-Tuning-希望の妖精物語
/15/調和・前編
6時間目が終わり、HRをすっぽかして俺とカムリルは多目的室に向かった。
というのも、彼女が事前チェックを行うからだという。
昼休みにできなかったのはお前のせいだけどな。
「じゃあまず、“同調”するから手を貸して」
「あぁ……」
彼女が手を出し、その上に手のひらをからねる。
カムリルは小さく“同調”と呟き、この前みたいに暖かさが体に染み渡る。
が、前回みたく泣くほどの暖かさではない。
カムリルが調節を施しているのだろう。
「……真和」
「ん?」
「随分あったかくなったね……」
こいつの感情が伝わるように、俺の感情も伝わっている。
前回よりも暖かいらしいが、本人の俺にはさっぱりだ。
「こんなことを確かめたかったのか?」
「んーんっ。本番はこれからね」
「……はやくしねぇとHR終わっちまうだろ。なんかするならーー〔俺はカムリルが好きだぁぁあああ!!!〕……あ?」
なんか変な言葉が聞こえた。
喋ったのは俺だろうか?
いやいや、そんなはずがない。
〔カムリル好きっ!超好き!っておい!!」
「うはははっ、ごめんごめん」
思わず手を離す。
根も葉もない寝言のようなことを喋っていたのは俺の口だった。
カムリルが同じように口を開くたびに俺の口が不意に動いてしまう。
……なんてふざけたことを言わせやがる。
「という感じで、口だけ“同調”すると私の発声は全て真和の発声に変換されるの。心は2つだけど、口は1つに絞られるのね」
「この世の終わりみたいな能力だな」
「失礼なっ!?この力のおかげで救われた人がうん千人いるというのに……」
「知らんがな」
それは使い道次第だろう。
使い道を誤ったら、もしくは悪い用途で使えば大惨事だ。
「確認はこれだけか?」
「うん。口ができるなら身振り手振りともにできるから、これだけわかれば十分かな。後は確認だけど、真和が発言辛いと判断したら私が喋るからね?」
「その発言辛いと感じる理由はなんだよ……」
「え?感情も“同調”しとくんだけど……」
「ああ、そうか」
どのタイミングで口を挟んでくるのかと思ったらそういうことか。
俺に合わせてくれるんならそれが一番いいな。
「……もうそろそろくる、かな?」
「だろうな。HRは終わっただろ」
時刻は15:30。
授業の終了は15:20だったから、いつ来てもおかしくはない。
「…………」
「なんだよ?不安か?」
「それは私のセリフっ。真和、覚悟はいい?」
覚悟とは今更なことを訊いてくる。
腹なんてとっくに括っているわ。
「“同調”すれば俺の覚悟もわかるだろ。勝手に見ろ」
「ふふっ、だねっ……来た……」
「ん……」
廊下の外から2つの人影が見えた。
俺たちにもう喋る猶予はない。
でもただ1つだけ、やる気を出すためにこう言った。
「頼りにしてるぜ、妖精」
「任せときなさいっ!」
はにかんで返事を返すカムリルは、俺の手を強く握りしめた。
同時に多目的室の扉が開くーー。
「……よう。元気か2人とも?」
「……真和」
俺の言葉に、ショートヘアの少女が反応した。
声は重く、顔色も少し悪かった。
昨日の今日だ、それも当然だろう。
「お前とは久し振りだな、明葉」
「……そう、だね。久し振りだ……」
久しぶりに見た明葉は相変わらずの様子だった。
髪も長いし表情も暗い。
表情については、俺のせいだろう。
俺に会いたくないはずなんだから。
「……今日は、何の用で呼んだの?」
「あぁ、それはな……」
早速行き詰まった。
仲直り?
