。
ミスリルの弓を取り出し、矢をつがえるスカイ。
パンッと高音を出しながら矢はスカイの手を離れ、オオカミの頭へと吸い込まれていく。
ドスッという音とともにオオカミの脳天を貫く矢。
フワッとオオカミの姿が崩れ、光の粒子となる。
そして光の粒子はスカイへと流れこんでいく。
モンスターを倒すと魔素と呼ばれる体を強制的に強くする粒子となってとどめを刺した人に流れ込む。
魔素は人を少しづつ筋力などといった基礎の部分を底上げしてくれるものだ。
大迷宮のボスと呼ばれるモンスターを倒した時には一気に魔素が流れ込むため急激に力が増す。
この魔素によって細身の女性探索者も難なく重い剣を振り回すことさえできる。
すでに容姿で実力を測る時代は終わっているのだ。
オオカミを倒してほっとするのも束の間。
先ほどの音に反応してスケルトンが現れる。
さっさと先に進む必要があるな、と剣に持ち帰るスカイ。
まずは肩慣らしと言わんばかりにスケルトンをその巨大な刀身で粉々に砕く。
ダンッと走り出すスカイ。重さを感じさせない軽快な走りは重心を完全に操れる達人の走り方だった。
二時間ほど適当に道を進み、行き止まりになったら道を戻るということを2~3回。
するともう二階層でボス―――オークと出会ってしまった。
先制攻撃をボスに放つスカイ。
巨体を器用に捻り矢をかわすオーク。
これまでのモンスターとは一線を画す動きを見てスカイの闘争本能が刺激される。
武器を剣に持ち替えたスカイは脅威のスピードでオークに迫る。
オークは焦りながら棍棒を振りおろすも、横に飛んで回避される。
ドンドンッとスカイを潰そうと棍棒を繰り返し振りおろすも全てかわされ、オークはさらに焦る。
そしてオークの真下に近いところでスカイは一気に飛び上がる。
バチッと剣に雷を纏わせるスカイ。
「雷斬」
ズシャァッとオークが真っ二つに焼き切れる。
断面に雷がバチバチッと迸りながらオークだったものはズドン…と地面に崩れ落ちる。
オークが粒子になると同時に目に何かが表示される。

『王都平原の寄り道迷宮を攻略。
これにより固有魔法【分解】の制限【―――】が開放されました。
【分解】による迷宮改変スキルが追加されました。
固有魔法【分解】:迷宮改変スキル(Ⅰ)
これにより寄り道迷宮の構造を分解できるようになりました』

一体なんだこれは?と疑問に思うスカイ。
なんとなく「寄り道迷宮」というのが「準迷宮」の事を表していることはかろうじて分かるものの、
自分が生まれたときからある【分解】に制限があったことさえ知らないというものだ。
だが、これで準迷宮の攻略が簡単になったんだろうと思うスカイ。
これは確かに王都平原の大迷宮自体を早く攻略しなければ。と思うスカイだった。

『攻略者スカイ=フリーダムには財宝【血棍】、金貨2枚が授与されます』

いつの間にか袋の中に入っている赤い棍棒と金貨2枚。
金銭的には大赤字ってところか…と思うスカイ。
それにしても…来た道を戻らないと…ん?と自分の足元に魔法陣があることに気づくスカイ。

『迷宮攻略につき、侵入者全員を転送します』

グワリと体が引き延ばされる感覚を感じるスカイ。
景色は一瞬で変わり、地上へと戻ってくる。
後ろを振り返ると迷宮の入口は閉じ、そこには何もない平地という状態になっていた。
よし、探索者ギルドに報告だな。と町へと歩き出すスカイだった。
二十分ほどで探索者ギルドに到達する。
すると廊下に立っていた職員がカウンターに居る。
顔見知りの方がいいか、と職員の前に立つスカイ。
「カードを」
探索者カードを取り出すスカイ。
「王都平原274番迷宮を攻略ですね。記録完了です。財宝の買い取りも行いますが?」
「じゃあこれですね」
と、【血棍】と名のついた棍棒をカウンターに置く。
「銀貨二枚です」
チャリンと銀貨が二枚放られる。もちろんキャッチしたスカイは袋にそれを納める。
「さすがに1人で大迷宮攻略は難しいでしょうから奴隷でも連れて行ったらどうですか?」
「今の時代、女奴隷でも成長が期待できますからね…」
「同じ女性としてあなたを軽蔑したいです」
キッと睨まれるスカイ。
「別にそういう目的じゃないですよ。一週間男とむさくるしい夜を過ごすのが我慢できないだけです」
「それを軽蔑するということです」
まいったな…と困るスカイ。知り合いは1人でも多くいた方がいいのだ。
「はぁ…奴隷販売所は…ここです」
スカイの持っている冊子を要求し、ある区画を示す職員。
「わかりましたありがとうございます」
スカイは探索者ギルドを後ろに、ある区画へと足を進めた。
表面的―――公式の地図など―――には空白にされている場所。
そこには小さな酒場と注意書き。
ここに入る者、地位を捨てよ。中の事を外に持ち出すことなかれ。
カラン…と入口の鈴を鳴らしてスカイは酒場の中に入る。
「新入りか。すでに噂は聞いてるよスカイ=フリーダムさん」
カウンターに立つマスターに話しかけられる。
「ここは情報屋も兼ねてるのか?耳が早いね」
「ちっ。少しは楽しめると思ったら冒険者かい」
「そういうあんたも冒険者のクチだな」
その口の悪さからして。と証拠半分ギャグ半分を突きつけるスカイ。
「はっ。Cランクで止まった平凡野郎さ。まぁ話もそこそこでやめておこう。奴隷を買いに来たのか?」
「ああ。王都平原攻略が目標だな」
「そうか」
マスターがカウンターを開く。
「入りな。地下が販売所だ」
ガコッと壁が動き、横にずれる。
「ちなみにあんた、冒険者ランクは何だ?」
「もう奪われたよ。まぁ…元Aランクだ」
あっけにとられるマスターを後ろに、扉をくぐっていくスカイ。
扉が閉まると同時にマスターはつぶやく。
「弓神のスカイ…」
思い当たるAランクでスカイと名前がつく冒険者。
戦場に突然の死をもたらす死神。3km先が見え、1kmが射程距離と言われる化け物。
大陸の統一とともに姿を消した男が何故―――?

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