満月の美しい夜に…

ノベルバユーザー173744

テーマパーク行きたいな~。

 琉璃りゅうりは、正式に光来こうらい家の娘となり、数日間はゆったりと過ごす筈だったが……。

「こら!!月英げつえい!!何をしておる!!」
「着せ替えですよ!!着せ替え!!ほら、いらっしゃい。お姉さんがしてあげるから」

 琉璃は半泣きになる。
 昨日まで解らなかったのだが、月英はデザイナーや、機械工学、そう言ったもの作りの天才で、琉璃の全身のサイズを見ただけで理解し、確認のためにとベタベタと触った。
 嫌いではないが、余り人に慣れていない琉璃には怖いのだ。

「月英兄さん!!やめてあげて。それ以上すると、琉璃が泣くし……」
りょうに殺されるぞ?」

 きん元直げんちょくの一言に、ピタッと動くのをやめる。

「……まだ死にたくないし、止める」
「何を止めるんです?」

 現れた亮に、てててっと駆け寄るとしがみつく。

「お、おにいしゃま、お帰りなしゃい!!」
「ただ今、琉璃」

 腰を屈め微笑むと、涙目の琉璃に気がつく。

「どうしたの?誰かに苛められた?」
「ううん……」

 本当のいじめを知っている琉璃は首を振る。

「じゃぁ……」
「月英兄さんが、服のサイズを図るってベタベタと触ってました!!」

 はーいと手を上げ、均は答え、元直も、

「もう少し、お嬢様に気を使えるようになってほしいものだ。兄なのだから……」

と、苦言を呈する。

「月英?」
「だってな!?琉璃は可愛いじゃないか!!しかも私の妹!!妹には可愛いドレスを着せたい!!全身コーデは、可愛い可憐なピンクのフリフリワンピース!!ヘッドドレス!!革靴に、腕を隠す長めのレースの手袋に、靴下は膝丈!!あぁ、何て似合うんだ!!本当は、黒か紺のワンピースでエプロンドレスで……メイドを……」
「月英?」

 亮の声に、

「す、すまん!!でも究極の夢なんだ!!」
「そんなアホな夢を琉璃に押し付けないように!!」
「いーだろー!!お前が兄貴じゃないんだ!!兄である俺が、遊んで何が悪い!!」

 自慢げに言い放った月英を元直が、ぱしんと頭を叩く。

「兄だからこそ、そういう妄想を妹に反映させるんじゃない!!」
「おい、元直。お前、私よりも年下なのに、年上の頭を殴るな!!」
「主の息子だろうが、年上だろうが、常識外の行動をする者をたしなめるのが仕事!!私は仕事に忠実!!」

 美声の持ち主の、発言に、その後ろで均は、

「とかいって、元直兄さんだって、さっき伯父さんに怒られてたでしょ?」
「うっ……」
「何をしたんです!?元直兄」
「いや、変なものは教えてない。お嬢様が、無造作に虫を掴みかけて……咄嗟に厳しく……」

 元直の声に、

「全く……お前たちは、困ったの……おいでおいで」

 承彦の呆れた口調に、月英は、

「父上こそ、琉璃りゅうりが可愛いからって、家の秘蔵のエメラルドやサファイア、ダイヤモンドで幾つも装飾を作るんだ!!とかいって、琉璃に『どれが良い?』って、ざらざらと石を広げてたじゃないか。元直が、ピンクサファイアで、無難に小さなピアスにプチネックレス、ブレスレットを選ばなかったら、ルビーにトパーズその他もろもろで、全身コーデしようとした癖に!!」
「いやぁ……可愛いから」

 真顔でのろける義父に、

「あにょ……おとうしゃま。琉璃は、きらきらより、おとうしゃまにもやったワンワンのぬいぐゆみでいいでしゅ……んと、んと……お洋服も一杯で、琉璃は着られなかったら……」
「良い良い。あれは、月英の会社のデザイナーたちの試作品……と言うよりも、琉璃のように可愛い娘が着るからこそ、デザイナーは、色々とデザインを考えていくようになる。琉璃は、月英の会社専属のモデルのようなものだよ。あれこれ楽しんでご覧。琉璃が選ぶものを皆は注目する。で、自分勝手に作ってきたデザイナーほど、自分のものが選ばれなかった理由を考えるようになる」

 琉璃は首をかしげる。

「んと…琉璃がえりゃぶお洋服で、琉璃は、可愛いお洋服がきやえて、お洋服を考えるおにいしゃんたちは、もっとがんばゆ…でしゅか?」
「そうそう。琉璃は賢いの。いった通りじゃ。そうすることで、お兄さんたちは今回のお洋服のどこがおかしいのか、琉璃に聞いてきただろう?」
「あい。あにょ、重いにょよりも、うごきやしゅいのがいいでしゅ」

 琉璃は自分を束縛する鎧のような服は嫌いらしく、月英は、必死で訴える妹のつたない説明を聞き取り、それを自分でデザインしたり、会社のデザイナーと作り手と共に相談しつつ幾つか作らせている。

 今日は、王道のセーラー服に、膝より少し下の7分丈のパンツルック。
 帽子も、靴も揃っていてマリンコーデである。

 昨日は、窮屈そうだったフリフリヒラヒラで、固い生地のもので、わがままなどは言うはずはないが、少々窮屈そうだったものよりも、シンプルさが余計に可愛らしい。

 少年風だが、所々リボンが付いていたり、胸元のフェイクのポケットの縁のロゴもいつの間にか『LIULI』と言うブランドロゴが付いている。
 可愛がるだけでなく、この可愛い娘を、モデルとしてニューブランドを展開させるらしい。

