異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
明日へ
その後の事を話そう。
今回の事件で死亡者は数名、重軽傷者は五百名以上。幸いにしてカイルの方針のおかげか生徒側に死人は出ていない。しかし彼らにつけられた精神的外傷は計り知れないもので、事件について聞かれると誰もが戦慄して震えるという。まぁぬくぬく安全圏で育ってきたんだから無理も無い。
そしてその黒ローブの連中はS級犯罪組織認定という、最上位手配措置を受け、その話は国境を越えて各地に広まった。しかしなにぶん奴らはローブで身を隠していたので、具体的な手配書として発行されたのはカイル、ヒスケ、テツの三人だけだ。
ルーメリア学院だが、絶対安全だと思われていた学び舎なだけあり、大陸中に衝撃が走った。
内部にS級犯罪組織の一員を加えてしまい、それが起因して加護が破壊され、なおかつ生徒に多大なる肉体的、精神的苦痛を与えたことにより、校長、教頭共にその責任を問われ、もちろんの事、教育の現場に改めて立つことはもう無理だろう。教頭はともかく、校長は少し気の毒な気がする。
ちなみに王国側の問題も指摘されている。今回の事件の時、騎士団の大多数は鉱脈調査など、王都の外へと繰り出されていて留守隊はたったの一部隊。一部隊の数はせいぜい十数人程しかいないのでかなり厳しい状態だったはずだ。
ラストにキアラの事だが……それについては皆には話してある。俺らの話は除いてだ。
それを聞いて全員が驚愕していたが、一番驚くべきコリンだけは納得した様子を見せ、あっけらかんと笑って見せたのは何か思うことがあったのだろうか。
学院が無くなり、学ぶ場所がなくなった生徒たちは皆故郷に帰った。それは俺も同様だ。
結果として俺は卒業せずに済んだ、だが決してこんな形を望んだわけではない。そもそも学院が無くなってしまっては元も子もないというものだ。
今、ディーベス村でじれったいほどにゆっくりと流れる時間を過ごしている。あの日々を懐古しながら。
「ねぇアキ……」
「なに」
「ごめんなんでもない」
「そうか」
適当に返すと、そのままどこへ行くでもなく家の外へ繰り出す。
外に出ると、辺りは寒々しく雪で覆い尽くされており、その光景だけでも身震いするほどだ。王都で買った防寒着もあまり役立たない。
黙って歩いていると、おのずと学院の事を考えてしまう。
あの場所には楽しい日常で満たされていた。そして何よりもキアラ――あかりはこの場所には居ない。今思えばあいつの笑顔や一つ一つの挙動に幾度と無く心を洗われた。一緒に過ごすのがとても楽しかった。
でも、それは俺だけだったんだろう。ひょっとすると同じ気持ちなんじゃないかと考えたこともあった。でもたぶんそんなことは無い。あんな事をしといて、あんな事を言っておいてそれでも友達として接してくれたあいつには感謝すべきだ。
だからこそ会いたい。会ってちゃんと謝りたい。許してもらえるか云々は後だ、とにかく謝らない事には始まらない。
そうだよな、止めればよかったよな、止めて無理やりにでも謝るべきだったんだ。
完全に自覚した、あんな言葉をぶつけておいて、約束を破っておいて、それでも自分勝手に俺はまだあかりの事を思っている。時間が経てば忘れると昔思っていた。実際、心の表層では全部自分で捨てたんだと割り切って彼女への気持ちを忘れてはいたかもしれない。でも深層ではずっと忘れてはいなかった。今になって、いやあるいはもう少し前から、それはひょっこりと姿を現し、それと同時にどうしようもない罪悪感も同じく姿を現した。
