異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
濃霧
嘴中に再度ルフは火を灯す。
「クーゲル!」
再び放たれそうな火の玉を魔力弾を放ち阻止。
甲高い鳴き声、ルフの頭部付近には煙が立ち昇る。しかしこれで終わるほど甘くはないだろう。
「炎剣」
剣に紺色の焔をまとい、すぐさま間合いを詰め、細いルフの足元に水平斬り。
しかし想像以上に硬く、鈍い音を発して若干黒く焦がしただけで、大した傷を負わすことができない。
そこへ大きな風圧。見ると、ルフが翼をはためかし、俺との間合いを取るところだった。数個の火の玉が高速で放たれるのですかさず右方へ身体を回転。すぐさま身を起こす。
なんとか躱せたがまだ終わらなかった。勢いよく滑空するルフは、俺を突き殺さんと鋭利な嘴を向けて迫ってきていた。まずい。
「クーゲル!」
複数の魔力弾を放ち進撃をなんとか食い止める。
舞う煙は一瞬にして消え去ると疾風怒濤、凄まじい勢いでルフが飛翔。
天から降り注ぐ火弾の連打。全神経を足に集中させもつれないようにしながら、全力疾走でフィールドを駆け抜ける。迫りくる火の雨。咄嗟に振り返り、地面を蹴り上げ反撃を試みる。
「ケオ・テンペスタ!」
剣の切っ先から高速旋回する炎の細い円柱が、ルフに向かって唸り声を上げる。
ルフは軽い身のこなしで宙を側転。避けられたか、いや当たった。ケオ・テンペスタスのスピードには対処しきれなかったらしく翼に火柱が命中している。
炎が消えると、宙に一筋の白い直線を描きながらその巨体は墜落。一瞬体制を崩すルフだが、すぐに立て直し追撃の暇を与えてくれない。心臓を震わせる雄たけびと共に火の玉が連射される。
「だから効かないっての」
紺色の焔を纏う剣を一振り、二振り、押し寄せる赤い火の玉を両断。が、しかし。
玉を捌き終え、追撃を試みようとするが、あろうことかルフの突進する先はティミーだった。先ほどの火の玉は俺へのけん制。さっきの時点で狙いは俺ではなくティミーになっていたか! ルフという魔物は少しは頭が回るらしい。いや、むしろ敵を廃さんとするのみの本能的所業か。クソッ、俺が戦っている間ティミーにはあのオリジナル魔術で上にでも退避させておくべきだった!
「クーゲル! クーゲル!」
ルフを止めるため間合いを詰めつつ魔力弾を乱射するが、走りながらの上、ルフの突進の速さは凄まじく上手く命中させることができない。
俺は、時を早速ティミーを守れないのか――――
絶望に打ちひしがれそうになった刹那、青い空を背に人影。
軽い身のこなしでティミーの前に降り立つと、突進するルフに向けて槍を向ける。
「プレステール!」
その人影は凛と魔術を行使すると、切っ先から目に見えるほどの風を放出。
たまらずルフは足を止める。好機。
「フェルモストロヴィロス!」
魔力を集中させ渾身の一撃を放つ。ルフの足元からは激しく渦巻く紺色の竜巻が出現し、瞬く間にその巨体を覆い尽くした。中からは苦悶の金切り声が聞こえる。
恐らくこれで決めることが出来ただろうが、念には念をという事で足は止めない。
「ありがとう、スーザン」
そのままティミーの元へたどり着き、ルフの消滅を確認すると、先ほど風魔術を放った主に礼を言う。
「なに、騎士として当然のことをしたまでだ。まぁもっとも、まだ私は騎士ではないわけだが」
スーザンは自嘲気味な笑みを浮かべる。
「ほんとに助かった、ティミーも大丈夫だったか?」
「う、うん」
ティミーの顔を見るとその目は少し濡れていた。
……そうだよな。スーザンがいなかったら今頃ティミーはルフに……。ヘレナさんに守るとか言っておいてこのザマだ。自分はなんて貧弱で無力なんだろう。
「あれ……?」
体の内側に何かを感じる。名状しようも無い何か。心臓全体が濃い霧に覆われたような感じ、少なくとも好ましい感覚ではない。
もっと力があればルフなんか一掃できた。もう一歩考えが及んでいたらティミーを逃がすこともできた。
俺が、俺がもっとしっかりしていればティミーはこんな怖い思いをしないで済んだはずだ。……憎い、襲い掛かったルフも不甲斐ない自分もどうしようもなく憎い。
「クッ」
「ど、どうしたのアキ!?」
熱い、身体が。血液がすべて沸騰したのかと錯覚するほどだ。この感覚、あの時と似てる気がする。血が激しく循環したようなこの感じ……。
「あれは、なんだ?」
スーザンが恐怖の混じった声音で上のほうを見ているのでそこへ目を向けると、鳥の大群が空を覆い尽くしていた。
あれは……そうかルフハードか。ルフハードはルフに従える小型から中型の鳥型魔物群の事だ。ルフというのは定期的に住処を変え、自ら先んじてその場所を探すと言われている。これから自分の軍隊が住むところが安全かどうか確かめるためだ。その間、ルフハードは手前の安全な場所で待機するらしいが、今この場所に現れたのは主の悲鳴が聞こえたから駆け付けたというところだろう。
「プレス……」
「待て、俺が殺る!」
そのうちの一匹がこちらに突っ込んできたので、スーザンが魔術を放とうとするがそれを制すると、一太刀にそれを切り裂く。
「ケオ・テンペスタス!」
ルフハードにむけて旋回する炎を放出すると、谷を登った時に使った例の魔術で空へと飛翔する。直線に昇るだけなら足からの放出のみで十分だ。
「アキ!」
一匹たりとも残さない。ここで全員俺が消す!
