満月の美しい夜に…

ノベルバユーザー173744

テーマは日常ではなく妖精世界の住人の国です。

「まぁ!!素敵!!可愛いわ。琉璃は、どんな色でも可愛いけれど、このオフホワイトの幾重にも重ねたふわふわのワンピースは特によく似合うわ」

 瑠璃の声に、えへへっと照れる。
 兄によって揃えてもらった洋服はお古でも、色褪せてもいない、琉璃のためだけに作られたドレスである。

 昔、養護施設にいた頃は、綻びた部分を繕い、何度も着ていた。
 それなのに……ここでは違う。
 モデル……という、ものは解らないが、琉璃が選んだり、家族が作ってくれたドレスがずらっと並んでいる。
 憧れていた、レースのドレスも、リボンも、全て琉璃のものだと言う。
 琉璃にとって昔から可愛いものは夢でしかなく…その夢を叶えてくれた父や兄、亮が大好きである。

「あにょね?琉璃、妖精しゃんになるの!!」
「そうなの?だからそんなにふわふわ可愛いドレスなのね」
「うん!!皆に魔法をかけてあげるの!!良いことがありますようにって!!」

 おもちゃのステッキを持って、クルクルっと回して、

「おばちゃまが笑ってくれますように……!!クルルリーン♪」

 と、呪文を唱える。

 琉璃は、施設育ちのため、ぬいぐるみの光華しかいない。
 その為、承彦は元直たちに説教されつつおもちゃやぬいぐるみを集め回った。

 その中で、数個のぬいぐるみと、ステッキ以外は、

「あにょね?おとうしゃま。琉璃がいたお家はね?おもちゃなかったの。皆にないの。だからね?琉璃、この子達を向こうのお家にあげてほしいの」
「琉璃……?」

 承彦は、問いかける。

「どうして……そんなに気にかけるのかな?向こうの人たちに……」
「あの前までは、みんな優しかったの!!琉璃、大好きなの!!だから……おとうしゃま……皆におもちゃ……あげてくだしゃい」

 承彦は、しばし躊躇い……最後には、

「解った。お父様がちゃんと、向こうのお友だちに届くように、手配をしておこう。琉璃……お父様はこんなにも琉璃を娘として誇りに思ったことはないよ」
「ありがとう!!おとうしゃま!!だいしゅき!!」

 なんだかんだ言いながら、承彦は親バカである。

「あぁ、瑠璃さん!!これはどうでしょう?」

 月英が持ち出してきたのは、純白のドレス。

「ウェディングドレスではないの?」
「いいえ、琉璃のドレスと大まかな作りはそっくりなんです。でも、琉璃は広がったふわふわのスカート、これは、マーメイドドレスです。瑠璃さんのスタイルのよさをもっとも際立たせ、それでいて、繊細さと高貴さと、愛情に溢れたまさに『女神ディーヴァ』にふさわしいかと」
「まぁ……お世辞を言うなんて」
「お世辞じゃありませんよ。着てみていただけますか?」

 月英の言葉に、微笑んだ瑠璃は、奥に入っていくとしばらくして戻ってくる。

「……メイクと髪の違和感があるのよ……」

 瑠璃の呟きに、

「大丈夫です!!専属のメイクアップアーティストいますから」

 示されたのは均。

「はい!!是非やらせてください!!」
「髪の方は私も手伝います。ご安心を」
「お二人とも、アーティストだから安心だわ……あら?琉璃は?」

 ドレスを着てきゃっきゃと動き回っていた琉璃がいない。

「あぁ、琉璃は、はしゃぎ疲れて寝てますよ……ほら」

 月英は示す。
 ベランダで、琉璃を抱いてあやしているのか、亮が立っている。

「亮さんは、とてもいいお父さんになれそうね」

 微笑むと、月英は、

「でも、亮は厄介ですよ?完璧主義者ですし、人嫌いだし……明日も本当は出席拒否だったんです。でも、琉璃がおねだりしたでしょう?そのお陰で出席することになったので、良かったですよ。それでなくても、亮はまた海外を飛び回ってますからね」
「そう言えば、亮さんって、あの諸岡もろおか家の……」
「天才児です。まぁ……努力家でもありますが。何でもそつなくこなすので、周囲から浮いてますね」