なんて俺は勝手な人間なんだろう。傍若無人、厚顔無恥、なんとも醜い人間。
ふと目の前を見ると、いつの間にここまできたのか、目の前には良く知る滝があった。
ボーっと眺めていたところ、背後からけたたましい音が聞こえたので振り返ってみると、そこにはハイリの姿があった。どうやらまた例のごとく派手に飛んできたらしい。
「よっ、久しぶり!」
「ああ、久しぶり」
「なんだ? 元気がないぞ?」
「そうか?」
特に何を考えるでもなく返事していると、ハイリは申し訳なさそうに顔を伏せる
「その……学院の件、悪かったな。俺も急いんだんけど間に合わなくてよ……」
「……いや、ハイリが謝る事じゃない」
一瞬、ハイリがいてくれれば学院は救われてて、今頃寮の皆やあかりと笑っていられたかな、などと思ってしまったがすぐに思いなおす。
ハイリは何も悪くないし、騎士団だって悪くない。王国だってまさかあんな事が思うなんて考えもつかなかっただろう。
「そう言ってくれると助かる。そういえばティミーと一緒じゃないのか?」
ティミーか……そういえばあんまり最近ちゃんと話した気がしない。
「ああ、たぶん家」
「ふーん、珍しい事もあるもんだな」
確かに、言われてみればだいたいこの村では一緒に行動してたよな。まぁ同年代が二人しかいないわけだから自然とそうなるだけだろうけど。
「会いに行ってやれよハイリ、ティミーもお前が来たって知ったら喜ぶぞ。あとベルナルドさんも」
「まぁそうするか……。また後でな」
「おう」
ハイリは最後に俺の背中をポンと叩くと、危うく身体が飛ばされそうなほどものすごい風圧と共に空に飛んでいった。普通に走っていけよ……。
そしてしばらく滝を眺めたりしてボーっとした後、家に戻る事にした。
家の目の前に着き、中に入ろうと扉を開けようとすると、丁度ハイリが出てきた。
「あ、ハイリ? ベルナルドさんの所にでも行くのか?」
少し間が空くのでどうしたのだろうとちゃんと顔を見ると、間もなく応答してくれた。
「ああ、親父にも顔出さないとだからな。それよりアキ、ちゃんと見てやれよ」
肩に手をのせてくると、ハイリはしんしんと降る雪の中ベルナルドさんの家の方向へと歩いて行った。
ちゃんと見るってどういう事だろう? ハイリの言葉に疑問を浮かべつつ中に入ると、ティミーが一人机に向かっていた。確かヘレナさんはリュネットさんの所でお茶でもしてたかな。
そういえば俺もそろそろ自立できる歳だし、そろそろここを離れてもいいかもしれない。
「ねぇアキ」
ティミーはすっとこちらに身体を向けると話しかけてくる。
「なんだ?」
とりあえず魔術読本でも久しぶりに読むかと投げ出してあった本の元へ向かいながら答える。
「ちょっと散歩、しない?」
「えー……今帰って……」
講義の声を上げようとティミーを見ると、その表情は今にも泣きだしそうで、それは少なからず俺の心をチクリと刺した。まぁ、ほんとに寒けりゃ魔術があるしいいだろう。
「まぁそうだな、行くか」
「あ、ありがとう。ちょっと待ってね」
ティミーは慌てた様子で支度を始める。
間もなくして準備が整ったらしく、俺も傍にかけてあったコートを着ると再度雪の中へと身を投じた。
しばらく辺りを無言で歩く。
空には重い灰色の雲が垂れ込み、一層寒さを体感させられる。
「さ、最近晴れないね」
ティミーも空を見ていたのか、そんな事を言いだす。
「そうだな」
確かに、そろそろお天道さまも姿を現してもいいと思う。
「その、あれだね、こうして村を歩くの久しぶりだよね」