それはそうなんだが、物凄く言い出しにくいぞこれ。
〔お前らと話がしたかったんだよ〕
と、困っている間に俺の口が勝手に動く。
口調も俺らしいもので、この場に違和感を与えなかった。
不思議な感覚だ。
でも俺の心は恐ろしく静かで、緊張の1つもしなかった。
(はい交代)
頭の中でカムリルの声が響く。
交代するタイミングはここか。
事前に教えてくれ。
「……話?」
「なんの?」
「おいおい。俺がお前らを呼び出すっつたら、話すことは1つしかないと思わねぇか?」
『…………』
2人揃って口を噤んだ。
きっと、ライムのことを思い出したんだろう。
呼び出す理由はそれしかないのだから。
「……ライムを殺した真和が、僕たちに何を話そうっていうの?」
敵意を持った瞳で、明葉が俺を睨む。
明葉からすれば今更持ち出されたくない話だ。
現状に満足しているのだから、余計な口出しをされたくないのだろう。
〔冗談が上手いな、明葉は〕
「……なに?」
喋ったのは、俺ではなかった。
俺の口を扱うカムリルがでしゃばった。
〔ライムを殺したのはお前だろ?知らないとでも思ってんのかよ〕
「えっ!?」
「……何を言っている」
驚きを露わにする和子。
明葉はわけのわからない、といったフリをするが、彼の頬には汗が伝っていた。
カムリルの猛攻は続く。
〔当事者の俺からすれば、おかしな話なんだよ。偶然ライムの毛を切りに行った日に偶然ライムが殺されてしかも凶器がハサミだ。はっきり言ってバレバレだよ。お前意外に、ライムの毛を切るなんて言ってねぇんだから〕
「そんなデタラメを並べ立てないでよ。僕はライムと1番付き合いが長いんだ。殺すなんて、そんな……」
「よくもまぁそこまでシラを切れるよな」
カムリルが交代を言い渡す前に、俺自身が話した。
少しばかり怒気を含んだ声が教室を木霊する。
「明葉、お前の気持ちはわかる。他に方法が浮かばなかったのかもしれない。けどな、もうこの嘘は不要じゃないのか?まだいるのか?別に、バレたって大丈夫だろう。それなのに自分が可愛くて、いつまでも隠すのかよ」
「真和、真和、何を言ってるの!?明葉に罪をなすりつけるの!?」
「違う。元々事の発端はこいつだ。そしてーー」
真っ直ぐな視線で2人を見やり、今日の要件を公表した。
「俺はあえて明葉を許す。そして、2人と仲直りがしたい」
「……仲直、り?」
「そうだ」
聞き返す和子に再度頷く。
俺は真面目だというのに、2人はキョトンとしていた。
「……真和、今になってどうして……」
「ただ単に、仲直りがしたいと思ったんだ。俺がこう思えたのは、“友達”のおかげだけどな」
「…………!」
手を握る力が、急に強くなった。
何かと思って横を見ると、カムリルが号泣していた。
空いた手の袖で必死に顔を拭っている。
この場でお前が泣いててどーする……。
「……仲直りなんて、ふざけるなよ」
一方、明葉の気持ちは冷たいようだった。
凍てつく視線で俺を睨み、歯を強く噛んでいるのがわかる。
「そんなに俺に和子が取られるのが怖いのか?」
「!?」
「俺にそんな気はないのに、なんでお前は勝手にそんなことを思ってるんだ?」
「……な、何を言って……」
登ったであろう血は下ったのか、明葉の顔色は悪くなった。
今の俺の言葉は、核心を突いたといっても過言じゃない。
怒りすら覚めたか。
その怒りも、俺は受ける気はないんだけど。
「あのな、明葉。お前が和子を好きなのは冬から知ってたんだよ」
「なっ!?」
「お前、あれで隠せてたと思うのか?ピンク色のオーラ纏ってたんだよっ」
「い、いや違う、いや、合ってるけど!それは……」
「あ、明葉……」
「…………」
ムードが完全におかしい。
顔を赤らませる2人はお互いの顔が見れずにそっぽを向いていた。
