異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
鉱脈調査始動
王都南門前。時刻にして朝五時。
薄暗い景色の中、騎士団員達が集まる目の前には赤い炎が音を立てて辺りを照らしている。
「ディーベス村までは街道を通るからそこまで危険じゃないと思うけど、一応気を引き締めておいてほしい」
バリクさんがお立ち台の上で注意を呼びかけている。
「というのも、三か月前の事件を引き起こした黒ローブの組織は未だに姿をくらましているからだ」
黒ローブの組織、ルーメリア学院を突如強襲した謎の集団。現時点で分かっていることは眼が光る特殊な魔術やら魔法を扱う事、そして数名の名前もしくは呼称。カイル、ヒスケ、テツ、ジュウゾウ、ヒカル……そういやなんというか日本っぽいのが多いんだよな。カイルはそこまでだけど他の奴らとか時代劇に出てきそうだ。
……弥国。
この世界の文字は基本、線文字のような文字が使われているが、弥国に関しては何故かほとんど俺の知る漢字と同じ文字が使われていた。いつぞやに読もうとして結局少ししか読めてない弥国伝という本は、本文こそ翻訳されていたようだが、載っていた資料には漢字が使われていたし、その表紙には確かに「弥国伝」と漢字で記されてあった。初めてこの本を手に取った時は何も思わなかったのは自分自身日本育ちだからだろう。
少し読んだ中の内容によれば、弥国には瓦張りの家、巨大な天守を持つ城があると描写されており、主人公は刀を扱っていた。もしも、この世界の弥国が俺の良く知る昔の日本のような場所なら……。
そんな事はどうでもいいか。奴らの出自を特定したところでどうとなるわけでもない。もしそれが事実だと確信したところでどうする事もできないだろう。少なくとも俺一人で片付くような問題じゃないと思う。
……いやでもあの眼が光って発動する謎の魔術だか魔法の事くらいなら分かるんじゃないのか? もしかしたら何かしら攻略法があるかもしれない。
まぁなんにせよ、あいつらは絶対に許されないことをした、今はただそれだけだな。
次にでくわした時はこの手で……いや馬鹿なことを考えるのはよそう。騎士団の方で捕まえてしかるべき処置をしてもらうまでだ。
「あいつらほんと、次会ったら灰にしてやるんだから……」
束の間の思考を遮るご機嫌斜めの声。
はぁ、このお嬢様はまた物騒な事言うな……。学院を出ても相変わらず血気盛んのようだ。まぁ実際血の気が多いかどうかは知らないが、俺が同じ炎属性で紺色だからって抹消しにいこうとするくらいだからそうなんだろう。少なくとも俺はそう認識している。
「何よアキ」
「いやなんでも……」
向けられるきつい眼光に少し身がすくむ。
このお嬢様――ミアは今回監視役としてこの三番隊の遠征に同行する事になった。
ただ毎度思うけど監視役って何してるんだろうな、正直あまり必要を感じない……。他の隊にも果たしているのか、それともこの隊には訳有りの人ばかり集まってるからなのか。でも確かバリクさん、他の人もいるような口ぶりでミアの事を紹介してたような。
……まぁいいか。別に友達は多いにこしたことはないから俺としては一向にかまわないし。
「でも僕らも何もしてこなかったわけじゃない。日頃の鍛錬に加えて新たに開発した騎士魔法もある。だから、自信を持って行こう!」
「「イエス!」」
気付けばどうやら締めまで来ていたらしい。バリクさんの檄に対し周りの団員が肯定の意を表す。
とりあえず今からは鉱脈調査だ。
蹄と金属の擦れる音が小気味良いリズムを刻むのを聞きながら、街路沿いをひたすら馬を歩かせる。騎士団は基本馬で移動する。ちなみに馬術は学院で叩き込んでいるので問題ない。
気付けば左右には深そうな林が広がっており、動物やら魔物やらの鳴き声がたまにこだましている。
「でも大丈夫なのかな、この装備」
「まぁ生地には魔力が込められてるらしいから、それなりに守ってくれるらしいぞ。少なくとも鉱脈調査で遭遇し得る魔物はけっこういけるって」
ティミーが不安そうに自分の布装備をいじるので、少しでも安心してもらうため、出発の朝にこの布装備を装着する時説明された事を言い聞かせておいてやる。
俺達新入団員やハイリは布装備でプレート装備では無い。子供や女性には重すぎるからだ。
対して、先輩方は全員プレートの方で、それを涼しい顔を装備しているのは本当に感服する。
しかしティミーの言う通り、この布装備が本当に身体を守ってくれるのか甚だ疑問符だな。まぁでも、元ゲーマーとして”敵の攻撃など当たらなければただのエフェクト”をモットーとする俺にはあまり大きな不安要素では無いけどな!