 月英は、首をすくめる。

「何かしていないときがすまないようです。なので、今のように琉璃を抱き上げて空を見てるなんて、見れるとは思わなかったです」
「そうなの?」
「えぇ。……サイズはピッタリだ。良かった……それに、マネキンじゃわからなかったけれど、そのドレスのスッキリとした聖なる雰囲気と、母性溢れるナチュラルメイク……さすがは瑠璃さん!!あ、『貂蝉』さま……の方が良いですか?」

 瑠璃は微笑み、首を振る。

「私は、瑠璃として母親として出ていきたいわ。明日が楽しみね!!私も、こんなにワクワクするようなお話はじめてよ!!嬉しいわ」
「本当ですか!!でも、親子で、出ていくと、私が浮く……んですよね……」
「あら、そんなことはないわ。それに、私は貴方のように、優しくて頼りになる息子が欲しかったもの。ウフフ……一日だけとはいえ、こんなに素敵な息子がいるなんて…幸せだわ!!」

 瑠璃は、微笑む。

「じゃぁ……息子……と呼ぶのも変ね?月英さんと呼んで良いかしら?くんでも良いけれど、月英さんは、昔女の子モデルだったのでしょう?確か、月花つきはなだったわよね?」
「……あぁぁ……知ってらっしゃったんですね。過去の汚点と言うか、恥ずかしい。当時の私は、高慢でわがままで……」
「あら、そんなことはないわよ?あなたのこと、有名だったわ。人生の汚点どころか、周囲の何もわからずにやって来ました!!なので、多少の失敗許してね?子供だもの!!って言う子達の中で、一人、強い意思をもって、舞台に出ていこうとする姿……感心したわ!!」

 微笑む。

「まだ初歩を踏み出してさほど時も経たないのに、その強さ!!羨ましいわ」
「あ、ありがとうございます!!嬉しくて……照れ臭いですね」

 苦笑する月英に、瑠璃は嬉しそうに……、

「琉璃が……とても心配だったの……。あの子をどうしても連れ出したいと願っても、ダメで……しかも、あの事……合わせる顔がないと思った。会長や、月英さんのお陰だわ!!」
「私じゃなく、亮が連れてきたんですよ。雨の中、あのぬいぐるみを抱いて泣くのを堪えていたそうです。で、話しかけると、泣きじゃくって……おばちゃまに会いたい、会いたいよ……って」
「……っ!」

 瞳が潤み瑠璃は涙を拭おうとすると、月英が、ハンカチを差し出す。

「あ、ありがとう。私の……事を」
「えぇ。とても……」

 月英は、微笑む。
  
「だから……お願いします。一日だけでも……良いので、琉璃のお母さんになってあげてください。琉璃は、言葉は舌ったらずですが、賢く、とても周囲に敏感な子です。とても…可愛い妹なんです。なので……お願いします」
「えぇ、私にとっても……琉璃は私の大事な娘。絶対に誰にも奪わせたりしないわ!!もう二度と……悲しい目に遇わせたりしない!!」

 瑠璃の声は静かに広がっていった。



 翌日、姿を見せた7人は、特に月英と琉璃、瑠璃は揃って妖精の衣装である。

「おーい、月英兄さん……それはそれでイタイんだけど……」

 均の声に、

「仕方ないだろ!!私だって恥ずかしいんだ!!」

 月英は、男装ではなくドレス姿である。

「仕方なくだ!!気にするな!!」
「にーしゃま綺麗なの~!!しゅごーい!!琉璃ももっと綺麗になゆ!!」

 感心する琉璃に、怒ることも出来ず、苦笑する。

「ありがとう。でも、琉璃の方がもっと素敵だよ?本当の妖精さんだ」
「本当?琉璃、妖精しゃん!?わーい!!」

 はしゃぐ琉璃に、

「皆準備はできたかな……?」

 顔を覗かせた承彦はほぉぉ……と感嘆のため息を漏らす。

「素晴らしい!!妖精界の女王と妖精たちがいるではないか!!こんなに素晴らしいものはそう見られない!!素晴らしい!!」

 素晴らしいを連呼するのは言葉をなくしているらしい。

「そんなことは……」

 頬を染める瑠璃に、手を差し出す。

「では、年寄りで申し訳ないが……女王陛下お手を……」
「ありがとうございます。妖精王陛下」

 承彦はクスッと笑う。

 承彦も白い衣装ではないが、所々3人と同じ生地を用いたベストやハンカチ、ネクタイピン等を上手く使っている。

「では……参ろうか」

 いささか勿体ぶって歩き出した。

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