 まぁ、それが似合うほど、琉璃は美少女である。

 CMなどよりも、色々な仕事関係のパーティに連れていったりする方がブランドの価値は上がる。
 まぁまだ、琉璃は家に慣れていないし、じっくり勉強もあるが、息抜きとして、テーマパーク等につれていき、貸し切りにして思いっきり遊ばせてやりたい…これが本心である。

 と、そういえば…と振り返ると、

「あ、そうじゃ!!琉璃?明日、ある遊園地を借りきって、亮の兄弟たちや、親族、そして家の会社の社員の家族とで、パーティを開くつもりでの?ジェットコースターとか、観覧車に、メリーゴーラウンドや、沢山の遊具で遊んだり、お菓子を食べたりしようと思っておるのだが……どうかの?」
「遊園地!!」

 琉璃は目を輝かせる。
 施設で育ったため、時々出掛けても遊具のある緑地公園が、精一杯で、テレビで見ていた施設は、夢だった。

「そこは、家が株をほとんど所有しているのでな?明日のは前から決まっていた上に、パーティ形式となっているので、少しは窮屈かもしれないが、亮と均がおるから……どうかの?」
「えっと……い、行きたいでしゅ!!んっと、お人形…いましゅか?」
「お人形……あぁ、テーマパークのキャラクターかの?おるぞ?」

 着ぐるみらしい。

 すると父親に抱きつき、

「おとうしゃま!!ありがとうでしゅ!!琉璃は、すごく、しゅごーく嬉しいでしゅ!!」
「私も、大好きだよ。じゃぁ、琉璃?少し遊んでおいで」
「あい!!いってきましゅ!!」

 ちゃんと頭を下げると、守役になった均が、

「待って。お兄ちゃんと行こう。庭に、ブランコがある。遊ぼうよ!!」
「あ、あい」
「あ、でも、しんどくなったら止めるんだよ?いい?」

 二人は手を繋ぎ歩き去っていった。



 音もしなくなったのを確認すると、亮が口を開く。

「調べてきました。琉璃は黒河備くろかわそなえの前妻の生んだ娘で、黒河が、仕事関係のことで借金をするとき、借りたかん株式会社が、娘を嫁にするならと言われ、身ごもっていた奥方を追い出したようで……で、生まれたあと、母親は事故死……。不審死ですが、裏で手を回し揉み消したとか……」
「むぅ……」

 声は平坦だが、かなりこれは怒っている。

「で、琉璃が瑠璃るりおばさんと呼んでいる方は、備産業の副社長である関雲長かんうんちょうの妻で、瑠璃殿。琉璃の母親の親友だそうです」
「瑠璃……って、どこかで聞いたことがある……」

 呟いた月英に、元直が、

「モデルの貂蝉ちょうせんどのですね。年齢を越えた美貌の主……ミスユニバースに優勝したり、家庭のこともおろそかにせず、私生活は極秘……と言うか、ご本人は公表しても良いと思っているらしいですが……夫の浮気問題や、娘の教育問題で夫との仲は険悪なようですよ」
「よく調べられたな、お前……。そこまで……」
「人脈がありますし」

 元直が澄ましがおになる。

「そうか……瑠璃どのにも、来てもらおう!!」

 そそくさと携帯電話を操作し、電話を掛ける。
 するとさほど時間もなく、

『はい。瑠璃ですが……?お久しぶりですわ。光来会長』

「あぁ、久しぶりだ。今は時間はあるかの?」

『はい。大丈夫ですわ』

 落ち着いた風を装っているものの、声が震えている。

「……何かあったのか?瑠璃どの。心配事や相談があれば、聞くが?それとも、家の執事をそちらに送ろうか?」

『……お願いできますか……?』

 震える声に、尋常ではないと承彦は、

「元直、亮。これから住所を言う、そちらに向かって車を……」
「かしこまりました」
「いって参ります」

 二人は姿を消す。

「今、そちらに秘書と、諸岡亮もろおかりょうを送ったので、しばらく待ってほしい……大丈夫か?」

『ありがとうございます……大丈夫ですわ……』

 泣いているのか声も濡れてくる。

「大丈夫。待っておいてくれ」

 と告げると、

『はい。本当に……お電話……ありがとうございます……心が、折れそうで……でも、承彦さまの声で……ほっとしましたわ……』

「それは何より。ん?到着したようだの。一人は長身の亮。もう一人が、秘書の元直だ」

 騒々しい物音や、罵声が響いていたものの、やがて、

『失礼します。任務完了しました。瑠璃様をお連れいたします』

と言う声に、

「そうか。こちらで、手を回し、その屋敷にあるあらゆるもの、貴重品は全て差し押さえの連絡済みとお伝えして、こちらにお連れしなさい」

『かしこまりました。では……ありがとうございます。お貸しいただき感謝いたします。では、参りましょうか?』



 琉璃は大事なぬいぐるみの光華こうかを抱き、均と一緒にブランコで揺れていた。
 ベンチ風の揺ったりとしたブランコで……眠くなりうとうとし始めるのを、均は支えると微笑む。

「良かった。今日は探検と月英兄さんのおもちゃで疲れたでしょ。休めばいいよ」

すると、

 親馬鹿な承彦が、特別に業者に作らせた遊具がよく見える回廊を、兄が腕に女性を抱き上げ、元直の後ろをついて歩いている。

「兄さん?どうしたの?」
「お客様。調子を崩されているから……。均。琉璃も本調子じゃないから気を付けて……」
「はーい。もうすぐ寝ちゃうから、つれていくよ」

 均は、ウニウニぐずる少女を抱き上げ、琉璃の部屋に連れていったのだった。

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