「そうだな」
転移石も腐るほどあるわけじゃないから帰ってなかったからな。前に帰ったのがいつだっけな。
「み、みんなどうしてるかな……」
その言葉に自然と足が止まる。あかりは今頃どこで何を……。
「どうしたらいいんだろ……」
少し先を歩いたティミーはふと立ち止まり、俺に背を向けながら唐突にそんな事を言いだす。
「どうしたらって……何を?」
「学院が無くなっちゃったのは悲しいけどみんないなくなったわけじゃない」
「な、なんだよ……」
「みんなとはまた会おうと思ったら会えるんだよ?」
会える? 確かにアルドやアリシアやコリンとは会えるだろう、でもあかりとは……。
「確かにね、キアラちゃんはどこかへ行っちゃったよ」
キアラというワードに胸をわしづかみされたような感覚を覚える。
「でもみんなと同じでいないわけじゃない。またどこかで会えるんだよ」
確かに、その通りだ……でも……。
「ねぇ、なんで? なんでアキはそんなにも元気が無いの?」
「別に……元気が無いわけじゃ……」
「嘘、ずっと辛そう!」
ティミーが力強く振り返る。しかしその動作とは裏腹に、ティミーの頬には雫が伝っていた。
「どうしたの? どうしたら前みたいに元気になってくれるの? ねぇ、何かあるんだったら相談してよ……私嫌なんだよアキが悲しそうにしてるの見るの……!」
ああ、馬鹿だ。
こんなにも心配してくれる子がそばにいて、なのに自分が世界の全ての不幸を背負ったみたいに思いつめて。俺はまた同じような過ちを犯すところだったんじゃないのか? また人を傷つけるところだったんじゃないのか? あの瞬間を思い出すと後悔しかない。だからと言ってずっとその事を振り返り続けて何になるんだろうか? 目の前にいる大切な友達を泣かせてほんと何をしてるんだ俺は……。そうなんだよ、あかりはいないわけじゃない。きっといつかひょっこり出くわすだろう。その時にちゃんと、全部伝えればいい。
「ほんと些細な事だったんだ。最近色々起こったせいでついつい感傷的になってたよな。確かに色々考えすぎてた。だから泣くなよ。俺だってティミーが悲しんでるところは見たくない。ほんとごめんティミー。あと、ありがとう」
あかりには伝えられなかったこの言葉、今回は忘れずにつけて置く。
「アキの……ばかぁ……」
そう呟くとそのまま泣き崩れてしまった。ちょ、待って、そんなに泣く事ないだろ? え、待ってよ。
とりあえず駆け寄り背中をさすってやる。
「まったくよぉ、お前も男になりやがってよぉ?」
こ、この声は……。
そばにあった木の上から人影が舞い降りてくる。
「やれやれ、罪深いなぁ……」
ハイリこいつ……ニヤニヤしやがって。
「ち、違うんだハイリ! ほら、なんだ、別にそういうんじゃなくてだな……いやでも俺が悪いよなこれ?」
「おお、自覚したか。えらいなぁ、よし、ここで熱いキ……」
「馬鹿かお前は!」
突拍子も無いワードをハイリが吐きそうだったので慌ててそれを制する。キってなんだよキって! どこのおっさんだよてめぇは!
「まぁなんだ、とにかく仲直りは終わったみたいだな」
ハイリの顔が嬉しそうに綻ぶ。こいつもこいつでけっこう心配してくれてたみたいだ。
「ああ、そうだな。ハイリもありがとう」
「なっ、べ、別に俺は何もしてないぞ? ど、どういう事だ」
「うぅ……ハイリが話聞いてくれたから頑張れたの……ありがとう……」
泣きじゃくりながらもティミーがそう口にする
「わっ、ティミーまでなんだよ! ほんとなんもしてねえから!」
なるほど、もしかしたらまたハイリに助けられたかな?