ティミーが名を呼ぶのが聞こえたが気にしない、ルフハードを駆逐することを優先。天高く羽ばたく魔物の群れへと身を投じると、四方八方から様々な攻撃が飛んでくる。
一匹は俺に向けて嘴を光らせ、一匹は火の玉を放つ。
即座に片方の手から炎を放射。宙を回転し、いずれも躱すとそれら放った魔物どもをクーゲルの高速行使で消去。
なおも続く波状攻撃。斬っても燃やしてもまた一匹、また一匹と攻撃が仕掛けられる。時々攻撃がかすめる、しかしそれは些細な傷だ。致命傷には到底及ばない。
クーゲル、フェルドスフィア、フェルドディステーザ、果てにはフェルモストロヴィロス。持てる魔術を最大限行使し、魔物を一掃。それでもまだ敵はいる。
魔力には一応限度がある。今まで限界まで使う機会がなかったので知らなかったが、使いすぎるとかなり体力を浪費するようだ。だんだん息をするのも苦しくなってきた。だがそれでもやめることはできない。ここの魔物はすべて殺さないといけない。この手で殺す。
斬り殺せ。両サイドから突撃する魔物を体をよじらせ回転斬り。
焼き殺せ。剣水平に振り三日月形の炎の波動。飛んでくる複数の火の玉ごと魔物を燃やし尽くす。
「フェルドディステーザ!」
ラスト、炎の範囲魔術。ようやく周りに敵は見当たらなくなった。
足から噴き出す火の勢いを治め、ゆるりと降下すると、地面に剣をつき身体の支えとする。
周りにはおびただしい数の魔鉱石が不気味に輝いていた。
「クーゲル!」
再び放たれそうな火の玉を魔力弾を放ち阻止。
甲高い鳴き声、ルフの頭部付近には煙が立ち昇る。しかしこれで終わるほど甘くはないだろう。
「炎剣」
剣に紺色の焔をまとい、すぐさま間合いを詰め、細いルフの足元に水平斬り。
しかし想像以上に硬く、鈍い音を発して若干黒く焦がしただけで、大した傷を負わすことができない。
そこへ大きな風圧。見ると、ルフが翼をはためかし、俺との間合いを取るところだった。数個の火の玉が高速で放たれるのですかさず右方へ身体を回転。すぐさま身を起こす。
なんとか躱せたがまだ終わらなかった。勢いよく滑空するルフは、俺を突き殺さんと鋭利な嘴を向けて迫ってきていた。まずい。
「クーゲル!」
複数の魔力弾を放ち進撃をなんとか食い止める。
舞う煙は一瞬にして消え去ると疾風怒濤、凄まじい勢いでルフが飛翔。
天から降り注ぐ火弾の連打。全神経を足に集中させもつれないようにしながら、全力疾走でフィールドを駆け抜ける。迫りくる火の雨。咄嗟に振り返り、地面を蹴り上げ反撃を試みる。
「ケオ・テンペスタ!」
剣の切っ先から高速旋回する炎の細い円柱が、ルフに向かって唸り声を上げる。
ルフは軽い身のこなしで宙を側転。避けられたか、いや当たった。ケオ・テンペスタスのスピードには対処しきれなかったらしく翼に火柱が命中している。
炎が消えると、宙に一筋の白い直線を描きながらその巨体は墜落。一瞬体制を崩すルフだが、すぐに立て直し追撃の暇を与えてくれない。心臓を震わせる雄たけびと共に火の玉が連射される。
「だから効かないっての」
紺色の焔を纏う剣を一振り、二振り、押し寄せる赤い火の玉を両断。が、しかし。
玉を捌き終え、追撃を試みようとするが、あろうことかルフの突進する先はティミーだった。先ほどの火の玉は俺へのけん制。さっきの時点で狙いは俺ではなくティミーになっていたか! ルフという魔物は少しは頭が回るらしい。いや、むしろ敵を廃さんとするのみの本能的所業か。クソッ、俺が戦っている間ティミーにはあのオリジナル魔術で上にでも退避させておくべきだった!