なるほどね、仲良くなったもんだ。
俺を礎にして臆面もなくラブラブするとは。
〔話を続けるぞ。聞け〕
「え、あ、うん……」
「は、はい!」
カムリルがピンク色の空気を薙ぎ払う。
怒りに触れたのか、俺の声音は自分でも聞いたことのない低いものだった。
(交代)
「……明葉が和子を好きなら、付き合ってくれればいいと思ってた。けどな、俺は和子が俺をどう思ってるのか、バレンタインの日に漸く気付いたんだよ」
「…………」
2人の顔が引き締まった。
これももう周知の事実だろう。
「明葉は、この事をもっと前から知ってたんだろうな。そうだろ?」
「……それは……うん……」
「だから、どうしても俺を和子から引き剥がさなきゃいけなかった。そうだろ?じゃなきゃ今の状況は嘘になるからな」
「いや、待ってくれ」
ここで明葉が身を乗り出す。
随分と能動的だ。
そんなに自分に都合の悪い事を言われたくないのか。
「引き剥がしたかったのはそうかもしれない。けど、それでライムを殺したのが僕だって言いたいのっ?」
「そうだが?」
すっぱり言い切ると、明葉は歯噛みをした。
相変わらず、隠せてないな。
「――ッツ。真和、それはいくらなんでも、あり得ない――」
「あり得ない?そう言い切れる理由はないだろ。そういえば、俺はお前があの日の午前になにやってたか知らないんだ。教えてくれよ」
「ご、午前は家で勉強してて……」
「へぇ?さして重大でもないことなのに、よく3ヶ月も覚えてられたな。今考えたんじゃないか?」
「…………」
相次ぐ嘘は次々と暴いて行く。
その度に明葉の顔は歪んだ。
俺でなくとも、もうこの場で明葉を信用している者はいなかった。
和子でさえ、疑いの目を向けている。
「勘違いして欲しくないが、俺はお前を追い詰めたいわけじゃない。全部を解決、清算させて仲直りがしたいんだ」
「……君の言うデタラメを、認めろって言うのか?」
「なら、お前とは永遠に仲直りできないんじゃないか?ライムを殺した俺とは仲良くしないんだろ?だから今まで声もかけてくれなかった」
「…………」
事実を並べたてて黙殺する。
反論もない様子からして、これ以上嘘は吐けないみたいだ。
「……認めろよ。お前に自分が悪いことをした、と思える人間だったらな」
「……違う……僕は……」
「…………」
俺はため息を吐きたかった。
ここまで強情を張るとは思わなかったから。
そんなに自分が悪者になりたくないのだろうか。
許す前提で話をしているのに……。
(真和、このままじゃ五十歩百歩だよ)
(……そんなことわかってんだよ。つーかお前が対処してくれ)
(わかった)
カムリルに交代を告げる。
するとすぐに俺の体を使い、両手を腰に当てた。
自分で無いものが体を動かすが、そこに違和感はなかった。
〔なにも、お前だけが悪いっつてんじゃない。俺たちは全員悪い点があった〕
「…………」
「……え?」
続く
というのも、彼女が事前チェックを行うからだという。
昼休みにできなかったのはお前のせいだけどな。
「じゃあまず、“同調”するから手を貸して」
「あぁ……」
彼女が手を出し、その上に手のひらをからねる。
カムリルは小さく“同調”と呟き、この前みたいに暖かさが体に染み渡る。
が、前回みたく泣くほどの暖かさではない。
カムリルが調節を施しているのだろう。
「……真和」
「ん?」
「随分あったかくなったね……」
こいつの感情が伝わるように、俺の感情も伝わっている。
前回よりも暖かいらしいが、本人の俺にはさっぱりだ。
「こんなことを確かめたかったのか?」
「んーんっ。本番はこれからね」
「……はやくしねぇとHR終わっちまうだろ。なんかするならーー〔俺はカムリルが好きだぁぁあああ!!!〕……あ?」
なんか変な言葉が聞こえた。
喋ったのは俺だろうか?
