満月の美しい夜に…

ノベルバユーザー173744

お姫様と教育係兼婚約者の関係です。

ふえっ、ふえっ……

しゃくりあげる声に、りょうは、慌てて部屋に飛び込む。

「大丈夫?琉璃りゅうり?」
「ふわわわぁぁん!!おにいしゃま!!」

身を起こそうとするのを、慌てて寝かそうとするきん珠樹しゅじゅに、

「いやぁぁん!!おにいしゃま!!怖いにょぉぉ」
「はいまって!!琉璃、まずはお兄ちゃんが行くから良い子にしてて。子明しめい先輩。これを持っていてください」

琉璃用の簡易食を手渡して、近づくと、傷に障らないように、だっこする。

「琉璃?怖くないよ?起きたばかりだから、ビックリしたんだね?ほら?均と珠樹。お兄ちゃんの弟と妹だよ?」
「おにいしゃま……痛い。痛いにょ~」

ふえふえ泣きじゃくる少女が包帯の巻かれた手で、涙をぬぐおうとするのを、均はサッとハンドタオルを出して、

「琉璃?ほらほら、くまさんのハンドタオルだよ~?可愛いでしょ?珠樹と選んできたんだ。これでお顔拭こうね?」
「あ、ほら、琉璃ちゃん。ここのベッドのシーツや枕の柄はくまさん模様よ?それに、ほら、子明が持ってきてくれたくまさんは全部あそこに並んでいるの。可愛いわよね」
「く、くましゃん……?」
「そう。はい、くまさんのタオル。お兄ちゃんがふいてあげる」

均にふいてもらい、子明がささっと取ってきた光華こうかと、一番お気に入りの大きなテディベアを持ってくる。

「ほら、琉璃?心配するなよ。お兄ちゃんがちゃんと持ってきたぞ」
「あ、あいがとう……ふえっ、怖がってごめなしゃいっ」

泣き出しかけた琉璃に、珠樹は、

「謝らなくて良いのよ。怖かったんだもの、私たちとも余り会ったことがないし、ビックリするわ。だから、心配しないで。それよりも、本当に大丈夫?痛くない?」
「だ、大丈夫れしゅ……ちょっとだけ……痛いれしゅ」
「大丈夫じゃありません。泣いちゃったから、又熱が出てる。これを食べてから、お薬飲んでお休みしようね?」

亮は、受け取った器を見せる。

「ほら、琉璃?甘いオートミールだよ。食べにくいかもしれないけれど、栄養があるから食べてみようね?」

トロリ……と、甘さよりも深みを増すはちみつをたらし、

「はーい。お口あけて?」
「あーん……お粥しゃんより、変なあじ……」

首をかしげる琉璃に、亮は微笑む。

「でも、コトコト煮込んでいるから美味しいでしょう?」
「うん」

ぺろりと食べた琉璃は薬を飲ませてもらうと、すやすやと眠り始める。



「よかった。薬も飲んだし、長距離移動だから心配したけど……あ、すみません。えっと……」

姿を見せたのは、優しげな丸い目の女性。

「こんにちは、皆様。私はヴァーセルの妻のメリアナと申します。こちらのお屋敷の女官長になりますの」
「じょ、女官長!?ヴァーセルさまの奥方が、働いているのですか?」

はっきりいって、珍しく表情を変えた亮に、コロコロと笑うメリアナ。

「元々宮廷の女官見習いでしたの。ヴァーセルは仕事人間で全く家に戻らないと言うことで、そのまま働いていたのですわ。すると、殿下からのご命令で私が姫様付きの女官長になりましたので、ヴァーセルもこちらに執務室を移したのですわ」
「移した……って、ここに!?良いんですか!?」
「良いも何も、ヴァーセルは実家以外、家がありませんし、リフォーン一人には任せておけませんもの。大丈夫ですわ。私たちの子供たちも遊び回れるお庭がありますの。姫様も、仲良くできるかと思いますわ」

にこにこと微笑みながら、お茶を勧める。

「どうぞ。クッキーですわ」
「……まぁ!!美味しい」

珠樹は、笑顔になる。

「素敵。こんなに美味しいクッキー、作られましたの?」
「公主殿下の趣味ですわ。自分のティータイムは、自分がと言われる方なんですわ。作って保存していたものですわ」
「美味しいです!!ねぇ?」
「うんっ。これは有名なお店のお菓子よりも、美味しい!!」

珠樹と子明が、頷く。

「大丈夫ですか?」

メリアナは、亮を見つめる。

「あ、はい……大丈夫と言うか、琉璃が……辛かっただろうと思って。守れずに……」

俯く亮に、メリアナは、

「話は伺っておりますわ。でもあれは、事故と言うよりも、愚かな親子の暴走です。それに、亮さまは最善の行動を起こそうと思ってましたわよね?」
「最善……だったのか、今では良く解らないです」
「それが普通ですわ。解ってたらしませんもの」
「は……はぁ!?」

顔をあげると、メリアナは頬に手を当てて、

「ヴァーセルに似てますわねぇ。人は何もかも出来るわけありませんのよ?出来れば神です。必死に努力するのが人の役目です。そしてもう二度としないぞと思うことも出来ますのよ?そう考えるようになってくださいませ。でなければ、姫様をお任せ出来ませんわ」
「そ、そうですね!!頑張ります」
「そうなさってくださいませ。後日お越しになられる、旦那さま、奥様、姫様のお兄様のお部屋も準備が出来ております。そして、別棟にお兄様がたのご準備も出来ておりますので、ご安心下さいませ」

微笑むメリアナに、ふと思い出したように均が、

「僕たちは別棟……兄様はどこですか?」
「このお隣です。ここは、姫様のお屋敷ですので、主寝室となっておりますの。お隣に、諸岡もろおかさまのお部屋を。又、こちらとは、反対側に、第二主寝室がありますの。そちらにお父様方が」
「と、隣ですか!?」

想像もしていなかった場所が自分の部屋と聞き、ぎょっとする。

「先程の姫様の様子をご覧になられましたでしょう?諸岡さまがおられないと、姫様は泣かれますわ」
「そうだね、絶対に泣く。兄様は隣だよ。頑張ってね」
「均!?」
「それに、琉璃の勉強は自分がするって言ってたじゃない。頑張れ、兄様」

均の言葉に、自分がそういったことを思いだし、成長を見守ることを再び思い出したのだった。

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