この先俺の身には何が起こるだろう? もしかしたらこのままずっと平和なのだろうか? どうせ異世界に来たならこの世界を周るのもまた一興かもしれない。あかりに出会う可能性も増えるだろうし。
まぁでも、冒険云々はさておき、とにもかくにも前を向いて生きよう。
あんまり後ろばかり見てるとティミーが悲しむからな。
今回の事件で死亡者は数名、重軽傷者は五百名以上。幸いにしてカイルの方針のおかげか生徒側に死人は出ていない。しかし彼らにつけられた精神的外傷は計り知れないもので、事件について聞かれると誰もが戦慄して震えるという。まぁぬくぬく安全圏で育ってきたんだから無理も無い。
そしてその黒ローブの連中はS級犯罪組織認定という、最上位手配措置を受け、その話は国境を越えて各地に広まった。しかしなにぶん奴らはローブで身を隠していたので、具体的な手配書として発行されたのはカイル、ヒスケ、テツの三人だけだ。
ルーメリア学院だが、絶対安全だと思われていた学び舎なだけあり、大陸中に衝撃が走った。
内部にS級犯罪組織の一員を加えてしまい、それが起因して加護が破壊され、なおかつ生徒に多大なる肉体的、精神的苦痛を与えたことにより、校長、教頭共にその責任を問われ、もちろんの事、教育の現場に改めて立つことはもう無理だろう。教頭はともかく、校長は少し気の毒な気がする。
ちなみに王国側の問題も指摘されている。今回の事件の時、騎士団の大多数は鉱脈調査など、王都の外へと繰り出されていて留守隊はたったの一部隊。一部隊の数はせいぜい十数人程しかいないのでかなり厳しい状態だったはずだ。
ラストにキアラの事だが……それについては皆には話してある。俺らの話は除いてだ。
それを聞いて全員が驚愕していたが、一番驚くべきコリンだけは納得した様子を見せ、あっけらかんと笑って見せたのは何か思うことがあったのだろうか。
学院が無くなり、学ぶ場所がなくなった生徒たちは皆故郷に帰った。それは俺も同様だ。
結果として俺は卒業せずに済んだ、だが決してこんな形を望んだわけではない。そもそも学院が無くなってしまっては元も子もないというものだ。
今、ディーベス村でじれったいほどにゆっくりと流れる時間を過ごしている。あの日々を懐古しながら。
「ねぇアキ……」
「なに」
「ごめんなんでもない」
「そうか」
適当に返すと、そのままどこへ行くでもなく家の外へ繰り出す。
外に出ると、辺りは寒々しく雪で覆い尽くされており、その光景だけでも身震いするほどだ。王都で買った防寒着もあまり役立たない。
黙って歩いていると、おのずと学院の事を考えてしまう。
あの場所には楽しい日常で満たされていた。そして何よりもキアラ――あかりはこの場所には居ない。今思えばあいつの笑顔や一つ一つの挙動に幾度と無く心を洗われた。一緒に過ごすのがとても楽しかった。
でも、それは俺だけだったんだろう。ひょっとすると同じ気持ちなんじゃないかと考えたこともあった。でもたぶんそんなことは無い。あんな事をしといて、あんな事を言っておいてそれでも友達として接してくれたあいつには感謝すべきだ。
だからこそ会いたい。会ってちゃんと謝りたい。許してもらえるか云々は後だ、とにかく謝らない事には始まらない。
そうだよな、止めればよかったよな、止めて無理やりにでも謝るべきだったんだ。
完全に自覚した、あんな言葉をぶつけておいて、約束を破っておいて、それでも自分勝手に俺はまだあかりの事を思っている。時間が経てば忘れると昔思っていた。実際、心の表層では全部自分で捨てたんだと割り切って彼女への気持ちを忘れてはいたかもしれない。でも深層ではずっと忘れてはいなかった。今になって、いやあるいはもう少し前から、それはひょっこりと姿を現し、それと同時にどうしようもない罪悪感も同じく姿を現した。