……現実世界で何言っちゃってんのキモイとか言われたら返す言葉が無い。
「だったらいいけど……」
それでもなお不安そうにするティミーに、前方からスピードを緩めてこちらにハイリが並んでくると、ティミーの背中をポンポン叩く。
「一応ちゃんと守ってくれるようにはなってるぜ。でもたとえ防具として機能しなかったとしても、敵の攻撃なんて当たらなきゃただの茶番劇の鑑賞だからな? そんな気にすんなって!」
いた! いたよここにもそういう考えの人が! リアルでそういう事言っちゃうとかもうこの子末期だよ! とは言ってもハイリなら、言った通りどんな攻撃でも本当に避けれそうであながち馬鹿にはできないんだよな……。
「もうすぐ関所だから、先に行って僕が……」
「はいはーい俺行くー!」
先導するバリクさんがこちらに向かって言おうとすると、ハイリは最後まで聞かずに口をはさんだ。
「いやハイリ、僕が行くつもりだったから残っといていいよ」
「いいじゃねぇか! やらせろよー」
「他の人ならともかくハイリだとすごい不安なんだよ……」
あー、それ分かるよバリクさん。大いに同意。
「あ、今馬鹿にしたな!? 言っとくけどな、俺は朝はもうこれ以上も無いくらいゆとりを持ってるし、仕事だってちょっとやればすぐに切り替えられる人間だ。それを隊長、お前という奴は……」
「朝は悪びれも無く遅刻、仕事はすぐに飽きて放り出すって事だろ?」
「なんで分かった!?」
いや分かるだろうよ……。
何故かとても驚いた様子を見せたハイリに、バリクさんは深いため息をつく。バリクさんも大変だなあんな部下を持って。さぞかし苦労をなさってることだろう。
「やれやれ、この通行書を持って行ってこい。ちゃんと開けてもらうんだぞ」
「え、いっていいの?」
予想外の答えだったのか、ハイリはどことなくきょとんした表情になる。
「まぁハイリから仕事をしたいって言うなんて無かったからな」
その言葉にハイリは「よっしゃ」と無邪気な笑みを一瞬見せると、勇ましい表情で一歩先へと馬を躍らせ、ツーサイドを細いリボンで結んだ、黒く、艶やかな髪もまた躍る。
「よーっし大船に乗ったつもりで待ってろ! この俺が関所をこじ開けてきてやる!」
「おい待て、今なんて言った!?」
「まかせとけって!」
颯爽と馬を走らせ先にあるであろう関所に向かうハイリ。
でもそうだよな、確かにハイリって自分から仕事に行くなんてあり得なかったよな。最後辺りで吐いたこじ開けるだどうだとかいう言葉は置いとくとして、やっぱり人は前進するらしい。
いやまぁもっとも、これが前進した結果なのかどうかは分からない。もしかしたらそれはもっと別の何か、だったりするのかもしれないな。
だがハイリの言動以上に驚かされたのは少しだけ見えたバリクさんの横顔。その表情を俺は見た事が無い。確かに同じ微笑みには違いない、むしろ俺らに向ける微笑みよりも困ったような感じではあった。でもそれには一番存在すべきものが存在している気がするのだ。
「流石は騎士団でも随一の女性団員。隊長に信頼されているようだ……私も見習わねばな。まず朝はこれ以上も無いゆとりを……」
いやお前、ちょっと手本にする相手間違ってるぞ……。
後ろで呟くスーザンに思わず苦い笑みが零れそうになりながら、再度規則的に聞こえる蹄の音に耳を傾けた。
薄暗い景色の中、騎士団員達が集まる目の前には赤い炎が音を立てて辺りを照らしている。
「ディーベス村までは街道を通るからそこまで危険じゃないと思うけど、一応気を引き締めておいてほしい」
バリクさんがお立ち台の上で注意を呼びかけている。
「というのも、三か月前の事件を引き起こした黒ローブの組織は未だに姿をくらましているからだ」
黒ローブの組織、ルーメリア学院を突如強襲した謎の集団。現時点で分かっていることは眼が光る特殊な魔術やら魔法を扱う事、そして数名の名前もしくは呼称。カイル、ヒスケ、テツ、ジュウゾウ、ヒカル……そういやなんというか日本っぽいのが多いんだよな。カイルはそこまでだけど他の奴らとか時代劇に出てきそうだ。
