分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅰ-3

とりあえず身体強化でも受けてみるか。
そんな思いつきからギルド長の部屋から出たスカイは近くにいる職員に声をかける。
「すみません、職業に就きたいのですが」
「カードを」
ギルド長の部屋から出ると同時にカードを返してもらっていたことを思い出し、
スカイは職員にカードを手渡す。
「…確認しました。こちらへ」
探索者ギルドの奥。そんな場所に厳かな雰囲気の部屋にビッシリと魔法陣の描かれた魔法具が置かれていた。
「少々お待ち下さい…確認しました。適性検査の結果、スカイ様は魔法戦士の資格をお持ちです」
「じゃあそれで」
特に職業の種類を知らないスカイは即承諾する。
「ではそこにお立ちください」
魔法具の中心に立つスカイ。
「場合によっては痛みを伴うのでご注意ください。では始めます」
職員が魔法具に魔力を流し込むと同時に魔法陣が光り輝く。
真下からも魔法陣が浮かび上がる。
まるで儀式をしているみたいだ。と思うスカイ。
次の瞬間、激痛が体を駆け抜ける。
が、顔をしかめるだけで、身じろぎもしないスカイ。
職員はすこし驚いた顔で魔力を流し続ける。
こいつ…激痛が走ることを知っていたな。この狸野郎め。
と悪態を心の中でつく。
少しづつ収まる魔法陣。そして職員が魔力を込めるのを終了させる。
完全に収束したか職員が確かめ、
「終了です。カードを更新しますね」

名前:スカイ=フリーダム
称号:冒険者
職業:魔法戦士
特技:剣技(Ⅷ)、弓技(Ⅹ)、魔法(Ⅴ)
固有魔法ユニークマジック:分解
挑戦中迷宮:なし
最新達成迷宮:なし
ランク:A-
装備品:村人の服、狩人の弓

「『A-』?これは何だ?」
「Aランクとしての実力はありますが実績を伴っていないということです。
どこか大き目の迷宮を攻略すれば自動的に『-』が取れて、晴れてAランクになりますね」
「ありがとうございます」
「ふむ…連続で身体強化を受けるのはお勧めしないので
一ヵ月ほどお待ちいただいた後、職業のランクアップに来てください」
「え?」
何故ランクアップの話しなどするのだろうか?
「すでに次の魔法系戦士上位職にランクアップする資格を持っていますから」
「は、はぁ…」
そんなに体を鍛えていたとは思っていないスカイ。
だが、簡単に身体を強化できる今では身体強化をせずに体を鍛えている人間など本当にごくわずかだ。
たとえば辺境の村などでない限り。
つまりその「ごくわずか」の中に入っていたスカイは体を必要以上に鍛えた結果、
身体強化をした時の効果が倍増…もしくは三倍くらいに跳ね上がったわけだ。
「まぁ小さな迷宮とか攻略してみたらどうですか?」
「良いですね。近場にありませんか?」
「うーん…王都平原の準迷宮付近ですかねー」
「準迷宮?」
また新しい言葉が。と頭を抱えるスカイ。
「ええ。大きな迷宮…まぁ大迷宮と呼びのですが、時々大迷宮の近くに小さな迷宮が生まれるのです。
さすがにそんな小さな迷宮一つ一つに名前を付けるのは大変なので準迷宮と称して数字で管理してます」
別に一つ一つ名前を付けてもいいというものではないのか?と思わずにはいられないスカイ。
だが、実際のところ小さな迷宮は広くもなく、階層もほとんどないため簡単に攻略出来てしまう。
そんなものにいちいち名前を付けていたらやりきれないというやつである。
「とりあえず準迷宮で肩慣らしでもしておいて、本迷宮に挑んでみたらどうですかね?」
「良いですね。まずは装備を整えないといけませんけど…」
幸いなことに通貨が変わっていなかったことでスカイは未だに一財産ある。
他にも使わなかった良くわからない名剣やら色々な装備類をスカイは持っている。
換金すれば一生遊べる金が手に入ったりするのだが、
馴染みの店もない中相場が分からない以上、売るに売れない状態で放置されている。
「探索者ギルドの割引店が載っている冊子です。どうぞ」
「ありがとうございます」
こんなに対応が良いなんて。冒険者ギルド時代なんて
「は?自分で調べなさいよ」
なんて冷たい言葉を浴びせられた記憶がある。と昔を思い出すスカイ。
「じゃあまた」
「迷宮を攻略されたら来てください。記録に残しますので」