なんて俺は勝手な人間なんだろう。傍若無人、厚顔無恥、なんとも醜い人間。
ふと目の前を見ると、いつの間にここまできたのか、目の前には良く知る滝があった。
ボーっと眺めていたところ、背後からけたたましい音が聞こえたので振り返ってみると、そこにはハイリの姿があった。どうやらまた例のごとく派手に飛んできたらしい。
「よっ、久しぶり!」
「ああ、久しぶり」
「なんだ? 元気がないぞ?」
「そうか?」
特に何を考えるでもなく返事していると、ハイリは申し訳なさそうに顔を伏せる
「その……学院の件、悪かったな。俺も急いんだんけど間に合わなくてよ……」
「……いや、ハイリが謝る事じゃない」
一瞬、ハイリがいてくれれば学院は救われてて、今頃寮の皆やあかりと笑っていられたかな、などと思ってしまったがすぐに思いなおす。
ハイリは何も悪くないし、騎士団だって悪くない。王国だってまさかあんな事が思うなんて考えもつかなかっただろう。
「そう言ってくれると助かる。そういえばティミーと一緒じゃないのか?」
ティミーか……そういえばあんまり最近ちゃんと話した気がしない。
「ああ、たぶん家」
「ふーん、珍しい事もあるもんだな」
確かに、言われてみればだいたいこの村では一緒に行動してたよな。まぁ同年代が二人しかいないわけだから自然とそうなるだけだろうけど。
「会いに行ってやれよハイリ、ティミーもお前が来たって知ったら喜ぶぞ。あとベルナルドさんも」
「まぁそうするか……。また後でな」
「おう」
ハイリは最後に俺の背中をポンと叩くと、危うく身体が飛ばされそうなほどものすごい風圧と共に空に飛んでいった。普通に走っていけよ……。
そしてしばらく滝を眺めたりしてボーっとした後、家に戻る事にした。
家の目の前に着き、中に入ろうと扉を開けようとすると、丁度ハイリが出てきた。
「あ、ハイリ? ベルナルドさんの所にでも行くのか?」
少し間が空くのでどうしたのだろうとちゃんと顔を見ると、間もなく応答してくれた。
「ああ、親父にも顔出さないとだからな。それよりアキ、ちゃんと見てやれよ」
肩に手をのせてくると、ハイリはしんしんと降る雪の中ベルナルドさんの家の方向へと歩いて行った。
ちゃんと見るってどういう事だろう? ハイリの言葉に疑問を浮かべつつ中に入ると、ティミーが一人机に向かっていた。確かヘレナさんはリュネットさんの所でお茶でもしてたかな。
そういえば俺もそろそろ自立できる歳だし、そろそろここを離れてもいいかもしれない。
「ねぇアキ」
ティミーはすっとこちらに身体を向けると話しかけてくる。
「なんだ?」
とりあえず魔術読本でも久しぶりに読むかと投げ出してあった本の元へ向かいながら答える。
「ちょっと散歩、しない?」
「えー……今帰って……」
講義の声を上げようとティミーを見ると、その表情は今にも泣きだしそうで、それは少なからず俺の心をチクリと刺した。まぁ、ほんとに寒けりゃ魔術があるしいいだろう。
「まぁそうだな、行くか」
「あ、ありがとう。ちょっと待ってね」
ティミーは慌てた様子で支度を始める。
間もなくして準備が整ったらしく、俺も傍にかけてあったコートを着ると再度雪の中へと身を投じた。
しばらく辺りを無言で歩く。
空には重い灰色の雲が垂れ込み、一層寒さを体感させられる。
「さ、最近晴れないね」
ティミーも空を見ていたのか、そんな事を言いだす。
「そうだな」
確かに、そろそろお天道さまも姿を現してもいいと思う。
「その、あれだね、こうして村を歩くの久しぶりだよね」
「そうだな」
転移石も腐るほどあるわけじゃないから帰ってなかったからな。前に帰ったのがいつだっけな。
「み、みんなどうしてるかな……」