……弥国。
この世界の文字は基本、線文字のような文字が使われているが、弥国に関しては何故かほとんど俺の知る漢字と同じ文字が使われていた。いつぞやに読もうとして結局少ししか読めてない弥国伝という本は、本文こそ翻訳されていたようだが、載っていた資料には漢字が使われていたし、その表紙には確かに「弥国伝」と漢字で記されてあった。初めてこの本を手に取った時は何も思わなかったのは自分自身日本育ちだからだろう。
少し読んだ中の内容によれば、弥国には瓦張りの家、巨大な天守を持つ城があると描写されており、主人公は刀を扱っていた。もしも、この世界の弥国が俺の良く知る昔の日本のような場所なら……。
そんな事はどうでもいいか。奴らの出自を特定したところでどうとなるわけでもない。もしそれが事実だと確信したところでどうする事もできないだろう。少なくとも俺一人で片付くような問題じゃないと思う。
……いやでもあの眼が光って発動する謎の魔術だか魔法の事くらいなら分かるんじゃないのか? もしかしたら何かしら攻略法があるかもしれない。
まぁなんにせよ、あいつらは絶対に許されないことをした、今はただそれだけだな。
次にでくわした時はこの手で……いや馬鹿なことを考えるのはよそう。騎士団の方で捕まえてしかるべき処置をしてもらうまでだ。
「あいつらほんと、次会ったら灰にしてやるんだから……」
束の間の思考を遮るご機嫌斜めの声。
はぁ、このお嬢様はまた物騒な事言うな……。学院を出ても相変わらず血気盛んのようだ。まぁ実際血の気が多いかどうかは知らないが、俺が同じ炎属性で紺色だからって抹消しにいこうとするくらいだからそうなんだろう。少なくとも俺はそう認識している。
「何よアキ」
「いやなんでも……」
向けられるきつい眼光に少し身がすくむ。
このお嬢様――ミアは今回監視役としてこの三番隊の遠征に同行する事になった。
ただ毎度思うけど監視役って何してるんだろうな、正直あまり必要を感じない……。他の隊にも果たしているのか、それともこの隊には訳有りの人ばかり集まってるからなのか。でも確かバリクさん、他の人もいるような口ぶりでミアの事を紹介してたような。
……まぁいいか。別に友達は多いにこしたことはないから俺としては一向にかまわないし。
「でも僕らも何もしてこなかったわけじゃない。日頃の鍛錬に加えて新たに開発した騎士魔法もある。だから、自信を持って行こう!」
「「イエス!」」
気付けばどうやら締めまで来ていたらしい。バリクさんの檄に対し周りの団員が肯定の意を表す。
とりあえず今からは鉱脈調査だ。
蹄と金属の擦れる音が小気味良いリズムを刻むのを聞きながら、街路沿いをひたすら馬を歩かせる。騎士団は基本馬で移動する。ちなみに馬術は学院で叩き込んでいるので問題ない。
気付けば左右には深そうな林が広がっており、動物やら魔物やらの鳴き声がたまにこだましている。
「でも大丈夫なのかな、この装備」
「まぁ生地には魔力が込められてるらしいから、それなりに守ってくれるらしいぞ。少なくとも鉱脈調査で遭遇し得る魔物はけっこういけるって」
ティミーが不安そうに自分の布装備をいじるので、少しでも安心してもらうため、出発の朝にこの布装備を装着する時説明された事を言い聞かせておいてやる。
俺達新入団員やハイリは布装備でプレート装備では無い。子供や女性には重すぎるからだ。
対して、先輩方は全員プレートの方で、それを涼しい顔を装備しているのは本当に感服する。
しかしティミーの言う通り、この布装備が本当に身体を守ってくれるのか甚だ疑問符だな。まぁでも、元ゲーマーとして”敵の攻撃など当たらなければただのエフェクト”をモットーとする俺にはあまり大きな不安要素では無いけどな!