迷宮ギルドを出て、冊子を見ながら防具屋に辿り着いた。
「いらっしゃい。話は聞いてるよ」
何時の間に話しを通したんだ。
「まぁ話は分かりそうだから詳細は省く。防具は軽い方がいいか重い方がいいか」
「軽い方で」
「…そうかい。あーそうかい。まぁそうだろうと思ったよ。
明日までに仕上げてやるから今日の所はもう行きな。武器屋にでも言ってこい」
なんでこの店主は投げやりな口調なのだろう。
そんな疑問を抱えながらスカイはまた冊子を見ながら武器屋へと辿り着く。
「おういらっしゃい。もう話は聞いてるさ。どんな武器が欲しいんだい?」
「基本は弓ですが剣もできますね。弓、剣共にミスリル製が欲しいです」
「ミスリル製…オリハルコン製よりは柔らかいし軽いが、重いぞ?」
「あるなら触らせてもらっても良いですか?」
「おう。これだ」
店の奥からキラリと銀色に光る剣。
大型のモンスターを倒すことができるようにと作られた
その巨大な剣は武器屋の親父でも両手で持つので精一杯だ。
「剣の形も変わったんですね。昔はここまで大きくありませんでしたよ。
ああ、森で生活してたから腕が鈍ってそうです」
と苦笑しながら片手で剣を振るスカイ。
「…おまえさん、それは両手で使うもんなんだが」
「え、あ…そうなんですか!?いやー間違えちゃいました。
でも片手でも力を入れやすいですね。これいくらですか?」
「お…おう。それは金貨八枚だな」
間違えても片手で振るもんじゃないんだが…と店主は心の中で呟く。
「弓の方は?」
「ゆ、弓の方は…」
わたわたと店内を探し回る店主。
「おお!あった。これだな」
全体が銀色に輝く弓を奥から引っ張り出してくる店主。
「弦までミスリル製だからかなり引っ張りずら…い…」
グーッと限界まで弓を引くスカイ。弓はミシミシと音が鳴る寸前の様な状態だ。
「良いですね。六割の力でも壊れないとは…。
ついでに矢にも魔法をかけながら放てるっていうことだから戦術の幅が広がりますね!」
「お…おう…それ金貨十二枚だから全部で金貨二十枚な」
すでに放心状態の店主。
「わかりました。ありがとうございます!」
カウンターに金貨を二十枚ジャラッと置いてまた探索者ギルドへと戻るスカイだった。

―――――――――

私はルーナ=ミクス。貴族の地位を捨て探索者をしている。
周囲の反対を押し切った形で探索者になった私は、
拳と固有魔術―――と言っても身体強化の魔法だが―――を使って多くの迷宮を攻略してきた。
そして私は今、王都の平原にある最大級の迷宮に挑もうとしていた。
ランクAへの昇級試験で必要となる貢献度までもう一歩。
だが、今私はそんなことよりも重要な男を見ている。
外からやんわりと入ってきた男。
だが、足さばきが完全に素人にも関わらず体幹がぶれないその歩行技術。
熟練の格闘兵のみが習得していたその歩行技術とあまりにも一致した。
これが老獪というべき老人であれば私も納得していた。
だが―――なぜ二十歳を過ぎたばかりの男が。私と同年代の男が、そんな歩行技術を習得している?
私には確信があったのだ。この男は初心者などではない―――別の…化け物のようだ、と。
反射的に私はその男に殴りかかった。
瞬時に受け流される拳。
「…殺気を巻き散らかさないでください」
お前が―――見る者が見たら驚愕する実力を持ったお前が言うのかと。私はキレた。
全身が黄色い靄に包まれる。私の固有魔術が使用された合図だ。
固有魔術【気術】を用いた最大の一撃。が、男は冷静だった。
「分解」
グワリと今までにない感覚が体を駆け抜けた。気づいた時には拳を止められていた。
「ギルド内での戦闘行為が許されているとは思いませんが?」
諭されて私は赤くなった。
探索者ギルドでも殴り合いは日常茶飯事…とまでは行かなくとも時々起きる程度の頻度だ。
だが、私がこの男に行ったのは固有魔法の使用。
それは見方によっては戦闘行為と取れる…というかまず戦闘行為とみなされる行動だった。
「…すまない」
「まぁ、このギルドがアホばっかりじゃないと分かっただけ収穫があったことにしますよ」
耳元でささやかれる言葉に私はさらに顔を赤くする。
そのまま受付へと遠ざかっていく彼を見ながら私はうつむいた。
ああ、探索者ギルドは彼に試されていたのだ。自分の実力が分かる実力者はいないのか、と。
彼の視点に立ってみれば良くわかる。私は大失態を犯したに違いなかった。
周りから何を言われても答える気力を失ったのは仕方のないことだと思う。

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