いやいや、そんなはずがない。
〔カムリル好きっ!超好き!っておい!!」
「うはははっ、ごめんごめん」
思わず手を離す。
根も葉もない寝言のようなことを喋っていたのは俺の口だった。
カムリルが同じように口を開くたびに俺の口が不意に動いてしまう。
……なんてふざけたことを言わせやがる。
「という感じで、口だけ“同調”すると私の発声は全て真和の発声に変換されるの。心は2つだけど、口は1つに絞られるのね」
「この世の終わりみたいな能力だな」
「失礼なっ!?この力のおかげで救われた人がうん千人いるというのに……」
「知らんがな」
それは使い道次第だろう。
使い道を誤ったら、もしくは悪い用途で使えば大惨事だ。
「確認はこれだけか?」
「うん。口ができるなら身振り手振りともにできるから、これだけわかれば十分かな。後は確認だけど、真和が発言辛いと判断したら私が喋るからね?」
「その発言辛いと感じる理由はなんだよ……」
「え?感情も“同調”しとくんだけど……」
「ああ、そうか」
どのタイミングで口を挟んでくるのかと思ったらそういうことか。
俺に合わせてくれるんならそれが一番いいな。
「……もうそろそろくる、かな?」
「だろうな。HRは終わっただろ」
時刻は15:30。
授業の終了は15:20だったから、いつ来てもおかしくはない。
「…………」
「なんだよ?不安か?」
「それは私のセリフっ。真和、覚悟はいい?」
覚悟とは今更なことを訊いてくる。
腹なんてとっくに括っているわ。
「“同調”すれば俺の覚悟もわかるだろ。勝手に見ろ」
「ふふっ、だねっ……来た……」
「ん……」
廊下の外から2つの人影が見えた。
俺たちにもう喋る猶予はない。
でもただ1つだけ、やる気を出すためにこう言った。
「頼りにしてるぜ、妖精」
「任せときなさいっ!」
はにかんで返事を返すカムリルは、俺の手を強く握りしめた。
同時に多目的室の扉が開くーー。
「……よう。元気か2人とも?」
「……真和」
俺の言葉に、ショートヘアの少女が反応した。
声は重く、顔色も少し悪かった。
昨日の今日だ、それも当然だろう。
「お前とは久し振りだな、明葉」
「……そう、だね。久し振りだ……」
久しぶりに見た明葉は相変わらずの様子だった。
髪も長いし表情も暗い。
表情については、俺のせいだろう。
俺に会いたくないはずなんだから。
「……今日は、何の用で呼んだの?」
「あぁ、それはな……」
早速行き詰まった。
仲直り?
それはそうなんだが、物凄く言い出しにくいぞこれ。
〔お前らと話がしたかったんだよ〕
と、困っている間に俺の口が勝手に動く。
口調も俺らしいもので、この場に違和感を与えなかった。
不思議な感覚だ。
でも俺の心は恐ろしく静かで、緊張の1つもしなかった。
(はい交代)
頭の中でカムリルの声が響く。
交代するタイミングはここか。
事前に教えてくれ。
「……話?」
「なんの?」
「おいおい。俺がお前らを呼び出すっつたら、話すことは1つしかないと思わねぇか?」
『…………』
2人揃って口を噤んだ。
きっと、ライムのことを思い出したんだろう。
呼び出す理由はそれしかないのだから。
「……ライムを殺した真和が、僕たちに何を話そうっていうの?」
敵意を持った瞳で、明葉が俺を睨む。
明葉からすれば今更持ち出されたくない話だ。
現状に満足しているのだから、余計な口出しをされたくないのだろう。
〔冗談が上手いな、明葉は〕
「……なに?」
喋ったのは、俺ではなかった。
俺の口を扱うカムリルがでしゃばった。
〔ライムを殺したのはお前だろ?知らないとでも思ってんのかよ〕
「えっ!?」
「……何を言っている」
驚きを露わにする和子。
明葉はわけのわからない、といったフリをするが、彼の頬には汗が伝っていた。
カムリルの猛攻は続く。
〔当事者の俺からすれば、おかしな話なんだよ。偶然ライムの毛を切りに行った日に偶然ライムが殺されてしかも凶器がハサミだ。はっきり言ってバレバレだよ。お前意外に、ライムの毛を切るなんて言ってねぇんだから〕
「そんなデタラメを並べ立てないでよ。僕はライムと1番付き合いが長いんだ。殺すなんて、そんな……」
「よくもまぁそこまでシラを切れるよな」
カムリルが交代を言い渡す前に、俺自身が話した。
少しばかり怒気を含んだ声が教室を木霊する。
「明葉、お前の気持ちはわかる。他に方法が浮かばなかったのかもしれない。けどな、もうこの嘘は不要じゃないのか?まだいるのか?別に、バレたって大丈夫だろう。それなのに自分が可愛くて、いつまでも隠すのかよ」
「真和、真和、何を言ってるの!?明葉に罪をなすりつけるの!?」