「クーゲル! クーゲル!」
ルフを止めるため間合いを詰めつつ魔力弾を乱射するが、走りながらの上、ルフの突進の速さは凄まじく上手く命中させることができない。
俺は、時を早速ティミーを守れないのか――――
絶望に打ちひしがれそうになった刹那、青い空を背に人影。
軽い身のこなしでティミーの前に降り立つと、突進するルフに向けて槍を向ける。
「プレステール!」
その人影は凛と魔術を行使すると、切っ先から目に見えるほどの風を放出。
たまらずルフは足を止める。好機。
「フェルモストロヴィロス!」
魔力を集中させ渾身の一撃を放つ。ルフの足元からは激しく渦巻く紺色の竜巻が出現し、瞬く間にその巨体を覆い尽くした。中からは苦悶の金切り声が聞こえる。
恐らくこれで決めることが出来ただろうが、念には念をという事で足は止めない。
「ありがとう、スーザン」
そのままティミーの元へたどり着き、ルフの消滅を確認すると、先ほど風魔術を放った主に礼を言う。
「なに、騎士として当然のことをしたまでだ。まぁもっとも、まだ私は騎士ではないわけだが」
スーザンは自嘲気味な笑みを浮かべる。
「ほんとに助かった、ティミーも大丈夫だったか?」
「う、うん」
ティミーの顔を見るとその目は少し濡れていた。
……そうだよな。スーザンがいなかったら今頃ティミーはルフに……。ヘレナさんに守るとか言っておいてこのザマだ。自分はなんて貧弱で無力なんだろう。
「あれ……?」
体の内側に何かを感じる。名状しようも無い何か。心臓全体が濃い霧に覆われたような感じ、少なくとも好ましい感覚ではない。
もっと力があればルフなんか一掃できた。もう一歩考えが及んでいたらティミーを逃がすこともできた。
俺が、俺がもっとしっかりしていればティミーはこんな怖い思いをしないで済んだはずだ。……憎い、襲い掛かったルフも不甲斐ない自分もどうしようもなく憎い。
「クッ」
「ど、どうしたのアキ!?」
熱い、身体が。血液がすべて沸騰したのかと錯覚するほどだ。この感覚、あの時と似てる気がする。血が激しく循環したようなこの感じ……。
「あれは、なんだ?」
スーザンが恐怖の混じった声音で上のほうを見ているのでそこへ目を向けると、鳥の大群が空を覆い尽くしていた。
あれは……そうかルフハードか。ルフハードはルフに従える小型から中型の鳥型魔物群の事だ。ルフというのは定期的に住処を変え、自ら先んじてその場所を探すと言われている。これから自分の軍隊が住むところが安全かどうか確かめるためだ。その間、ルフハードは手前の安全な場所で待機するらしいが、今この場所に現れたのは主の悲鳴が聞こえたから駆け付けたというところだろう。
「プレス……」
「待て、俺が殺る!」
そのうちの一匹がこちらに突っ込んできたので、スーザンが魔術を放とうとするがそれを制すると、一太刀にそれを切り裂く。
「ケオ・テンペスタス!」
ルフハードにむけて旋回する炎を放出すると、谷を登った時に使った例の魔術で空へと飛翔する。直線に昇るだけなら足からの放出のみで十分だ。
「アキ!」
一匹たりとも残さない。ここで全員俺が消す!
ティミーが名を呼ぶのが聞こえたが気にしない、ルフハードを駆逐することを優先。天高く羽ばたく魔物の群れへと身を投じると、四方八方から様々な攻撃が飛んでくる。
一匹は俺に向けて嘴を光らせ、一匹は火の玉を放つ。
即座に片方の手から炎を放射。宙を回転し、いずれも躱すとそれら放った魔物どもをクーゲルの高速行使で消去。
なおも続く波状攻撃。斬っても燃やしてもまた一匹、また一匹と攻撃が仕掛けられる。時々攻撃がかすめる、しかしそれは些細な傷だ。致命傷には到底及ばない。
クーゲル、フェルドスフィア、フェルドディステーザ、果てにはフェルモストロヴィロス。持てる魔術を最大限行使し、魔物を一掃。それでもまだ敵はいる。
魔力には一応限度がある。今まで限界まで使う機会がなかったので知らなかったが、使いすぎるとかなり体力を浪費するようだ。だんだん息をするのも苦しくなってきた。だがそれでもやめることはできない。ここの魔物はすべて殺さないといけない。この手で殺す。
斬り殺せ。両サイドから突撃する魔物を体をよじらせ回転斬り。
焼き殺せ。剣水平に振り三日月形の炎の波動。飛んでくる複数の火の玉ごと魔物を燃やし尽くす。
「フェルドディステーザ!」
ラスト、炎の範囲魔術。ようやく周りに敵は見当たらなくなった。
足から噴き出す火の勢いを治め、ゆるりと降下すると、地面に剣をつき身体の支えとする。
周りにはおびただしい数の魔鉱石が不気味に輝いていた。
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