……現実世界で何言っちゃってんのキモイとか言われたら返す言葉が無い。
「だったらいいけど……」
それでもなお不安そうにするティミーに、前方からスピードを緩めてこちらにハイリが並んでくると、ティミーの背中をポンポン叩く。
「一応ちゃんと守ってくれるようにはなってるぜ。でもたとえ防具として機能しなかったとしても、敵の攻撃なんて当たらなきゃただの茶番劇の鑑賞だからな? そんな気にすんなって!」
いた! いたよここにもそういう考えの人が! リアルでそういう事言っちゃうとかもうこの子末期だよ! とは言ってもハイリなら、言った通りどんな攻撃でも本当に避けれそうであながち馬鹿にはできないんだよな……。
「もうすぐ関所だから、先に行って僕が……」
「はいはーい俺行くー!」
先導するバリクさんがこちらに向かって言おうとすると、ハイリは最後まで聞かずに口をはさんだ。
「いやハイリ、僕が行くつもりだったから残っといていいよ」
「いいじゃねぇか! やらせろよー」
「他の人ならともかくハイリだとすごい不安なんだよ……」
あー、それ分かるよバリクさん。大いに同意。
「あ、今馬鹿にしたな!? 言っとくけどな、俺は朝はもうこれ以上も無いくらいゆとりを持ってるし、仕事だってちょっとやればすぐに切り替えられる人間だ。それを隊長、お前という奴は……」
「朝は悪びれも無く遅刻、仕事はすぐに飽きて放り出すって事だろ?」
「なんで分かった!?」
いや分かるだろうよ……。
何故かとても驚いた様子を見せたハイリに、バリクさんは深いため息をつく。バリクさんも大変だなあんな部下を持って。さぞかし苦労をなさってることだろう。
「やれやれ、この通行書を持って行ってこい。ちゃんと開けてもらうんだぞ」
「え、いっていいの?」
予想外の答えだったのか、ハイリはどことなくきょとんした表情になる。
「まぁハイリから仕事をしたいって言うなんて無かったからな」
その言葉にハイリは「よっしゃ」と無邪気な笑みを一瞬見せると、勇ましい表情で一歩先へと馬を躍らせ、ツーサイドを細いリボンで結んだ、黒く、艶やかな髪もまた躍る。
「よーっし大船に乗ったつもりで待ってろ! この俺が関所をこじ開けてきてやる!」
「おい待て、今なんて言った!?」
「まかせとけって!」
颯爽と馬を走らせ先にあるであろう関所に向かうハイリ。
でもそうだよな、確かにハイリって自分から仕事に行くなんてあり得なかったよな。最後辺りで吐いたこじ開けるだどうだとかいう言葉は置いとくとして、やっぱり人は前進するらしい。
いやまぁもっとも、これが前進した結果なのかどうかは分からない。もしかしたらそれはもっと別の何か、だったりするのかもしれないな。
だがハイリの言動以上に驚かされたのは少しだけ見えたバリクさんの横顔。その表情を俺は見た事が無い。確かに同じ微笑みには違いない、むしろ俺らに向ける微笑みよりも困ったような感じではあった。でもそれには一番存在すべきものが存在している気がするのだ。
「流石は騎士団でも随一の女性団員。隊長に信頼されているようだ……私も見習わねばな。まず朝はこれ以上も無いゆとりを……」
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