「違う。元々事の発端はこいつだ。そしてーー」
真っ直ぐな視線で2人を見やり、今日の要件を公表した。
「俺はあえて明葉を許す。そして、2人と仲直りがしたい」
「……仲直、り?」
「そうだ」
聞き返す和子に再度頷く。
俺は真面目だというのに、2人はキョトンとしていた。
「……真和、今になってどうして……」
「ただ単に、仲直りがしたいと思ったんだ。俺がこう思えたのは、“友達”のおかげだけどな」
「…………!」
手を握る力が、急に強くなった。
何かと思って横を見ると、カムリルが号泣していた。
空いた手の袖で必死に顔を拭っている。
この場でお前が泣いててどーする……。
「……仲直りなんて、ふざけるなよ」
一方、明葉の気持ちは冷たいようだった。
凍てつく視線で俺を睨み、歯を強く噛んでいるのがわかる。
「そんなに俺に和子が取られるのが怖いのか?」
「!?」
「俺にそんな気はないのに、なんでお前は勝手にそんなことを思ってるんだ?」
「……な、何を言って……」
登ったであろう血は下ったのか、明葉の顔色は悪くなった。
今の俺の言葉は、核心を突いたといっても過言じゃない。
怒りすら覚めたか。
その怒りも、俺は受ける気はないんだけど。
「あのな、明葉。お前が和子を好きなのは冬から知ってたんだよ」
「なっ!?」
「お前、あれで隠せてたと思うのか?ピンク色のオーラ纏ってたんだよっ」
「い、いや違う、いや、合ってるけど!それは……」
「あ、明葉……」
「…………」
ムードが完全におかしい。
顔を赤らませる2人はお互いの顔が見れずにそっぽを向いていた。
なるほどね、仲良くなったもんだ。
俺を礎にして臆面もなくラブラブするとは。
〔話を続けるぞ。聞け〕
「え、あ、うん……」
「は、はい!」
カムリルがピンク色の空気を薙ぎ払う。
怒りに触れたのか、俺の声音は自分でも聞いたことのない低いものだった。
(交代)
「……明葉が和子を好きなら、付き合ってくれればいいと思ってた。けどな、俺は和子が俺をどう思ってるのか、バレンタインの日に漸く気付いたんだよ」
「…………」
2人の顔が引き締まった。
これももう周知の事実だろう。
「明葉は、この事をもっと前から知ってたんだろうな。そうだろ?」
「……それは……うん……」
「だから、どうしても俺を和子から引き剥がさなきゃいけなかった。そうだろ?じゃなきゃ今の状況は嘘になるからな」
「いや、待ってくれ」
ここで明葉が身を乗り出す。
随分と能動的だ。
そんなに自分に都合の悪い事を言われたくないのか。
「引き剥がしたかったのはそうかもしれない。けど、それでライムを殺したのが僕だって言いたいのっ?」
「そうだが?」
すっぱり言い切ると、明葉は歯噛みをした。
相変わらず、隠せてないな。
「――ッツ。真和、それはいくらなんでも、あり得ない――」
「あり得ない?そう言い切れる理由はないだろ。そういえば、俺はお前があの日の午前になにやってたか知らないんだ。教えてくれよ」
「ご、午前は家で勉強してて……」
「へぇ?さして重大でもないことなのに、よく3ヶ月も覚えてられたな。今考えたんじゃないか?」
「…………」
相次ぐ嘘は次々と暴いて行く。
その度に明葉の顔は歪んだ。
俺でなくとも、もうこの場で明葉を信用している者はいなかった。
和子でさえ、疑いの目を向けている。
「勘違いして欲しくないが、俺はお前を追い詰めたいわけじゃない。全部を解決、清算させて仲直りがしたいんだ」
「……君の言うデタラメを、認めろって言うのか?」
「なら、お前とは永遠に仲直りできないんじゃないか?ライムを殺した俺とは仲良くしないんだろ?だから今まで声もかけてくれなかった」
「…………」
事実を並べたてて黙殺する。
反論もない様子からして、これ以上嘘は吐けないみたいだ。
「……認めろよ。お前に自分が悪いことをした、と思える人間だったらな」
「……違う……僕は……」
「…………」
俺はため息を吐きたかった。
ここまで強情を張るとは思わなかったから。
そんなに自分が悪者になりたくないのだろうか。
許す前提で話をしているのに……。
(真和、このままじゃ五十歩百歩だよ)
(……そんなことわかってんだよ。つーかお前が対処してくれ)
(わかった)
カムリルに交代を告げる。
するとすぐに俺の体を使い、両手を腰に当てた。
自分で無いものが体を動かすが、そこに違和感はなかった。
〔なにも、お前だけが悪いっつてんじゃない。俺たちは全員悪い点があった〕
「…………」
「……え?」
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