その言葉に自然と足が止まる。あかりは今頃どこで何を……。
「どうしたらいいんだろ……」
少し先を歩いたティミーはふと立ち止まり、俺に背を向けながら唐突にそんな事を言いだす。
「どうしたらって……何を?」
「学院が無くなっちゃったのは悲しいけどみんないなくなったわけじゃない」
「な、なんだよ……」
「みんなとはまた会おうと思ったら会えるんだよ?」
会える? 確かにアルドやアリシアやコリンとは会えるだろう、でもあかりとは……。
「確かにね、キアラちゃんはどこかへ行っちゃったよ」
キアラというワードに胸をわしづかみされたような感覚を覚える。
「でもみんなと同じでいないわけじゃない。またどこかで会えるんだよ」
確かに、その通りだ……でも……。
「ねぇ、なんで? なんでアキはそんなにも元気が無いの?」
「別に……元気が無いわけじゃ……」
「嘘、ずっと辛そう!」
ティミーが力強く振り返る。しかしその動作とは裏腹に、ティミーの頬には雫が伝っていた。
「どうしたの? どうしたら前みたいに元気になってくれるの? ねぇ、何かあるんだったら相談してよ……私嫌なんだよアキが悲しそうにしてるの見るの……!」
ああ、馬鹿だ。
こんなにも心配してくれる子がそばにいて、なのに自分が世界の全ての不幸を背負ったみたいに思いつめて。俺はまた同じような過ちを犯すところだったんじゃないのか? また人を傷つけるところだったんじゃないのか? あの瞬間を思い出すと後悔しかない。だからと言ってずっとその事を振り返り続けて何になるんだろうか? 目の前にいる大切な友達を泣かせてほんと何をしてるんだ俺は……。そうなんだよ、あかりはいないわけじゃない。きっといつかひょっこり出くわすだろう。その時にちゃんと、全部伝えればいい。
「ほんと些細な事だったんだ。最近色々起こったせいでついつい感傷的になってたよな。確かに色々考えすぎてた。だから泣くなよ。俺だってティミーが悲しんでるところは見たくない。ほんとごめんティミー。あと、ありがとう」
あかりには伝えられなかったこの言葉、今回は忘れずにつけて置く。
「アキの……ばかぁ……」
そう呟くとそのまま泣き崩れてしまった。ちょ、待って、そんなに泣く事ないだろ? え、待ってよ。
とりあえず駆け寄り背中をさすってやる。
「まったくよぉ、お前も男になりやがってよぉ?」
こ、この声は……。
そばにあった木の上から人影が舞い降りてくる。
「やれやれ、罪深いなぁ……」
ハイリこいつ……ニヤニヤしやがって。
「ち、違うんだハイリ! ほら、なんだ、別にそういうんじゃなくてだな……いやでも俺が悪いよなこれ?」
「おお、自覚したか。えらいなぁ、よし、ここで熱いキ……」
「馬鹿かお前は!」
突拍子も無いワードをハイリが吐きそうだったので慌ててそれを制する。キってなんだよキって! どこのおっさんだよてめぇは!
「まぁなんだ、とにかく仲直りは終わったみたいだな」
ハイリの顔が嬉しそうに綻ぶ。こいつもこいつでけっこう心配してくれてたみたいだ。
「ああ、そうだな。ハイリもありがとう」
「なっ、べ、別に俺は何もしてないぞ? ど、どういう事だ」
「うぅ……ハイリが話聞いてくれたから頑張れたの……ありがとう……」
泣きじゃくりながらもティミーがそう口にする
「わっ、ティミーまでなんだよ! ほんとなんもしてねえから!」
なるほど、もしかしたらまたハイリに助けられたかな?
この先俺の身には何が起こるだろう? もしかしたらこのままずっと平和なのだろうか? どうせ異世界に来たならこの世界を周るのもまた一興かもしれない。あかりに出会う可能性も増えるだろうし。
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